国はAI/IT人材の育成を急務と考え、STEAM教育の充実に取り組んでいる。文部科学省「学習者用デジタル教科書普及促進事業」により、全小中学校に1~2教科の学習者用デジタル教科書が配備されている。学習者用デジタル教科書はSTEAM人材育成にどう活用できるのか。教員対象に導入研修を行っている大日本図書デジタル事業部の市川治氏に小学校理科・算数及び中学校理科・数学の学習者用デジタル教科書活用について聞いた。
既に学習者用デジタル教科書を活用している学校からは「これを使うと教室が活性化する」「探究のプロセスを組み立てやすくなった」と聞いています。一方、情報端末の活用が進んでいる学校であっても、学習者用デジタル教科書をどう使えば良いのかわからない、という声もあります。そこで研修では、こういう方法ならば使ってみたい、便利そうと思われるような各校の事例を中心にお知らせしています。
学習者用デジタル教科書は、問題解決能力育成の段階を踏んで授業を進行できるようにしており、個別学習にも一斉学習にも活用できます。
ある教員は、実験前と実験中の写真を拡大して前方に提示し「違うところにマルをつけてみよう」と発表活動につなげていました。また、理科の実験では必ず「予想する」場面があります。その箇所を教員が前方に拡大して提示し、児童がそれぞれ付せん機能で「予想した内容」を書き込み、グループや全体で共有していました。
シミュレーション教材では、実験結果や数値、条件を変更して繰り返したり比較でき、岩石などの写真を拡大して観察することもできます。まとめのコンテンツにも書き込むことができ、宿題にすることもできます。1人ひとりが操作する等個人活動を保障しやすい点が学習者用デジタル教科書のメリットです。
これらはすべて、これまでは紙のワークシート上で行ってきた活動です。学習者用デジタル教科書では書いたり消したりの試行錯誤がしやすいので、紙で考えていたときよりも集中が増す効果があるようです。書き込んだものを見せ合って話し合うことで、児童同士の話し合いが進みやすく活発になった、探究の過程を実現しやすくなったという声もあります。
小学校算数の学習者用デジタル教科書で多くの教員が使っているのが「図形」分野ではないでしょうか。例えば平行四辺形の面積の求め方を考える際、自分の教科書上で図形をカットして求め方を考えることができます。個別に試行錯誤してから発表するので、発表活動もこれまで以上に活発になるようです。「点対称」についても「180度回転して同じ形」であることを、実際に動かして体験できます。弊社では、計算問題の正誤判定や学習履歴を閲覧する機能も搭載しています。
プログラミング教材「プログラミングにちょうせんしよう!」も全学年に搭載しており、学習者用デジタル教科書上で命令ブロックやScratchを体験できます。
中学校の学習者用デジタル教科書は、制作時期がコロナ禍と重なったこともあり、実験動画含め、指導者用デジタル教科書に入っているコンテンツのすべてが学習者用デジタル教科書に入っています。
ある中学校では新しい単元で、まず教員が全員に動画やシミュレーション教材を提示してポイントを解説。その後、学習者用デジタル教科書で個別に動画や教材を視聴してワークシートにまとめる、という流れで進めていました。インターネットや資料で調べている生徒もいました。「地震」の単元では、前時の復習として全員一斉に学習者用デジタル教科書の動画を視聴していました。イヤホンが配備されていなかったのですが、多くの生徒は字幕を自分の好きな場所に配置し、好みの大きさに表示して視聴していました。巻き戻しや繰り返しもそれぞれのペースで進めていました。
また、ある中学校では、学習者用デジタル教科書に生徒が気付きや発見、まとめなどを書き込み、その時間の終わりに、学習者用デジタル教科書紙面をスクリーンショットして教員に提出していました。
学習者用デジタル教科書上に書き込んだ図版や表等を各自で印刷してノート貼ってまとめている学校もあり、様々な工夫が見られるのが中学校の特徴です。
中学校数学ではすべての学年に「データの活用」が追加され、新しく累積度数や反例、四分位範囲、箱ひげ図の学習が加わりました。データ活用による分析や問題解決に役立つ内容です。
学習者用デジタル教科書では、標本数とデータを選択すると、度数分布多角形や箱ひげ図として表現されるシミュレーション教材を搭載しています。説明のみで理解するには難しい部分もあり、何度も自分で数値を変えてシミュレーションすることでデータの扱い方のイメージを育むことができます。1人でも学びやすいように、教科書紙面のキーワードや答えは予め付せんで隠してあり、数学的理解を支援するための動画教材も充実しています。
小中学校共にGoogleClassroomやロイロノート、MicrosoftTeams等、各種授業支援ツールと連携した取組が浸透しています。
教員は、児童生徒に見てほしいページや資料のリンクを送り、児童生徒は、動画や教科書本文、授業を通して分かったことをオンラインで提出するという流れが主流になっています。
教科書紙面とツール等を端末に2画面表示している児童生徒もいます。学習者用デジタル教科書の反転機能、背景色変更機能、総ルビ機能を使って、自分が使いやすい紙面にカスタマイズしている児童生徒も多く見られます。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年8月1日号掲載