山形大学は人文社会科学部、地域教育文化学部、理学部、医学部、工学部、農学部の6学部と6つの大学院研究科が設置され、約9000人の学生が学ぶ、東日本でも有数の規模を誇る総合国立大学だ。
同学では23年度入学生から、リテラシーレベルのデータサイエンス教育(※)を全学で必修化。地域と連携した実学志向のデータサイエンス教育を実現させるため、その基礎となるリテラシーレベルからの教育の充実を図る。(※、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」による教育段階)
データサイエンス教育の取組は2017年度から始まった。
まず理学部にデータサイエンスコースカリキュラムを設け、データサイエンス教育をスタート。18年度にデータサイエンス推進室、19年度には山形大学データサイエンス教育研究推進センターを設置して全学的なデータサイエンス教育の充実を図り、地域連携による教育・研究の推進に取り組んでいる。同センターは「教育」「地域連携」「カリキュラム・教材開発」の3部門で構成される。
21年度には1年次の講義科目を整備してオンデマンド教材(「データ解析基礎」、「データサイエンスⅠ」)を開発。一部を選択科目として開講した。これらの講義では、デジタルデータの種類や性質を理解して、現代社会を理解する上で必要不可欠なデジタルデータの扱い方を習得する。
22年度には、応用基礎レベルの講義「AI・データサイエンス要論」を開講した。
データサイエンスのリテラシー教育と専門教育の橋渡し的な位置付けとして、22年度後期、理学部において「地域デジタルデザイン思考演習」の講義を新たに始めた。
これは地域社会や環境に関するデータを収集し、情報に変換して、起きている現象を把握するデータ処理思考力を養うものだ。
前例のない課題や未知の課題に対してデザイン思考からアプローチし、具体的な地域課題解決の糸口を演習形式で探り提案できることを目標としている。
講義前半では、受講生が県内の米沢市、朝日町、蔵王を訪れ、データ計測方法の基礎を学ぶ。
後半では、地域のキーパーソンから地域課題の現状などを聞き、デザイン思考のアプローチから、課題解決に向けたデータ計測や調査、システム試作などの演習を行う。
講義は次の4部構成だ。▼第1部 データ計測と情報処理の基礎を学ぶ(講義) ▼第2部 データ収集方法を学ぶ(フィールドスタディ) ▼第3部 地域課題を学ぶ(パネル討議) ▼第4部 デザイン思考に基づき地域課題の解決の糸口を探る(グループ演習)
グループ演習のテーマは「移住」や「地域の産業」など。
「学生は、研究対象の計測、調査を通して思考力を養います。この力は卒業後、一般社会で役に立ちます。大学時代、学生が自分の専門が社会に役立つこと、または逆に、専門だけでは足りないことを知るのは、学習意欲を高めるためにとても大切です。そのため、地域社会の皆様のご協力を仰ぎながら、学生を育む講義を設けることにしました」(山形大学学術研究院奥野貴士准教授)
同大学の教育環境の特徴のひとつは、豊かでダイナミックな自然や多様な文化を育む地域社会を舞台に、実践的な教育を展開できる点にある。
得られたデータや調査結果は、次年度に引き継ぎ、継続的かつ発展的に地域課題の解決に対して、学生が向き合うことを想定。地域の課題解決に大学として継続的に取り組むこととしている。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載