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教育ICT

【学習者用デジタル教科書】導入当初の未活用問題を解決~つくば市教育委員会

2022年10月4日

文部科学省事業により学習者用デジタル教科書がすべての公立小中学校に1~2教科配備されている。つくば市教育委員会(小学校29校、中学校12校、義務教育学校4校)でも小学校英語や国語、理科等を国の事業や実証研究等で配備しているが、導入当初は活用度が低かったという。それが10月から一気に活用されるようになった。その理由についてつくば市教育委員会の中村めぐみ指導主事が、AI時代の教育学会(赤堀侃司会長)第4回年次大会(9月17日オンライン開催)デジタル教科書専門研究グループSIGセッションで発表した。AI時代の教育学会では正会員・準会員・学生会員(大学学部の学生及び高等学校の生徒・会費無料)を募集中。

つくば市教育委員会指導主事 中村めぐみ

■ネットワーク構築で試行錯誤

学習者用デジタル教科書の活用が進むまでに、いくつか解決しなければならない課題がありました。その1つが、ネットワーク環境です。本市は当初、センター集約型で各校内にWi-Fi環境を構築していましたが、オンライン授業が始まったこともあり、ローカルブレイクアウト方式に変更しました。帯域は悩みましたが、予算面もあり「40人がオンライン授業に参加できる帯域」とされている1人あたり2Mbpsの環境を作っていこうという方針で進めました。

一方で、GIGA元年ということで市教育委員会では、「11台情報端末を週に70%活用する」方針を出しました。デジタルドリルや交流学習、カメラによる写真・動画撮影、情報収集や交流等、様々な活動が始まったのですが「ネットワークに課題を感じる」という声が大量に届きました。テレビ会議の学習は想定していましたが、動画をリアルに受信しながら双方向でやり取りすることまでは想定できていなかったのです。

それをどう解決したのか。市長部局からはもっと十分な想定と計画が必要であると指摘されましたが、第3期つくば市教育進行基本計画では「子供たち1人ひとりが幸せな人生を送れるようにする」ことを目標に進めています。市の方針に則り、市長部局と連携して一丸で解決していきました。

■アセスメントで原因を明らかにする

「ネットワークが遅いから解決して」と言うだけでは予算は確保できません。どの部分でどんな現象が起きており、何を改善すれば解決するのかという説明が必要です。そこで、ISP、フレッツ網、ルータやFW等機器、Wi-Fi、エンドポイント等、すべての活用場面を切り分けてアセスメントを行いました。

最も問題だったのが、端末のアップデートとISP網でのパケットロスの可能性でした。

そこで、パケットロス解消についてはISPのオプション契約としました。センター集約回線についてはインターネット負荷の大きい双方向ツールに関してビジネスタイプの契約に変更し、改善を図りました。ローカルブレイクアウト回線も全体で10回線増設し2400人規模の学校には1Gの回線5本を契約。1人あたり3~5Mbpsの帯域を確保します。

ルータやFWについても可視化を依頼しています。Wi-Fiについても全体のインシデント報告書の作成をICT支援員に依頼。エンドポイントについてもスピードテストを行っています。

今後は、教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン改訂版を参考にしながら、さらにネットワーク環境を進化させていく予定です。

■アカウントは教育委員会が用意

デジタル教科書の活用状況は、デジタル教科書の配信会社からアクセスログの提供を受けています。それによると学習者用デジタル教科書は導入当初、ほとんど活用されていませんでした。

なぜ使わないのか、使えないのか。調査したところ、文部科学省の事業では、各教科書会社と学校が直接やりとりする仕組みで、デジタル教科書の児童生徒アカウント発行ができていない学校がほとんどでした。

そこで、教育委員会として各校のアカウント発行を支援することとしました。本市は学習eポータルにL-Gateを採用しており、校務支援システムの名簿をAzureと連携して管理しています。教育委員会が学習者用デジタル教科書のアカウントを準備することにそれほど時間はかからず、アカウント発行を各校に通知するだけで始めることができました。他市でも教育委員会がアカウント発行をしている事例があり、学校任せではなく、教育委員会が行う方がスムーズであると感じています。

■学習者用デジタル教科書は持ち帰り自由に使う

活用支援では、事例を全校に周知すると共に端末を持ち帰って家庭から学習者用デジタル教科書にアクセスし、何ができるのかを児童生徒自身が体験することを推奨しました(※)。学習者用デジタル教科書の活用が進んでいない学校にはお勧めしたい方法です。(※事例を「つくば市先進的ICT教育」に掲載)

活用が進むにつれ、学習者用デジタル教科書は、単体だけの活用では終わらないこともわかりました。コミュニケーションツール(つくば市はMicrosoftTeamsを活用)やデジタルノート、インターネット検索等と組み合わせて、教科書を核としながら様々な回り道をすることが重要であると感じています。反転学習のような活用も効果的で、家庭学習との連携が始まっています。

■データ活用は学習eポータルで管理

困っている子供に確実な支援を届けるために教育データを活用できると考えています。

デジタルドリルの学習履歴や各教科の到達度、理解状況や授業満足度自己調査など学習面と、その日の気分の入力(朝食の有無や教員に伝えたいことを記入)など生活・健康面を蓄積し、月別・週別で可視化しています。すべてMicrosoftアカウントで管理しており、データ連携が可能です。これにより、顔色の優れない子供に「どうした?」等ふわっとした声かけではなく、「朝ごはんは食べてきたか」「勉強で困っているところはないか」等、より具体的な声かけができます。また、基準値を決めてアラートで示しています。データ分析が細かすぎると教員は確認するだけで大変になりますので、なるべくシンプルにしたいと考えています。

1125日に授業公開を実施

つくば市学校ICT教育45周年記念大会を1125日に開催(eスクールステップ・アップ・キャンプ合同開催)し、つくば市の学びを公開・ご報告します。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年10月3日号掲載

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