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教育ICT

第48回全日本教育工学研究協議会(JAET) 全国大会でクラウド活用を公開

2022年12月6日

日本教育工学協会(JAET)は、第48回 全日本教育工学研究協議会全国大会 愛知・春日井大会「GIGAスクール環境の日常的な活用で実現する令和の学び」を2022年10月28・29日、春日井市内で開催し、約1500名の教育関係者が参加。6校がクラウドを活用した児童生徒主体の学びの様子を公開した。教員の指示や一斉指導は少ない。児童生徒が授業の流れを各自、把握しているためだ。多くの教科で授業の流れは共通しており、情報活用能力の育成につながっている。公開授業の一部を紹介する。

参照すべき子供のワークシートを提示してまとめ方をアドバイス

参照すべき子供のワークシートを提示してまとめ方をアドバイス

高森台中学校
授業の流れをクラウドで事前に提示 子供同士で考えやふり返りを共有

1年社会 人物に焦点を当てて時代の特徴を説明
1人の人物に焦点をあてて収集した情報を整理し、平安時代について考えた。写真は情報整理中の画面

1人の人物に焦点をあてて収集した情報を整理し、平安時代について考えた。写真は情報整理中の画面

授業前、生徒は既に情報端末を開き、次の時間の準備をしていた。「平安時代はどのような時代か」について仮説を立て、その理由を1人の人物に焦点を当てて個人で情報を集め、それをjamboard上で整理して仮説を検証し、スライドにまとめる学習だ。

「平安時代は外国の影響で日本独特の国風文化が生まれた時代」と仮説を立てた生徒は、藤原北家の政治的立場を確立し、歌人でもある藤原冬嗣を取り上げ、藤原冬嗣の超人ぶりについて熱心に説明してくれた。

他の生徒が取り上げた人物と仮説を共有して自分の考えを深めた

他の生徒が取り上げた人物と仮説を共有して自分の考えを深めた

生徒は、情報端末上で他の生徒が誰を取り上げ、どのような仮説を立てているのかをGoogleスプレッドシートで一覧できる。藤原頼道や藤原道長、紫式部、桓武天皇など、様々な人物が取り上げられていた。他の生徒のまとめを見ながら考えている生徒も多い。友達同士話し合っている姿もある。

授業では自分の仮説とその根拠について発表し合い、それが妥当か否かについて討議。討議後は、Googleドキュメントに考えたことを記入しており、それもすべて共有していた。

2年数学 レベル別問題は生徒自ら選択する

多角形の内角の和がどうなるかについて、ペアで予想をたてて説明し合ってから全体で説明。式や図で表現できるようにしてから、教科書の問題に取り組んだ。

角度の求め方について話し合う活動では、jamboardを使ってグループごとに話し合い、他の班の考えも共有。

次に、レベル別問題を3種類提示。生徒は自分にあった問題を選択して取り組み、写真を撮影して提出。授業理解度確認表はスプレッドシート上に提出。教員はそれを見て困っている生徒を支援したり授業の進行を修正したりしていた。

2年美術 自ら課題を設定
各自の目標をスプレッドシートで共有している

各自の目標をスプレッドシートで共有している

生徒は、様々な角度で撮影した写真を見ながら立体物を作成。バナナやトマト、いがぐりなど制作物は様々で、それぞれの特徴を生かして工夫しながら道具を使う学習だ。

生徒のスプレッドシートには「ヤスリを使い分けて質感や形を本物そっくりにする」「紙やすりの目の荒いものから細かいもので順番に削って表面をつるつるにする」等、各自の目標を記入、共有していた。

1年英語 練習方法を自ら選択
Whichを使った表現でやりとりするためのスライドを作成した

Whichを使った表現でやりとりするためのスライドを作成した

この日の課題は「Which」を使った表現を使い、質問したり答えたりすること。冒頭は新出単語の意味と発音を全員で確認。その後、個別に学習者用デジタル教科書を使って練習した。音読練習も学習者用デジタル教科書を使用。音声機能やマスク機能を使って練習していた。デジタル教科書の音声に合わせて「なりきり読み」「キーセンテンス読み」「新出語読み」「動詞、名詞読み」などから選択して練習することもある。

