福島大学附属中学校(横島浩校長・福島県)は英語と理科の学習者用デジタル教科書(東京書籍)を2022年度より活用している。同校の研究主任・関本慶太教諭は、担当の理科において、探究のプロセスを意識しながら、Googleドキュメントと学習者用デジタル教科書を組み合わせて授業を進めている。7月7日、3年理科の授業を取材した。
理科室の前面には150インチのスクリーンが中央に、65インチの大型提示装置が左右に配置されている。生徒の端末(iPad)はキーボード付き。机上のペン立てにタッチペンが数本設置され、いつでも使えるようになっている。この日は「生物の成長と生殖~染色体の受け継がれ方」で、親から子への染色体の受け継がれ方を考えた。
関本教諭は中央の大型スクリーンに、生徒が設定した課題と教員が準備したモデル図を提示して、それを生徒端末に配信した。モデル図は生徒に考えさせるため、学習者用デジタル教科書の情報量を制限した内容だ。生徒は、親2匹・計8本の染色体が子供にどう受け継がれるのかについて、個人で考えてから班内でデータを共有して意見交換をし、全体発表を行った。意見交換は端末画面を見せながら積極的に行っている。前時の学習内容のデジタル教科書画面を確認している生徒もいる。発表時は、大型スクリーンに生徒端末の画面をAppleTVの機能でミラーリング。ミラーリングも生徒自ら行っている。他の班の発表を聞きながら端末上のまとめを修正しているグループもあった。
「今度は学習者用デジタル教科書のモデル図を使って考えよう」
関本教諭が学習者用デジタル教科書のモデル図を示すと、生徒からは「すごい」と声が上がった。授業冒頭に示した図は画像だったが、こちらは自由に染色体を動かすことができるシミュレーションになっている。関本教諭はここで「減数分裂」について説明。生徒はモデル図上で考えを整理。各自のワークシートを完成させていった。
次の時間の見通しを持つため、関本教諭はスクリーンに、デジタル教科書のタマネギが発根した種子と細胞分裂の写真を提示。細胞分裂の順番を学習者用デジタル教科書紙面に書き込むことを宿題とした。休み時間でできる程度の内容だ。
関本教諭は「本校の生徒は、1年生から探究のプロセスを意識して取り組んでおり、それが身に付いている。そこにクラウド活用や学習者用デジタル教科書を組み合わせて授業を展開している。昨年度から、板書を使わず、同時に共同編集できるGoogleドキュメント上のワークシートを大型スクリーンに投影して授業を進めている」と話す。ワークシート上に単元の課題を提示し、生徒が直接そこに意見を書き込んだり、図版を張り込んだりして1時間につき1ファイルのワークシート完成させる流れだ。「板書は横幅が広く、それを縦書きのノートに上手くまとめることができない生徒をどうサポートすれば良いのか考えた結果、今の方法になった。授業後は、授業で共同編集したワークシートのデータをいつでも見返すことができるので、それぞれの生徒が自分の写真や図版、振り返りを追加して、紙のワークシートとして完成させている」
学習者用デジタル教科書の図版や自分で撮影した写真など、生徒は様々なものを紙のワークシートに追加して完成させている。理科室前には4台のプリンターを設置しており、生徒は各自のiPadから図版や写真等を印刷。理科の教材費で整備したプリンターだが、現在は他教科でも活用されている。
学習者用デジタル教科書は今年度から活用。「考えさせることを重視して情報量を調整し、課題提示をしている。様々なシミュレーションコンテンツで生徒も理解しやすい。端末上で作業できて共有しやすくなり、授業の深まりを感じる。必要な教材を探す手間も短縮し、教員の働き方改革にもつながる」と話した。
本校では4年前から1学年分の情報端末を配備しており、積極的に活用していた。GIGAスクール構想による端末配備後、1人1台環境になり、学習履歴を残しやすく、共同編集や振り返りもしやすくなった。学習者用デジタル教科書の活用は今年度から英語と理科で始まったところ。関本教諭が中心となって積極的に取り組んでおり、6月に行った研修では県内から多数の参加があった。附属学校として効果的な活用を検証し、広める役割があると考えて進めていく。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年8月1日号掲載