倉敷市立連島南小学校(岡山県)では2021年度から学習者用デジタル教科書(国語・書写・社会・地図・算数・理科・生活・図画工作・音楽・外国語・道徳)が文部科学省事業(※)により配備されており、学校全体で活用が進んでいる。6年生理科の授業を取材した。授業者は日向浩一郎教諭。理科専任の日向教諭は、「新しい理科」指導者用デジタル教科書と学習者用デジタル教科書・教材(東京書籍)、授業支援ツール(ロイロノートやGoogie Workspace for Education)を組み合わせて授業を進めている(※2021年度学習者用デジタル教科書のクラウド配信に関するフィージビリティ検証等)。
日向教諭は拡声器を首から下げている。拡声器は、コロナ禍でマスク生活が始まった際、大声を出さなくても教員の声が聞こえるように学校予算で全教員に配布したものだ。
この日の課題は「てこが水平につり合うときのきまり」を、実験を通して見つけること。日向教諭は指導者用デジタル教科書を提示して実験のポイントを説明した後、学習者用デジタル教科書のてこのシミュレーション教材を提示し、これで各自が実験することを指示。生徒は各自の端末上で、てこの左の重りの位置と重さを一定にし、右の重りの位置を変えると何グラムでつり合うかを実験。結果を端末上の表に記入していった。この表は、GoogleClassroomで教員が送ったものだ。
学習者用デジタル教科書上で1人ひとり実験を行った後はグループで実物を使った実験だ。各自で一度、実験を行っているため、グループに1台の実験器具をメンバー全員が真剣に見つめている。実物を使った実験では、「つり合っている」と判断するには傾きが微妙になることがある。重りの量を増やしながら水平かどうかを全員で確認し合っていた。
実験後は、実験結果を見ながら、この日の課題に対する考えを各自の端末のGoogleスライドに記入。児童のスライドを大型提示装置に一斉提示し、黒板に結果を記入する児童を指名した。
日向教諭は「理科では紙の教科書を持ってこなくても良いと伝えている。学習者用デジタル教科書上で各自が実験等を行うことができるので、授業に活気が出る。学習者用デジタル教科書で1人ひとり実験してから実物で実験を行うという流れにより、実験のやり方を十分把握してからリアルの実験に取り組むことができる。また、実験結果を記入する表を各自の端末に送ることで、紙のノートに表を書いたりワークシートを貼ったりする作業がなくなり、考察や振り返りを考える時間が増えた。今後は、全員の考察を各自の端末で自由に確認できるようにする」と話した。
同校のICT推進担当である富山大輔教諭は「デジタルの良さ、紙の良さが分かり始めているところ。教科や教員により、様々なバランスで活用されている」と語った。
同校の教員を対象にしたアンケート調査によると教員の8割以上が「デジタル教科書に慣れた」と回答。下の学年のデジタル教科書を活用している教員が3割以上いる。特別支援では、常に複数学年の教科書を活用しているという。ネットワーク環境に不具合を感じている教員も3割程度。デジタル教科書の長所は「1台で様々な教科や学年の教科書を見ることができる」「書き込みができ、修正ができる」「拡大やルビふり、音声再生ができる」「家庭からログインしてデジタル教科書を見ることができる」等であった。
文科省事業で全教科の学習者用デジタル教科書が導入された当初は戸惑う教員もいたが、1年間使ってみて「(実証が終わって学習者用デジタル教科書が)なくなると困る」という声が多く、今年度も実証に協力することとした。
本校のICT推進担当が「情報教育便り」を発行したりミニ研修を行ったりしており、進んだ取組をしている教員を真似ながら全体で少しずつ進み、今では全学年で当たり前のように使っている。ほぼ全教科が入ったことも全員活用を後押ししている。2年目になり、「紙の教科書代わりの閲覧」「教員主体」の活用から、子供自身で活用する場面が増え、授業スタイルそのものが変わり始めていると感じる。特に高学年では自ら取り組む時間が増えている。
活用が子供主体になっている授業では、単元の最初に子供自身が使う時間を設けるなど自由度が高いと聞いている。次のステップに進むためには「どう使うか」を教員が考えるのではなく、子供自身が考えることが重要だ。端末持ち帰りは今年度2学期から試行的に始め、次年度からは全校で取り組む予定だ。
多教科のデジタル教科書を多数の児童生徒が同時にクラウド配信で利用するための条件について6自治体17小中学校で比較検証。NTT東日本が受託。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年12月5日号掲載