1月25日、全国ICT教育首長シンポジウムがGoogle合同会社渋谷オフィスで開催され、9自治体の首長や教育長、教育委員会がオンラインと対面で登壇。各自治体のGIGA端末活用の広げ方や特徴的な取組を報告した。特別講演として文部科学省初等中等教育局の山田哲也課長(修学支援・教材課)は2023年度の主要施策について話した。
春日井市(小学校38校・中学校16校・私立学校1校)では2022年10月、JAET大会の開催地域として授業を公開。全国から1600人が集まった。1人1台端末により、毎時間の授業や単元を児童生徒自身が見通した学習がやりやすくなった。各自で情報収集して整理したうえで生徒同士が対話して思考を深めている。教員も、児童生徒の作品やレポートの途中を共有できるので気付いたときにアドバイスができ、作品やレポートの質が上がっている。
個別学習では3段階の問題を各自で選択して進めている。
授業で身に付けた力を学級活動や生徒会活動等で発揮している。一斉指導ではなく子供に委ねる部分を増やすことで力がつき、教員の授業観も変わった。チャットの活用も始まっている。教員同士が気軽に実践や疑問を共有できる。
各自で自己分析する取組も始まった。自分ができたかできなかったかを可視化して自己調整につなげている。
春日井市では授業視察を積極的に受け入れている。
今後も教育DXをさらに推進し、GIGAスクール構想をけん引していきたい。
埼玉県久喜市(小学校21校・中学校10校)では「久喜市版未来の教室」に取り組んでおり、オンライン教育やハイブリッド授業が日常化している。
適応教室やフリースクール等いずれも参加が難しいという生徒もいる。そこで2022年度から中学校で、登校が困難な生徒の学習機会確保のため、「久喜市共同オンライン分教室(KDX教室)」を設置した。室長は拠点校の学校長、副室長は拠点校の加配教員(生徒指導充実担当)。教員は市内中学校あたり1人以上で全教科を網羅した。
生徒募集の際は、参加したくなる環境条件を考えた。希望する教科、曜日、時間を選択できるようにし、Googleスプレッドシート上の時間割をクリックすると授業に参加できるようにした。生徒は最初と最後に顔出しをするが、授業時間中はオン・オフ自由としている。ふり返りはGoogleフォームを活用。今年度から始め、9名の生徒が活用している。対面授業よりも積極的にコミュニケーションを図る生徒も多い。教員は、KDKに関わることで、所属校での授業や各種校務について良い影響がある。保護者からも感謝が届いていると聞いている。
今後はメタバースの仕組みを利用した環境も考え、時間や距離に制約されない、より良いオンライン分教室としたい。
網走市(小学校8校・中学校5校・小中学校1校)では1人1台端末配備後の2022年10月、全教室に大型提示装置を整備した。
モデル校では小学校3年生もキーボード入力をし、調べたことをまとめ、皆の意見を集約して発表している。動画を資料に張り付けるなどスキルの高さに驚いた。キーボードが苦手な低学年については音声入力もしていると聞いた。
学校に来ることができない児童のためにハイブリッド授業も行っている。ベテランのノウハウを若手がICTに盛り込んで授業を進めている。
GoogleフォームやGoogleカレンダーの利用で働き方改革にもつながっている。
環境があれば、子供の活動が広がる。すべての学校の環境を整えることは極めて重要であると感じている。さらにモデル校の実践を横展開していく。
小規模校から大規模校まである野田市(小学校20校・中学校11校)では2022年11月に野田市ICT推進校で全クラス全教科の公開授業を実施。Google for Education事例校は2校。現在さらに2校を申請中だ。
今年度から授業改善、リーダーの育成、さらなる活用の3つを目的に、プロジェクトNICT(NODA-ICT)として実施している。
端末に「ふれる」から「つかう」フェーズとするため、ICT推進校が中心となり事例を共有。ICT活用状況の二極化を改善するため、実践例のシェアを図っている。
ボトムアップを進めるため定例会を見直した。各ブロックのリーダーを3人・4ブロック計12人に増員して計8回実施。指導課と連携を強化し、オンラインで事例を共有したり新たな取組で連携したりしている。
市内の小学校では毎週水曜日、端末と大型提示装置を使って自分たちが自由なテーマで調べたことを発信するプレゼンイベントを実施しており、他校とも連携している。
管理職向けや基本的な内容等、内容を分けて研修も実施。
6月と12月に調査したところ、教職員の端末活用率は大きく伸びた。
端末活用をきっかけに業務改善にもつながり、学校の垣根を超える学習が可能になっている。
活用が進んだきっかけとして実践事例共有が重要であると感じている。NODA GIGA NETに授業実践例を掲載しており、検索しやすいように工夫した。現在は150事例程度掲載しており、次年度はさらに拡大したい。
戸田市(小学校12校・中学校6校)では現在、「主体的・対話的で深い学び推進のための授業改善」「戸田市教育政策シンクタンクによるデータ活用」「ICTの文具的活用と学びの改革」「実社会のリアルな課題による探究的な学び」等に取り組んでいる。
毎年計画を見直して1枚にまとめ、Webに掲載して共有。これまでに270企業との連携がある。本計画には、各施策に関わる企業や大学・機関名も記載している。
2020年から第2フェーズに取り組んでいる。
教育データ利活用では、教育政策シンクタンク(2019年設置)で教育総合データベースを構築。デジタル庁の「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」で様々なデータを掛け合わせて生徒指導に関するアラートを出すなどSOSの早期発見・支援等につなげることをめざしている。
