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教育ICT

「個別最適な学び」と「データ活用」  デジタルドリルで「データ活用」が身近に 個別最適な学びを支援~垂水市教育委員会

2022年9月9日

鹿児島県垂水市教育委員会  学校教育課主幹兼指導主事                  今村圭氏

鹿児島県垂水市教育委員会(小学校8校・中学校1校)ではGIGAスクール構想による情報端末(WindowsOS)配備を2020年度中に終え、「個別最適な学び」と「データ活用」に取り組んでいる。本取組を教育委員会 学校教育課の今村圭 主幹兼指導主事に聞いた。

■2021年度から端末活用スタート

2021年度から「端末持ち帰り」「AIドリルの導入」「生徒指導での活用」「協働学習の促進(遠隔教育)」の4本柱で進めている。

鹿児島県内の公立小・中学校にはGoogleアカウントもMicrosoftアカウントも配備されており、オンライン授業や通常の授業で活用している。オンライン授業はMicrosoft Teamsで行い、授業での資料配信や学び合いはGoogle JamboardGoogleドキュメント等を使っている学校が多いようだ。

今年度も1学期から端末持ち帰りを行っており、WiFi環境のない家庭にはポケットWiFiを貸与している。

端末持ち帰りを円滑に進めるためには、保護者理解も重要だ。6月に、情報教育を専門分野としている渡邉光浩准教授(鹿児島女子短期大学)に保護者向けの講演を依頼。共通理解を図った。

2022年度の夏休み期間には、GIGA関連に特化した教員研修を設定。「AIドリル」「生徒指導活用」「授業支援ツール」「教育講演会」を1日で実施した。

■AIデジタルドリルを活用

 現行の学習指導要領は、「資質・能力」の育成を目指している。そのためには課題研究や探究的な活動を重視する必要がある。

各生徒の夏休み中の取組時間がわかる

各生徒の夏休み中の取組時間がわかる

教科・問題ごとの達成度を個人別に一覧できる

教科・問題ごとの達成度を個人別に一覧できる

一方で、効果的な探究を進めるためには基礎的な知識を確立する必要がある。

その部分を整えるものとして、デジタルAIドリルを活用することができると考えていた。

実際に活用が始まると、それだけにとどまらない様々な効果があった。

デジタルAIドリル「navima(以下、ナビマ)」(凸版印刷)は、教育委員会の方針として当初から端末に入っていた。

端末導入当初は、中学校の教頭として、GIGAタイムを設けて、全校一斉にログインして「ナビマ」や「スクールライフ」ノート等の記入を行った。生徒は一度ログインするとすぐに慣れ、活用が始まった。

情報端末の持ち帰りは2021年6月下旬からスタート。

「ナビマ」は児童や生徒の学習の習熟度や取組時間など様々なデータを閲覧できる。

それらデータを見ると、朝自習や授業時間外に、自主的に取り組んでいる生徒がいることがわかった

そこで、教員の指示通りの取組でとどまっている生徒たちに自主的な学びへの刺激を与えたいと考え、取組時間の長い生徒を毎月、全校生徒に紹介して、生徒のやる気につなげた。

現在、「ナビマ」は授業の振り返りやまとめの学習で使っている教員が多い。ある学年では、毎週金曜日の朝自習で「ナビマ」のデジタルドリルに取り組んでいる。家庭学習とする教員もいる。

■わかりやすいデータ表示で「データ活用」が身近に

「ナビマ」は、授業時間のほか、休み時間や自宅でも取り組むことができる。

教員はその間の取組状況について、クラスごとや個人ごとの取組時間や習熟度等をひと目で確認できる。

これまで、教員の仕事は「採点」がまず必要であった。

「ナビマ」は採点不要ですぐに取組状況のデータを見ることができ、かつ1週間で900分以上取り組んだ生徒、2分程度取り組んだ生徒、テスト前に長時間取り組んだ生徒等、生徒の様子が具体的に分かる。

また、どこでつまずいているか、何回チャレンジしたかなども分かりやすく表示される。データが分かりやすいため、教員もそのデータを利用したいと考えるようになる。

データ活用というと「そのデータを何に活用するのか目的を提示することが重要」と言われるが、データを見て初めて分かることが多いことにも気づかされる。何より、生徒が取り組むこと=データ蓄積であることを体感できる。

