小平市立小平第三小学校(木田明男校長)では現在、英語、国語、理科、生活科の学習者用デジタル教科書を導入している。そのうち国語の学習者用デジタル教科書(光村図書)は、東京学芸大学教育学部・加藤直樹研究室との実証研究により、昨年度より全学年で導入・活用を始めた。1人1台端末活用及び学習者用デジタル教科書活用2年目を迎えた児童はどのように学んでいるのか。9月20日、6年生の授業を取材した。授業者は谷川航主任教諭。
谷川教諭は、文学作品「やまなし」(宮沢賢治)のかにの兄弟と父の会話を通してわかることについて、グループで1枚の絵に表現させている。俯瞰の視点を持つためだ。次に「五月」「十二月」それぞれの副題を考え、対比することを通して「やまなし」で作者が伝えたかったことについて迫るという流れ。
この日は「五月」の副題を考えるため、児童は各自の端末で学習者用デジタル教科書の「マイ黒板」上に、教科書本文から言葉を抜き出し、デジタルペン等で線や矢印、気付いたことを書き込みながら、グループで話し合った。
各班の発表では、マイ黒板の内容を電子黒板に提示してどの表現からどのようなことを読み取ったかを順番に発表。「白いかばの花は葬列のよう」「お父さんは経験があるから美しく見える」「子供は知っていることが少ないから怖がる」「食べることは生きるために必要」「食物連鎖」等だ。1つの発表が終わるたびに、それについての感想や質問をしたい雰囲気が教室にあふれており、谷川教諭はそれを受けて感想を話し合わせたり質問を受け付けたりした。
谷川教諭は各グループがまとめたマイ黒板の内容を板書にまとめ、それを写真に撮って全員の端末に送信して共有。児童はノートに「五月」の副題とその理由を各自で記入していった。情報端末を使ってまとめている児童もいる。
児童は「紙の教科書より線を引きやすく書き込みやすい。ページめくりよりもスクロールの方が読みやすい」「すぐに辞書で調べたり検索したりできる」「マイ黒板で文字を抜き出してから考えられる。消したり移動したりが簡単でまとめやすい」「紙の教科書のように自宅に忘れることがないから安心」と、学習者用デジタル教科書の活用を楽しんでいるようだ。
同校と東京学芸大学加藤研究室との実証では、学年による使い方や教員の教え方による効果について検証しており、標準学力検査により効果を検証したところ1年間で国語の力、特に「書く」力が、苦手であった子ほど大きく伸び、無回答もほぼゼロであった。その理由を谷川教諭に聞いた。
「この1年で書く量が増えた。マイ黒板の『教科書の言葉を抜き出すのに時間はかからない』点がとても良い。ノートにまとめる場合、『抜き出す』言葉を書き写すだけで時間が過ぎてしまうが、マイ黒板ではすぐに抜き出して並べ、それを眺めているうちに考えが浮かび、メモ書きができる。紙の場合は一度書くと、それをなかなか捨てきれない面があるが、デジタルだと『これはやはり違う』と思ったときもきれいに消して再度考え直すことが容易。デジタル教科書の本文にはレイヤーが3つあり、異なる視点で書き込みたい時は新しいレイヤーに書き込み、以前の書き込みと比較することもできる。『様々な可能性を模索しながら考える』ことに慣れると、書く力が伸びる」
授業では、自己申告で「この分野が苦手」「得意」(と感じている)グループに分け、各グループに合わせたヒントを記入する等、支援に軽重をつけているという。
「説明文では、学習者用デジタル教科書の『文章構成図』を使って文章の組み立てを考えることを児童は喜ぶ。紙の教科書の時にはそれほど好まれなかった活動だが、デジタルになり、試行錯誤しながら交流することの楽しさを感じているようだ。文章に向き合うことの楽しさが読み取る力の伸びにつながっていると感じる」
この日の授業では、話し合いと発表準備をほぼ同時に行っている点も印象的であった。それについては「発表活動の際、様々なプレゼンテーションの動画を見せて、どのような方法がわかりやすいかを話し合った。その結果、発表原稿を作成せずに自分の考えを聞き手に向かって自分の言葉で気負わずに話すことが定着した」と話した。
学習者用デジタル教科書は、使い始めると手放せないものになる。
国語では、紙の教科書を読みノートに手書きすることが重要なのではという思いはあった。ところが学習者用デジタル教科書を使ってみると、国語を苦手と感じている子も、デジタル教科書であればマーカーをつけたり書き込んだりするようになり、その結果話し合いに参加できるなど苦手意識が軽減されている。以前、ディスレクシアの児童が在籍していたが、デイジー教科書が用意できなくても学習者用デジタル教科書でほぼ対応できると感じた。
デジタル化により切磋琢磨がしやすくなったのは教員も同様で教員の指導力向上にもつながっている。コロナ禍で積極的なICT活用が推奨されたことで思い切った学校判断が可能になり、教員も失敗を恐れず挑戦し、それが今も継続している。トラブルを恐れていては進まない。中学校からは、本校の児童のICT活用スキルは高いといわれている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年10月3日号掲載