不登校・長期欠席の子供たちの学びの充実のため、戸田型オルタナティブ・プランを策定。その一環で全小学校に校内サポートルーム「ぱれっとルーム」を設置。これは大きな効果があった。ここでは様々な企業とも連携しながらスクールサポーターを設置してICTを活用した学習支援や教育相談を行っている。県立学校の近くにも設置した。
さらに、認定NPO法人カタリバと連携協定を結び、オンライン上のメタバース教室も始める。どこともつながりのない不登校児童が1人でも多くつながることができるように、「つながりたい」と思える場を作りたい。
ICTは使うだけではなく、カリキュラムオーバーロードをどうクラウドで解決していくかを考えながら、教育改革と一体で取り組むべきであると考えている。その実現のためには首長部局と教育委員会が日常的に連携することも重要である。
この10年で吉岡町(小学校2校・中学校1校)の人口が増えており、現在人口約2万人のうち1割が児童生徒である。
住みたいまちであり続けるために児童生徒の学習環境の整備を進めている。その1つが2020年度からスタートした『HiBALIプラン』(吉岡町GIGAスクール構想)の推進だ。初年度のver.1・0では、端末配備とその活用開始を目指し、昨年度のver.2・0では、各校が研修し、授業や家庭学習に取り入れる段階とした。この年にGoogleパートナー自治体となった。
今年度はver.2・1として、新規アプリケーションやe-ポータルサイトを導入。目的に合わせて活用できることを目指している。
今年度の新たな取組として、欠席連絡管理ツールの把握、Gライフログ(家庭学習ログ)の活用、その日の気分の入力・可視化、定期テストのデジタル化、授業実践の共有、チャットの活用などに取り組んだ。チャットにより町内教員と教育委員会が情報共有・協働編集等ができ、効率化につながった。GIGAスクール構想運営支援センターの構築にも取り組む。今後は2023年度版『HiBALIプラン3・0』を策定・推進する。保護者への周知も重視したい。児童生徒の未来を創るための学習データ活用も進める。
秋田県教育委員会(県立学校51校)では2020年3月、全県立学校に1人1台端末を約2万台導入。授業を行うすべての教室に大型提示装置や実物投影機を整備した。
2022年度には「ICTを活用した秋田の教育力向上事業」を立ち上げ、ICTを活用した授業づくりの実践的調査研究「ICTを活用した授業改善支援事業」、研究における取組の検証「ICT事業推進に係る検証改善委員会」、研究成果等の発信・普及「オンライン・ミーティング」という3つの事業を一体的に展開。教員用端末も追加導入。Googleパートナー自治体となった。
すべての端末をどの学校でも接続できるように調整した点が特徴だ。そのため生徒の増減があっても学校間で端末を移動してすぐに活用できる。また、学校間交流で他校の生徒が来ても接続できる。
「デジタル教育 未来へRUNプロジェクト」を推進している。
プログラミング教育は、全県立校でスタート。プログラミング教育人材バンクを立ち上げた。超初心者研修からコア研修などスキルに合わせた研修も行っている。
10校の普通科高校に、新たにデジタル探究コースも設置した。2022年度は4校で実施。次年度は6校で行う。
農業科や工業科などの専門高校ではポケットWi-Fiを活用してスマート農業やロボット製作等を通じた人材育成を展開している。
2022年12月に初開催したジュニアICTリーダーサミットについて報告する。
これは玖珠町(小学校6校・中学校1校)の小中学生が自ら企画したもので、全国から10自治体100人以上がオンラインで参加。本当に盛り上がった。
子供たちはそれぞれの地域の取組や地域自慢を行った。質問や感想もチャットで交換。山梨県甲府市は伝統工芸について、玖珠町は郷土料理や歴史遺産について報告。参加者の満足度は100%であった。
ジュニアICTリーダーとは、2021年11月から玖珠町で取り組んでいる事業で、小学校5年から中学校3年までの希望する児童生徒が講習を受けて、一定の技術を身に付ければ、ジュニアICTリーダーの認定証を授与するもの。企業のインストラクターが講師役になり、土日を中心に4~5回の研修を実施している。
本サミットで司会を務めた生徒は最後に「始まる前は、集まらなかったらどうしよう、チャットが盛り上がらなかったらと様々な不安があったが、たくさんの人の参加で楽しい時間になった。また新たな企画に取り組みたい」とあいさつ。大きな拍手が送られた。今後も子供同士の新しいつながり方を横展開していきたいと考えている。
水戸市(小学校32校・中学校15校・義務教育学校1校)では日常的な端末活用が進んでいる。市内の約1万9000台の端末がアクティブに活用されている。
学級閉鎖時もオンライン授業を行っている。また、登校できない友達とも端末でつながり、グループを構成して討議している。様々な学校行事も保護者にオンライン配信をしている。職員会議もオンラインで実施。児童生徒会活動もアンケート調査等を活用している。
活用が促進した理由の1つにHPの充実がある。「水戸市GIGAスクール構想」サイトに誰でも実践を投稿できるようにした。現在、実践事例は150程度掲載されている。また、便利なツールや参考になる情報を集約している。
空き時間や放課後にICT支援員によるミニ研修も実施。スキル向上に取り組んでいる。
NEXTGIGAに向けて様々な取組も開始。そのうち2つを紹介する。
1つは茨城大学との連携だ。小学校1校、中学校1校をモデル校として探究的な学びや問題解決学習に取り組んでいる。市内教員対象に対面・オンラインのハイブリッドで授業も公開。授業後はオンデマンド視聴ができる。
次に、教育データの利活用だ。GoogleClassroom内のデータをダッシュボード化(個人カルテ化)する仕組みの構築を進めている。集約するデータを拡張しながら利活用を進めていく。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年2月6日号掲載