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教育ICT

AIには起こらない「創発性」の発揮~探究で「子どもの哲学」を実践 立教大学 河野哲也教授

2023年4月4日
教育の情報化推進フォーラム

河野教授は「子どもの哲学」を用いた探究的な学びの実践を報告した。

■哲学対話で探究する

立教大学 文学部教育学科 河野哲也

立教大学
文学部教育学科
河野哲也

探究的な学びにおいて期待される力とは、変化の激しい社会において予想外の問いについて考える思考力や、多様な人々と協力しながら新しい価値を創造する力とそのためのコミュニケーション力である。

これらの力を育む上で効果的な手法の一つに「子どもの哲学」(Philosophy for Children)がある。あるテーマ(問い)について対話を通して思考を深め哲学的な次元まで高めていく活動を哲学対話といい、これを子供同士あるいは大人と子供を交えて行う教育活動が「子どもの哲学」だ。幼稚園から高校まで様々な年代で、大学と連携しながら、道徳や総合的な探究の時間を通して対話を用いた探究学習の実践に取り組んできた。

■創発性とは

探究的な学びが求められる背景には社会の大きな変容がある。科学と学問は横断的で総合的な文理融合の研究が主流になりつつあり、専門家は共同して研究を進めている。AIの進化により人間にしかできない領域の重要性も増す。1つが創発性(emergence)だ。これは共同作業により偶然的な要因で新しいクリエイティブなものが生まれることを指す。広い視野を持って総合的な関係を見る力や多様な分野の異質な人々と互いの専門性を補い合いながら協働する力が問われている。

大学と高校の教育上のギャップも探究的な学びにより解決できる可能性がある。大学での学びは高校までと異なり、自ら論文を調べ要約し意見を付け加えてディスカッションする。高校までに総合的、探究的な学び方を身に付けた学生とそうでない学生の間には、知識の量の差ではなく方法とスキルの質的な差が生じている。情報機器活用の面でもスマートフォンしか扱えない人と、様々な形で機器を使いこなし情報を活用している人の間には差が生じている。

■オンラインを活用

岩手県立高田高等学校と立教大学の合同授業では、SDGsをテーマに哲学対話を用いながら探究学習を展開。「環境と人権はどう関係しているか」「自然と調和する社会はなぜ同時に人権を守る社会であるのか」と問いを投げかけ、学生がファシリテーターとなって生徒の対話を促し、Zoomでのオンライン学習会、現地でのフィールドワークの後プレゼンテーションを行った。

沖縄アミーインターナショナルスクール5年生の実践はすべてオンラインで行い、子供たちの議論を学生が遠隔で支援。オンラインだと子供全員の表情が分かり、場所と時間を問わず人を集めやすい、資料が提示しやすいという利点がある。対面よりも話しやすいという子供もいる。反面、場を共有しにくく子供の状態の情報が限られ、関心を持っているか、集中力が切れていないかなどの把握は難しい。改善の余地があると考えている。

■「子どもの哲学」実践のポイント

「子どもの哲学」に取り組む際には、学校全体で民主社会的な雰囲気を作り、意見を言いやすい場づくりを進めるとよい。「自分の意見を受け入れてもらえる」という安心感が対話において大切だ。子供が話したい内容を話すことも重要で、話したくなる動機付け、驚きが生じる教材が必要。まずは対話する文化、態度を身に付けることを目的に取り組み、徐々に様々な科目に横断的に広げていくといい。

■対話には「思考」 思考には「問い」が必要

対話は思考していることが大前提だ。思考は問いから生じる。何かが上手くいかないときや異質なものとの出会いなど、驚き、戸惑ったときに問いが生まれ思考が働く。驚きの生じる教材と子供の主体的な問いをもとに対話することで探究する思考力とコミュニケーション力が育まれる。

対話では他人という鏡を助けにしながら、知らず知らずに持っていた前提や思い込みを問い直すことで考えを深め、相手と自分がともに変容していく。利益の絡む交渉や相手の説得を目的とするディベートとも異なり、相手を理解し、同時に自分の考えを変容させていく経験を積むことで、自己変革力が身につく。

■同じ意見も表明する

対話では同じ意見であっても「同じ意見である」と発言する。これを独立あるいは自立という。意見の相違に関わらず、相手も自分も互いに独立した異なる存在として認めることが対話における人間関係の基本条件となるためだ。異なる人々が1つの共同体を形成し同じテーマに接することは、インクルーシブな力の習得につながる。

実践を経た子供たちは「友だちがこんな考え方を持っているとは思わなかった」「自分の考えとは違う考えを持っていたとわかった」など、一緒にいる友達でも自分とは違う独立の他者であることを認知するようになる。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載

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