京都大学人と社会の未来研究院の熊谷誠慈准教授は、(株)テラバース古屋俊和CEOや僧侶の青蓮院門跡・東伏見光晋執事長らとともに、悩みをAIブッダが答えてくれる「ブッダポット」を開発した。相談者が「やる気が出ない」「会議があるのにアイデアが湧かない」といった悩みを、LINEアプリに投稿すると、現存最古の仏教経典「スッタニパータ」を学習したAIブッタが、対話形式で回答する。AIブッダはグーグル社の自然言語処理モデル「BERT(バード)」を応用したプログラムで機械学習している。
ブッダポットを開発した背景には、熊谷准教授の「現代人がもっと仏教の価値に親しんでくれるにはどうしたらよいだろうか」という長年の思いがあった。「いまや多くの人にとって、仏教は観光や葬式で接するだけとなっています。私は、仏教の本質は幸せになるためにあると思っています。仏教との出会いがきっかけで幸せになったら、仏教が好きになるのではないかと考えました」
熊谷准教授らは現在、ブッダポットをもとに、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いた仏教仮装世界「テラバース」の開発を進めており、2022年9月、その試作品「テラ・プラットフォームAR Ver1・0」を公表した。
ブッダポットのAIブッダは、テキストでの対話だけだったが、テラバースではAR技術を活用して、スマホ画面にアバターのブッダが登場。音声入力もでき、ブッダと会話しているような感覚が得られるようになった。
ブッダの回答内容もさらに充実。経典「スッタニパータ」に加えて代表的な原始仏教経典「ダンマハダ」も学習し、学習データ数をブッダポットの開発当時(2021年)から5倍に増やした。
近い将来には、位置情報とも組み合わせ、利用者の生活空間において突然、AIブッダが現れるといったイベント性も持たせ、仮想空間ならではの自由さや楽しみも創出していく考えだ。
テラバースは、個人の救済だけでなく、仏教界の支援も目指す。日本の仏教界は寺院の収入減少、本堂など建物の維持管理の困難などから、2040年には3割が廃寺になるともいわれている。こうした状況はコロナ禍でさらに拍車がかかっていると予想される。
そこで、熊谷准教授らは、サイバー空間を活用した仏教の持続的発展の可能性を探る。
例えば、VR技術でサイバー空間にアバター寺院を建立すれば、地理的な問題を克服して遠方に住む信者も寺院を訪れることができる。
また、アバター僧侶を導入することで、寺院への訪問者対応をスムーズに行うことも考えられる。
サイバー技術によって、現実世界、仮想空間どちらでも寺院の行事に参加できるようになり、参加者同士の交流増も期待される。こうした仮想空間による寺院運営には、現役の僧侶からも期待が寄せられているという。
熊谷准教授は「コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争などを通じ、現実世界に窮屈さを感じる人が増えました。物理的制約のない仮想空間の可能性や潜在性は、ますます高まるものと思われます。テラバースを通じて人々に癒しや楽しみを届けることで、新たな活力と希望が生み出され、躍動的な社会が実現することを願っています」と話した。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年12月5日号掲載