全国ICT教育首長サミットが11月17日、都内で開催され、第5回日本ICT教育アワードが表彰された。全国ICT教育首長協議会は、先進的ICT教育を推進する全国130自治体の首長で構成する協議会。
日本ICT教育アワードは9自治体を選出し、各賞を決定した。各賞は次。【文部科学大臣賞】東京都渋谷区【総務大臣賞】富山県氷見市【経済産業大臣賞】奈良県生駒市【会長賞】埼玉県久喜市・茨城県水戸市・大阪府枚方市・愛媛県四国中央市・大分県玖珠町・鹿児島県垂水市【審査員特別賞】埼玉県久喜市
文部科学省・簗和生副大臣は「GIGAスクール構想による環境整備から利活用推進のフェーズが始まっている。次年度及び今年度補正予算においてGIGAスクール構想関連の予算も多く計上しており、利活用の格差が生じないように支援したい」、総務省・国光あやの大臣政務官は「テクノロジーを担当とする省庁として、学校外における教育データ利活用実証事業に取り組み、ICTのさらなる活用を推進する」、経産省・長峯誠大臣政務官は「受賞自治体の取組はいずれも素晴らしい。経済産業大臣賞の生駒市が取り組んでいる外部人材利活用は、経産省・産業構造審議会商務流通情報分科会教育イノベーション小委員会中間とりまとめ(2022年9月)でも重視している」と述べた。
2020年3月末にはほぼすべての自治体で1人1台環境になり、今回のアワードには75自治体から応募があり、いずれも1人1台環境を前提とした子供がわくわくし、それを見る教員もわくわくする様子がよくわかるレベルの高い取組であった。
首長がけん引役としてリーダーシップを果たしており、Society5・0やSDGs等これまで見られなかったキーワードや企業連携が増えている。
GIGAスクール構想以前より1人1台環境を進めてきた渋谷区(小学校17校・中学校7校・小中一貫校1校)。コロナ禍は、1300人の児童生徒がオンラインで救われた。次の取組として教育データ利活用に着手。教育ダッシュボードを利活用して子供1人ひとりの幸せ(Well-Being)の実現に取り組んでいる。多様なライフログデータを7月から学校に展開。今後はスタディ・ログの活用も進め、学校満足度の向上につなげる。
教育ダッシュボードでは「心の天気」「HyperQUテストの承認・被侵害得点」「学校アンケート結果」「欠席・遅刻・保健室情報」「タブレット利用状況(危険ワード検索含む)」について、クラス状況や個人状況、アンケート結果詳細等を参照できる。これらにより高度な気づきや早期の支援や先入観による見落としの防止等が教員の経験値にかかわらず実現できると考えている。これらのデータは親の同意を得て把握。アナリストを置くことなくデータを簡単に活用できるようにすることが重要と考え、スモールスタートで進めており、校園長教育データ利活用促進研修や、指導主事による学校訪問も行っている。今後は体力テスト結果や行政系データと連携する等も視野に入れている。
2022年5月、シブヤモデル「未来の学校」づくり~「新しい学校づくり」整備方針を策定した。これに基づき、6年後より22校を建て直す。ICT活用も意識したシームレスな学習空間を実現する。説明動画も公表しており、保護者には概ね好評だ。教育ICTは町全体のDXの1つである。
富山県氷見市(小学校9校・中学校4校・義務教育学校1校)はICTとスクールバスを活用し、ハイブリッド型交流で小規模校が多いというハンデを克服したいと考えた。2021年度から遠隔教育が気軽にできるようになり、2021年に2校で遠隔合同授業を行った。これを2022年度は小規模校3校で、電子黒板と情報端末を使って行っている。操作に慣れるため、3校合同で朝の会や帰りの会でクイズ大会を行うなどを週2回行った。算数は2校合同で単元を通した遠隔合同授業を行っており、今後増やしていく予定。
スクールバスを使ったリアルな交流・合同イベントとして陸上記録会や校外学習、宿泊学習などを実施。地元の特産物の収穫体験などふるさと教育の充実も図っており、地域を誇り、愛する気持ちが育ちつつある。
小規模校ではクラス替えの経験がなく、意見や考えには限りがあるが、遠隔合同授業等により広がりが生まれ、中学校入学への不安が解消された。児童は「みんなと中学校で出会うのが楽しみ」と言うようになった。これらの仕組みにより、適正規模の学校以上の教育効果を上げていきたいと考えている。
学校は地域の拠点であるという住民の思いがあり、学校がなくなると地域が衰退していく。これは地域にとってはかりしれない損失だ。学校を守ることは地域を守ることにつながる。統廃合ではなく地域に学校を残すことのメリットを全国に示したいと考えている。Web「まなDX氷見」に、各校のICT活用事例を紹介している。
奈良県生駒市(小学校12校・中学校7校)ではボトムアップ型ICT教育に取り組んでいる必要なポイントは次の3つ。▼プロ人材による目指すべき方向性の提示 ▼ネットワーク・機器環境▼ICT支援員等適切な支援
プロ人材として2020年に生駒市に採用され教育改革担当となった尾崎えり子氏(ICT授業作家)は、社長兼公務員としてこれまで約70プロジェクトを進めており、教員のボトムアップを引き出している。2020年のコロナ禍、修学旅行が実施できなくなったことからオンライン修学旅行を企画。広島を素材とした平和教育に取り組んでいる。半年間のプロジェクト学習で取り組んだ。オンラインならではの取組として、被爆電車をZoomで中継したり、広島市の6年生と交流してオンラインで記念写真も撮影した。「広島市の小学生から新しい考えを持つことができた」「戦争の恐ろしさについて理解したことを広く伝えたい」と児童の気付きは多かった。教員も、現地に行かなくてもできることがあるという視点を持つことができた。オンライン修学旅行を皮切りに様々なテーマで遠隔授業や交流が始まった。行かなくてもよいわけではないが、行けないからあきらめるのではなく、知恵を絞るための大きなきっかけと考えることができるようになった。
中学校ではオンライン職業体験も実施。10代の声を聴きたいと考えている企業に協力を依頼。経験がないからこそ発言できることがある。ミッションを企業から提供してもらい児童は企画・立案してプレゼンテーション。児童の企画は全体で1つだけ受注できることとした。なぜ選択されなかったのかも丁寧に説明を受けることで視野が広がった。
昨年は、CODE for IKOMA と奈良先端大学科学技術大学院との共同プロジェクトで日本一ニッチな地域情報発信アプリ「にしょロボくん」を開発。1年生にとって魅力的な視点は何かという観点を盛り込みながら縦割り活動として取り組んだ。
今年度は様々な授業ノウハウを全国に広げるためマニュアルを作成したりブログや論文で発信したりしている。地域で発信すると褒められて終わるが、全国に発信すると、賞賛され次を求められる。そういった経験は貴重である。