次に、この日の課題である「Which」を使った質問を各自で考え、文字やイラスト等も使ってスライドにまとめる活動だ。その後、そのスライドを使ってペアで対話した。

対話後は、各自で練習問題に取り組む。この日はデジタルドリルを使用。ふり返りを1人ひとりGoogleフォームに記入していた。

3年社会 情報収集・整理・発信
「選挙の投票率は高いほど良い」は正しいのか否か。各自の考えを深めるため諸外国の情報等を収集して整理し、意見交換した

「選挙の投票率は高いほど良い」は正しいのか否か。各自の考えを深めるため諸外国の情報等を収集して整理し、意見交換した

「選挙の投票率は高いほど良い」は正しいのか正しくないのかについて、各自の意見をGoogleスライドに記入して共有。各自の考えを補強するためにどんなことを調べれば良いのかを考え、諸外国の情報等を収集。jamboardにまとめ、伝え合った後、改めて自分の意見とその根拠をスライドに整理して考えを深めた。

3年国語 議論の方法を学ぶ
様々な提案について、実現性の高いもの、普通、低いものについて整理

様々な提案について、実現性の高いもの、普通、低いものについて整理

課題解決に向けた議論の方法を、実際の活動を通して学ぶ。

生徒から出た様々な課題から決めたテーマは「給食を食べる時間をもっと長くするために提案したいこと」。生徒は様々な提案を出し合い、jamboard上で実現性の高いもの、普通、低いものについて整理。最終的な提案内容を検討した。

2年音楽 旋律作りに挑戦

情報端末を使った曲づくりにチャレンジ。イメージにあった旋律づくりに取り組んだ。楽器が苦手でも作曲できる点がメリットだ。

…・…・…・…

自ら課題を設定して協働しながら学び合う
小川晋教諭

全国学力・学習状況調査によると、高森台中学校では9割の生徒が「端末をほぼ毎日使っている」、8割の生徒が「端末は学習に役立つ」と答えている。

これまで、「まずはやってみる」を繰り返してここまできた。生徒は次第に、自ら単元目標を設定できるようになっていった。

クラウド環境の最大の長所は、いつでも共有できる点にある。友達の真似から始めて学び合うことができる。話し合いや発表が増え、アウトプット中心の学びに移行したことで、これまでの授業は教員からのインプットが多すぎたのではと感じている。

今後の目標は1人ひとりのアウトプットの質の向上。そのためには、豊富にモデルがあること、情報活用能力を育むこと、学習過程に備えること、学習の見通しを立てる力を育むことが重要であると考えている。

学びのデジタル化で取り組む順番が変わる
授業指導者 高橋純教授・東京学芸大学

‘他者と途中共有’がICT活用の本来の姿

高森台中ではほぼすべての授業の冒頭で、1時間の流れや単元の流れをGoogleClassroom上に提示している。また、生徒同士が端末上で「共有する」シーン、生徒が「選択する」シーンが見られた。他者と途中共有ができる点がICT活用の本来の姿である。共有の際は、相手もタイミングも自分で決めている。

意見交換や話し合いは、主にチャットで行っている。チャットはグループごとにでき、写真も投稿でき、検索もできる。この便利なツールを禁止している自治体が多いという状況は変えていくべきである。

問題解決でクラウド活用するためには、いくつかポイントがある。

まず、方針を立てることだ。「1人ひとりに力をつける」「1人ひとりが主語であると理解する」「1人ひとりの頭をフル回転させる」「アウトプット中心とする」などが共有すべき点だ。インプットは、アウトプットの質を高めるためのものであり、インプットそのものが目的にならないようにする。

次に、課題をしっかりと持てるように工夫すること。常に課題に正対して各自が活動することを大前提とする。課題については、正解のないもの、答えが単一ではないものとし、半分くらいの子供が1人で解決できる難易度が良いだろう。

