全国学力・学習状況調査で理科・算数・数学で上位を占める富山県。入善町では20年以上、児童生徒質問紙調査により児童理解や学級集団作りに役立ててきた。2019年度より、さらにきめ細かい支援に向けて総合質問紙調査「i―check」(東京書籍)を導入し、調査結果を生かした授業づくりや学級づくりに取り組んでいる。入善町立桃李小学校(水島祐司校長・富山県)6年生の授業を取材した。授業者は横田智哉教諭。
この日の授業は理科「電気と私たちのくらし~電気の有効利用」で、課題は「豆電球より発光ダイオード(LED)がどうして長い時間、明かりがつくか」。児童は各自で予想を立ててからペアやグループで話し合い、グループで実験を行った。教室中央には出席していない児童が家庭から授業を受けることができるように端末を設置して授業をオンライン配信している。
各グループとも話し合いや実験は順調で協力しながら進んでいる。欠席者のいるグループの児童は実験が始まると、自分たちの実験の様子をオンラインで見やすいように端末の配置を変えていた。
実験では手回し発電機でコンデンサーに蓄電し、豆電球やLEDをつけ、コンデンサーの目盛りの減り方や、触れたときの熱さなどを確認。発見したことをワークシートにまとめていった。自分のワークシートに書き込んだ内容を友達に見せて確認している児童もいる。
横田教諭は大型提示装置に電球式信号機とLED式信号機の写真を提示。信号機にも2種類あることを示し、次に全国の信号機のLED化率の表を提示。東京都は100%だが富山県は5割弱、北海道は3割程度である。その理由を考えることでこの日の学習内容と結びつけた。
横田教諭はi―checkの結果をどのように授業づくりに生かしているのか。
安心して学ぶことができる学級集団をつくることで児童相互に関わりが生まれ、協働的な学びに発展すると考え、同校では年2回、「i―check」で調査し、学級の概要を「自己認識」「社会性」「学級環境」「生活・学習習慣」の4カテゴリで分析して個や集団の実態把握に努め、改善を図ってきた。i―checkの研修では、数値をそれぞれ単独で見るのではなく、低い部分はすべてつながっていること、そのうち1か所を引き上げると全体も上がることを学んだという。
「当初は分析結果にがっかりすることもあったが、散布図から大きく外れている子に支援の視点が定まり、意識的に手立てを講じることができた」と話す。分析によると当初、対人ストレスや自己肯定感に課題がある児童が多かった。要因として、授業中も他人のミスや間違いをからかう傾向があるからではないかと考え、教育活動全体を通して、友達との関わり方を見直し、安心して学ぶことができる学級や集団づくりに努めた。i―checkの結果を基にしたグループづくりから始め、よりよい関わりが構築できるよう、児童の様子を見取りながら毎月席替えをしているという。「間違えると恥ずかしい」と対人ストレスを抱えていたり、自己肯定感が低かったりした児童も、自分のことを気にかけてくれる子がそばにいると安心できるようになり、自信をもって発言できるようになっていった。今年度2回目のi―checkの数値では、特に「学習意欲」「いじめのサイン」が好転。さらに学力調査等の結果においても、学級全体の伸びが見られた。「学級が安心できる学びの場であることが基盤となり、自己肯定感や学力の向上につながっていると感じている」と話した。
本校では「わかった、できた、がんばってよかった」を実感できる授業づくりを目指している。「ふり返り」では、自らの不足を見つけて補うのではなく、自分の頑張りを褒めることを大切にしたいと考えている。
人間関係も同様だ。本校は1学年1クラスで、6年間クラス替えがなく、問題が起きると改善が難しい面がある。お互いに良いところを認め合うあたたかな関係を構築するためにi―checkを活用したいと考えている。
i―checkは個人データやクラスのデータ、学校のデータがあり、学校経営や学級づくりに活かすことができ、教員と定期的に行っている面談でも活用している。データから子供の意外な面や気になる点の原因と思われるものを発見でき、経験不足や思い込みをi―checkで補うことができる。
家庭との連携にも調査結果を利用している。本校には校内に学童保育があり、保護者が迎えに来られた際に児童の情報交換ができる。データがあることで自分の感覚に自信をもって伝えやすくなっていると感じる。
2018年度から教育長に就任した。入善町の良いところを伸ばし弱いところを克服していこうと、まずは小学校の学力向上、中学校の不登校減少を喫緊の課題と考えた。そこで子供同士の関わり合いやふり返りを通して達成感や実感を伴う学びを学校長に依頼。さらに、質問紙調査の見直しについて、生徒指導担当指導主事経験者を中心にしたワーキンググループで当時使用していた質問紙調査とi―checkを比較検討。「質問項目が多すぎる」等の反対意見もあったが「子供を深く理解できる」等の声もあり、i―checkを導入した。
i―checkは4カテゴリ(自己認識/社会性/学級環境/生活・学習環境)12項目でスコアを作成する。「家族のささえ」「友達のささえ」「先生のささえ」などの項目により、家族の問題や対人ストレス、いじめの早期発見と対応が可能になると考えた。
学級や個人の強みや弱みもレーダーチャートによりひと目でわかり、課題を共有しやすく、保護者面談でも活用しやすい。
チャートは、数値が改善するときれいな円に近づき、面積も広くなる。活用し始めて3年経つが、多くの学級でチャートの円が大きくなった。学校や学級が楽しくなければ学びは充実しない。自己肯定感を伸ばすことが何より大事であることがわかる。
今年度から東京書籍の標準学力調査(国語・算数)も導入し、1月に実施する。i―checkとクロス集計ができるので、結果が楽しみである。
教育家庭新聞 新春特別号 2023年1月1日号掲載