表現力育成や英語教育の充実に力を入れている守谷市立けやき台中学校(中野比呂志校長・茨城県)。中学校2年英語の発表活動では、校内の簡易スタジオから教室に配信した。従来の発表活動とは一歩進んだ教育効果が見られているという。1月27日、2年英語の授業を取材した。
4人の生徒がグリーンバックを背景にしゃがんでいる。配信スタートの合図で勢いよく立ち上がり元気に「Hello!」とあいさつ。生徒たちの正面には75インチの電子黒板が設置されているので、自分たちの姿がどのように教室に配信されているのかがリアルでわかり、ほぼカメラ目線になる。顔が上がるので声もジェスチャーも自然と大きくなるようだ。プレゼン終了時には画面に向かい全員笑顔で手をふる。電子黒板前でのプレゼンでは難しいことも配信スタジオからだと自然にできるようだ。
配信映像の背景は、生徒が自分たちで調べた調査や分析・考察をプレゼンツールにまとめたもので、学習者用デジタル教科書の画面やイラスト等も表示。調査内容は「生まれ変わったらどの国に住みたいか」「アニメのキャラクターでどれが好きか」「クラスで有名になりそうな人は誰か」等、生徒の興味関心をもとに自由に設定。
生徒は順番に入れ替わり、表やグラフの該当箇所を指し示しながら説明。画面や演出も工夫して見ている人が楽しくなるようにしている。
プレゼン大会のようだが、英語の授業だ。
英語の教科書には「登場人物が調査・集計して表やグラフにまとめ、考察してプレゼンする」内容があり、その発展活動として行った。
教室では、全員が興味津々で画面を見つめ、笑い声も出るなど各グループの発表を楽しんでいる。音声も聞き取りやすい。電子黒板は黒板の幅とほぼ同じ大きさで教室後方からも見やすい。
1グループ終わるごとに生徒は各自で評価を記入。全グループのプレゼン終了後は、「どのグループのプレゼンが一番よかったか」をグループ内でそれぞれの評価をもとに話し合い、投票。ベストグループを決めた。ふり返りも対話しながら行っていた。
授業後、生徒は「より伝えやすくするためには、原稿を読むことや発音を気にするだけではなく、カメラ目線で話し、手の位置など背景との調整やジェスチャー、話し方の緩急などやらなければいけないことがたくさんある。難しかったが、楽しい。やりがいがあった」と話した。
本授業を視察した町田香教育長も「これを全校に広げたい」と話した。
学校長の講話を簡易スタジオセットによる動画配信で行った際、本単元で活用しようと考えた。やってみると想像以上に効果があった。生徒はふだんから様々な動画を見ているので、求めるプレゼンイメージも最初から高いところを目指す。そのため伝えるために必要な様々なスキルに自ら近づいていく。それが電子黒板の前でプレゼンすることとの大きな違い。配信動画は録画してふり返りに活用でき、俯瞰する力も育まれる。
2年生はグループでプレゼンを行ったが、3年生では故スティーブ・ジョブスのように1人でプレゼンし配信することを考えている。
本校では「表現力の育成」を研修テーマに全教科で取り組んでいる。ライブ配信の試みでその可能性が広がった。
教育は感動との出会いが重要。生き生きと活動する子供の姿が教育効果を証明している。授業の中で、やろうと思ったときにすぐに行うことができたのは学年主任や教科担当、ALT等がチームで取り組んでいるから。どの教室でもICT活用が日常化している。
生徒はもちろん、教員も楽しんで取り組んでいる。楽しい授業で力がつくことが素晴らしい。
英語ではALTが配備されており、教室とスタジオ双方にスタンバイできるので、ライブ配信の授業活用もすぐに挑戦できた。人手と協力体制は重要だ。
学校DXにPTAも協力的。本校の取組を紹介するデジタルサイネージの試みもPTAが中心になって行っている。
簡易スタジオセット配備の理由と目的を守谷市教育委員会教育指導課の尾形優主任に聞いた。
:・:・:
守谷市(小学校9校・中学校4校)ではGIGA端末としてiPadを配備しており、現在中学校のPC室にはWindowsPCがある。今後のPC室の在り方について検討する際、PC室の高度化により子供の意欲・関心を高め学びの充実を図ることができるのではないかと考えた。そこで校内配信スタジオの設置を検討するため、2022年10月に簡易スタジオセットを1セット整備して市内小中学校に貸し出しできるようにした。複数クラス同時に配信できるので、広域連携にもつながる。いくつかの学校で挑戦が始まっている。
簡易スタジオセットのうち、けやき台中学校で活用した機器は次。▼デュアルHDMIキャプチャー「GV-LSU200」=。クロマキー合成機能搭載。クロマキー合成機能とはグリーンバックを使用して人物を切り抜き別画面と合成する機能。▼ライブストリーミングBOX「LIVE ARISER」=HDMI出力の映像をPCなしで配信。ボタン操作で録画・配信・画面切り替えや合成ができる。いずれもアイ・オー・データ機器。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年2月6日号掲載