2021・22年度の印西市教育委員会指定・情報教育公開研究校である印西市立原山小学校(松本博幸校長・千葉県)は児童の情報活用能力育成に体系的に取り組んでおり、「情報教育」分野で2022年度学校情報化先進校に認定された。2月21日3時間目の校内の様子を取材した。ほぼ全教室で児童が端末を使って共有し、話し合いを進めていた。
4年生は学級活動で「Googleチャットのルールづくり」に取り組んでいた。クラスで共有しているチャット上にGoogleチャットでできることを書き込み、それらを見ながら各自がベン図やマトリクスに分類。4年2組のルールを考えた。大型提示装置には4分割で児童端末4台の画面を表示しており、全体で進捗を共有。児童の書き込みがリアルでわかる。
教員は児童の様子を見取り、まとめが進んでいる児童に「キャストして」と依頼。児童は自席から自分の端末画面を無線画面転送(キャスト)して自分のベン図を大型提示装置に表示した。教員は参考になる事例として紹介した。
5年算数では「変わり方調べ」の単元で、正方形を30個作ると「ぼう」が何本必要か、図や表で考えて決まりを見つける学習だ。大型提示装置には、問題文と児童の図、表など複数端末の画面を提示して共有していたが、正方形6個の図に端末上でマーカーの色を変えて数えている児童の方法を全体に紹介するため、教員は児童端末からキャスト機能で大型提示装置に転送・表示した。
3年理科では、原山サイエンスコンテストのため、磁石の性質を利用した作品づくりに取り組んでいた。作品の工夫等についてプレゼンデータをまとめており、それが終わった児童は、実物を見せて遊び方や仕組みを説明し合っている。その後、さらにプレゼンデータを修正している児童もいた。
2年国語では、音や様子を表す言葉についての学習だ。端末上に配信された問題文に「たくあん」が出てくると、教員はすぐに提示画面に多数のたくあんの写真を提示した。
同校では、教員や児童の端末画面を無線で大型提示装置に提示する仕組みとして「TrinityVision(トリニティービジョン)」を先月導入したばかり。既にほぼすべての授業で活用されていた。授業を行っていた教員は「教室内を移動して児童の様子を見ながらその場で提示したいものをすぐに提示できる」と話した。
同校では端末やクラウド環境を児童主体で活用しており、学びのスタイルも活発で、導入して間もない機器もすぐに活用している。スムーズな活用は、これまでの情報活用能力育成の取組が下支えになっている。同校のこれまでの取組と無線画面転送装置導入の経緯を松本校長に聞いた。
本校では「文脈の中で情報を活用する」ことを教育課程に盛り込んでおり、児童が端末を使って発表する機会も多い。しかしかつての環境では有線接続をする必要があり、発表する児童ごとに接続し直したり、教員が提示画面を選択して表示するという作業が必要で、児童主体の活動を阻害している面があった。もっと自由に効率的に児童の端末内容を提示できる仕組みがほしいと考えていた。
2022年10月に春日井市で開催された全日本教育工学研究協議会全国大会(JAET)の展示で無線画面転送装置「TrinityVision」を見た際、教員も児童も任意のタイミングで大型提示装置に無線で提示(キャスト)できるので「有線接続による画面提示」から解放される、自分の思いや考えを発信しやすい環境を提供できると考えた。
すぐに導入するためには学校予算等で準備する必要がある。そこでまずPTA活動で活用した。PTAも今は端末で発表する時代である。持ち運びしやすくどこででもプレゼンができるとPTAにも好評で、児童生徒にも活用したいことを伝え、PTA予算で全15教室(普通教室+特別教室)に導入することができた。使い勝手も簡単で、すぐに活用が始まった。
「TrinityVision」は、手元の端末内容を全クラスの提示画面に一斉提示することができる、全校放送システム機能もある。すべての児童がこの機能を手にすることについて、心配する学校もあるかもしれないが、本校では情報活用能力育成の1つとしてデジタル・シティズンシップ教育を重視しており、何か問題が起こっても対応できるという雰囲気がある。教員や児童に情報活用の重要性が浸透していると、新たな仕組みもその効果を発揮しやすいと感じている。
GIGA端末配備前から対話や発表活動を重視しているが、1人1台端末配備によりその活動の幅が年々広がっている。課題解決学習や教科学習のほか、係や委員会活動、朝の1分間スピーチ(4年生以上)でも端末を活用している。韓国の小学校と定期的に英語で交流したり、英語を使ったプログラミング学習も行っている。
本校では「社会とつながる情報教育×情操教育×市民教育」をテーマに「デジタル・シティズンシップに関する学びの充実や持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえた地球市民意識を教科等横断的に育てる」という観点で教育課程を編成しており、各学年の学習活動を定めて思考スキル、日本語の論理力、プログラミング的思考を系統的に鍛えている。
思考スキルについては思考ツールに紐づけて比較・分析・順序付け・関連付け・理由付け・抽象化・評価・構造化の方法を身に付ける。
日本語の論理力も重要だ。様々な情報を正しく読み取るためには主語・述語や因果関係等の論理的な理解が前提である。そこで日々の帯時間(約25分間)で週2回、『論理エンジン』に取り組んでいる。
デジタル・シティズンシップについては、米国Commonsense Education財団が制作したデジタル・シティズンシップ教材動画(日本語字幕版)を利用。自分で判断し、責任を持ち、正しいふるまいを身に付けた上でデジタル技術を用いて市民社会に参画できることが目的だ。
いずれも長期的・段階的に取り組むことで、教員も各教科の学びと連携を図るようになる。
現実的・具体的な文脈の中で情報活用を行うため、例えば総合的な学習の時間を軸として各教科連携で行う「SDGs」をテーマにした課題解決学習や、エシカル消費を広めるプロジェクト、自分たちにできる国際協力を行うプロジェクトなどを、様々な企業やNPO団体の協力を得て行っている。いずれの活動も「問題の発見」「定義」「探索・計画立案」「予測・計画実行」「ふり返り」という情報活用の過程を盛り込んでいる。
今年2回目となるルワンダとの交流では、世界の現状について情報収集・分析し、ビデオレターでやりとりすると共に現地のカラフルな布を購入してポシェットやマスク入れ等様々な小物をPTAの支援のもと家庭科で制作。来月には地元の大型商業施設内で販売する。昨年は約10万円の売上があり、募金の一部とした。自分の行動が社会に影響を与えることの体験や地元の温かい応援を得る体験で、児童は自己効力感が向上し、次の行動につながっていく。
社会とのつながりが難しい際は校内コンテストを開催するなど様々な仕掛けを考えて文脈を作っている。
その一環で学校公式の子供ブログも立ち上げた。高学年が当番制で公的な立場で学校の良さを発信する活動だ。また、1年生から1人ひとりのポートフォリオサイトもGoogleサイトで立ち上げ、学習履歴を格納。どのような情報であればネット上にアップして良いのかを具体的に考えるきっかけとしている。いずれもデジタル・シティズンシップ教育の実践の場だ。
5・6年生はCBTで「Pプラス デジタル・情報活用検定」も行っている。検定結果によると「情報収集」「情報の整理」「情報の伝達」「機器の操作」については両学年とも全国平均より高く、特に「情報の表現」項目の伸びが著しい。タイピングについて2020年度の6年生は58文字/分で、2021年度は104文字/分に向上した。いずれの能力も、今年はさらに伸びている感覚がある。様々な文脈で情報活用を積み重ね、発揮してきた成果の1つである。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月6日号掲載