これまでの学びの成果は、ノートが中心であったが、これをずっと残しておくことは難しい。データであれば長期保存と分析が可能であると感じた。

■データ化は個別支援につながる

データを見ると、中学校1年生のときから「ナビマ」のデジタルドリルに取り組んでいる現在の2年生は、日常的にデジタルドリルに取り組んでいる。

また、現在の3年生は2年生の頃からデジタルドリルに取り組んでいるが、中学校1年の問題に取り組んでいる生徒もいることが分かる。中には、小学校の問題に取り組んでいる生徒もいる。

その学年の問題だけではなく、すべての学年の問題にアクセスできる点が「ナビマ」のよい点だ。

学年により、教科の取組時間に違いがあることも分かる。

つまずき箇所が、それぞれ異なることも分かるため、つまずいた箇所についてどんな一斉指導とするのか、ではなく、どう個別に支援していくか、という発想になりつつあると感じる。

分析レポートが教育委員会に毎月届く

教育委員会には「ナビマ」開発元の凸版印刷から毎月、各校の分析データが届く。

どの教科、どの時間の活用が多いのか、取組時間や習熟度別に各校を比較でき、前月と比較もできる。

習熟度と活用時間のクロス集計で、支援が必要な学校もひと目でわかる。

データ分析が分かりやすいと、データ活用のイメージがわきやすい。

学習データ活用には、児童生徒それぞれが自らのデータを活用する視点と、教員が児童生徒や学級のデータを見て活用する視点、教育委員会が各校のデータを見て活用する視点がある。

児童生徒が自らの長所短所をメタ認知するためのデータ活用は重要だが、教員もしくは教育委員会として、どうデータを活用していくかという視点も必要である。

■3年間不登校だった生徒が登校した

情報端末導入当初、中学校2年生で、小学校5年から不登校の生徒がいた。

その生徒にも端末を渡したところ、「ログインの方法がわからない」と登校。教員は個別支援した。

継続してその生徒の取り組み状況をデータで見ていると、家庭で「ナビマ」に取り組んでいることがわかった。

ドリル問題でつまずいた箇所は赤く表示されるヒートマップ機能があるので、普段の様子を見ることができなくても、適切なアドバイスをしやすい。学習状況のデータを基に、その生徒と定期的なやりとりが始まった。

現在3年になり、1学期から週1回程度のペースで別室登校し「ナビマ」等に取り組んでいる。

「ナビマ」を通じてつながる手段ややりとりが増えたことで、登校につながったと感じている。

各生徒の夏休み中の取組時間がわかる

各生徒の夏休み中の取組時間がわかる

教科・問題ごとの達成度を個人別に一覧できる

教科・問題ごとの達成度を個人別に一覧できる

■個別最適な学びに向けて郷土素材をDB化 

個別最適な学びとは、「個別最適な学びを子ども自身で調整しながら進めることができる」ことであると考えている。そのために配備されたものが1人1台の情報端末を始めとするICT環境である。

自律的に進めるためには、自分の強み、弱みをメタ認知し、自らの学びをデザインする力が求められる。

自らの学びのデザイン力を高めるためには、プロジェクト型学習の体験が必要であると考え、垂水を約260年治めた垂水島津家の武家屋敷群を始めとする豊かな歴史遺産や自然遺産などの郷土教材をデータベース化していきたいと考えている。データベース化を図ることで子どもが自ら選択して学び、それを全国に発信したり、異動した教員が利用したりしやすいようにする。

■市内で自主研修団体が立ち上がった 毎月第二土曜日の午後に情報交流

様々な研究会や連絡会がMicrosoft Teams上に立ち上がっている

様々な研究会や連絡会がMicrosoft Teams上に立ち上がっている

鹿児島県では「KagoGIGAスクール情報交流室」をMicrosoft Teams上に立ち上げ、情報交流を行っている。登録者は県内543人の教職員だ。

垂水市内でも情報共有を進めたいという本市教頭会の発案により、今年度当初から、垂水市内小・中学校内で、自主研修集団「GIGAスクールのまち 垂水 自主研修チーム」が立ち上がり、オンラインで毎月第二土曜日の午後に情報交流を行っている。登録者は現在40人。交流会に当日参加できない教員も、当日の録画をオンラインで視聴できる。

ここでは日常的に情報や感想等が投稿されている。

「デジタルドリルで反転授業をやってみた」「夏休みはすべてデジタル課題とした」「こんな講演会がある」等の書き込みが随時ある。鹿児島市立桜峰小学校からは、「予習型授業」を提案。YouTubeにもアップされており、こういった情報も共有される。

教育委員会も参加できるので、学校の生の発信を共有しやすくなった。

文部科学省が求める「学び続ける教員集団」に育ちつつあると感じている。

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