2021年度学習者用デジタル教科書のクラウド配信に関するフィージビリティ検証の報告書が本年6月、文科省Webに公表された。一部を紹介する。なお本事業の後継として2022年度は「学習者用デジタル教科書のクラウド配信等の設計に関する検証事業」を実施している。
本調査では、デジタル教科書を利用する通信のボトルネックを明らかにするための通信量等、授業におけるデジタル教科書・教科書一体型教材の使用状況、授業模様と通信量の実測結果、複数ビューア利用時のデジタル教科書の使用感ほかを調査するもの。家庭での利用を想定した動作検証については疑似環境で検証。机上調査として、学校規模・ネットワーク構成・同時接続率ごとの最低動作環境・推奨動作環境、クラウドでの配信方法やコスト等を検討した。
報告書によると、GIGAスクール構想により整備した校内LANのネットワーク機器がボトルネックとなる可能性は低い。ただし実証校中2校で、アクセスポイント等ネットワーク機器の設定(スループットを出すために必要なライセンス適用ができていない状況)によるボトルネックが生じていた。
回線やISPがボトルネックとなるケースはあり、回線増強やキャッシュ等の活用の検討が必要であるとしている。一斉にログインすることでつながりにくさが生じる問題も指摘。これは学習者用デジタル教科書へのログインを個人のタイミングで活用することで解消できる可能性がある。
ただし2021年度は「閲覧」中心の活用が多く、動画・音声コンテンツ再生や書き込み等子供主体の活用が増えることを想定した検証も必要になる。これについては2022年度調査で対応予定。
アンケート調査によると、ログインの際のID・パスワード入力に煩雑さを感じる、手間取るという回答が全体の約半数いる。現在学習eポータルの導入が進んでおり、今後はシングルサインオンの仕組みを学校側で利用することで課題が軽減する可能性がある。
学年始期のアカウント登録や通年での管理・運用についての作業負荷についても課題を感じる教員が多い。文部科学省では「導入・管理に関する統一化したCSVフォーマット」を求めており、今後各ビューアが対応し、統一化されることが想定されるものの、まだ途上。教育委員会がアカウントを発行して解決している例もあり、抜本的な管理・運用の簡素化・システム化が求められる。
訪問調査によると、全体として紙の教科書の代替としての活用が多く、デジタルの特性を活かした授業展開にたどりついていない。代替としての活用が多い状況において「特に使いづらいと感じない」と回答した児童生徒・教職員は多く、「よく使う教員ほど使いづらいと感じる」傾向にあった。本報告書では「さらに習熟度が向上した結果、使いづらいと感じる児童生徒・教職員が減る可能性もある」と記載。さらに活用が増えるとネットワークに負荷がかかる等の問題が生じる可能性もあり継続的な調査が必要だ。
児童生徒が最も利用している教科を調査。それによると本実証では、小学校では算数が最も多く、次いで多いのが国語。ただし国語・算数は授業時数が多い。教科ごとの比率では、社会が最も高い。
中学校では、理科が最も多く、次いで英語が多い。ただし比率でみると公民が最も多い。ほぼ全教科導入されている学校における活用度調査という点で貴重な結果と考える。
デジタル教科書の家庭環境での利用を想定して、検証用に構築した疑似環境で、インターネット接続方式やOSの違いによる動作への影響、必要となるネットワーク帯域を確認。複数ビューア起動時、動画閲覧時、Web会議アプリ起動時ともに、インターネット接続方式やOSが異なっても概ね支障なく利用できていた。また、ネットワーク帯域は1台あたり2・0Mbps程度であれば動作への影響はないと報告。
2021年度の実証の後継事業として2022年度は「学習者用デジタル教科書のクラウド配信等の設計に関する検証事業」を実施している。本事業において学習者用デジタル教科書の習熟度が高まっている学校を継続的に実測し、必要な通信環境を明らかにする。LTE環境の計測も追加。授業支援アプリ等のトラフィックも測定するほか、一部未計測だった区間も含めてトラフィックを計測する予定。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年12月5日号掲載