学習活動については、見方・考え方を働かせることを目的として工夫を凝らすこと。制限時間を設定し、時間内では立ち歩いての相談も可とし、ペアで行うのか1人で行うのかグループで行うのか、誰と話し合うのかもすべて子供に委ねる。

クラウド特有の使い方として、11シートの専用枠を与えることをお勧めする。ブランクで良く、これを教員と子供、子供同士が常に参照しやすいようにし、課題設定や課題解決に困った際には他者の参照も良しとする。学びのデジタル化により取り組む順番が変わったり統合されたりするが、教員の工夫を凝らしたワークシートではなく、ブランクのシートの共有から始めることができるのは、その好例だ。

学びの質も量も変わった
大会実行委員長 水谷年孝 高森台中学校長

第二次世界大戦がなぜ始まったのかを様々な視点から調べて発表し、意見交換しながら自らの考えを切磋琢磨する等、これまで、1学期に1回程度挑戦できれば良いような探究的な課題解決学習を、ほぼ毎日展開できるようになった。教員も子供も自分の判断で端末を持ち帰りしており、授業でも自分のタイミングで使っている。また、チャットで日々の実践を気軽に報告し合っている。

このような授業が最初からできたわけではない。始めはGooglejamboardに考えをまとめるだけで終わっていた。次に、それを使って話し合いまで進めるようになった。それが現在は、話し合いから得られた気付きを自分の考えに取り込んでアウトプットできるまでになり、学びの質も量も変わったと感じている。

■学習規律とICTが土台になる

このような学びを展開するためには、人間関係づくりが土台。人間関係がなければ協働的な学びは難しい。

探究的な学びを意識して授業展開し、それを教員主導ではなく生徒自ら回せるように支援している。その土台がICTと学習規律である。

問題解決学習では、自分の考え、友達の考え、調べた内容をつなげて考えることができるようになるまでが難しい。これを、クラウドを使えばやりやすくなると考えて取り入れた。

すべての授業で、その日の授業の流れをクラスルーム上に掲載している。その後、まずは個人で情報収集し、それを各自で整理していく。授業時間内にできない場合は休み時間や自宅で行っている。付せんアプリを使って少しずつ整理できるようになっていき、それをもとに話し合いにつながっていく。仮説作りに向かって吟味しながら何度も対話を繰り返し、思考の質を上げ、最後にレポートにまとめるなど言語化。生徒は、友達から意見を引き出すためにプレゼンをする。得られた意見もすべて共有している。慣れると「学びに向かう」姿が日常的に見られるようになる。チャットで「こんな仮説はどうだろう」とすぐに対話が始まる。気付けば、個別学習と協働学習が同時進行で進んでいる。個別学習∥ドリル学習ではない。

現在の中学校3年生は、2年間このような学びを継続してきた。中学校1年生は、小学校で経験しているため、既にスキルがあり、アプリの使用方法等を指導する必要がない。1年生から様々な教科や活動で探究的な学びを展開できる。

数学は教科の特性からインプット量は多いが、以前よりもコンパクトになった。個別で問題を選択して挑戦し、教え合うようになっている。誰がどんな問題に取り組んでいるのかを共有すると、刺激になるようだ。

美術の作品も質が上がった。説明動画を繰り返し自分のタイミングで見ることができ、各自の目標を設定してそれに向かって取り組んでいる。

理科も、実験の流れを自分で考えて計画している。自分たちで計画を考えることに時間はかかるが、実験を始めたらまとめるまでが早い。ワークシートも写真や動画を載せてまとめており、グラフはスプレッドシートにまとめている。重要なのは読み取りや考察で、そこに時間を使っている。

自分の学びについてのふり返りも複雑化し、メタ認知が進んでいる。

様々なことを試すことで今の授業の姿がある。未知の領域に既に踏み込んでおり、禁止すれば進まない。とにかくやってみよう、という方針で、リスクより成果を重視した。大人には、胆力や覚悟も求められる。

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