愛知教育大学では、2021年度文部科学省事業「教師の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」に採択され、学生のICT活用指導力向上を目指し、22年度も継続して取り組んでいる。21年4月、愛知教育大学理事・副学長に就任した新津勝二氏に、同事業の取組を聞いた。
本学では2018年より文部科学省「教員のICT活用指導力チェックリスト」を用いて学生のICT活用指導力を検証している。4年間継続した調査結果によると、現状では学生のICT活用指導力のピークは1年前期(7月)であった(表参照)。これは、共通教育科目(必修)「情報教育入門」(2単位)をこの時期に受講するものの、それ以降の学習でICTを活用することを取り入れた授業を受けていないことを示唆する。さらに、昨年度の教育実習時のICT活用状況の調査では、学校教員による授業では90%でICTが活用されていたのに対して、実習生自身の活用は50%程度で教材の提示が中心となっており、1人1台端末環境を活用した、学習者主体の学びでの活用に課題があることも明らかになった。このため、本事業では大学4年間を通して、学生の「ICT活用指導力」を右肩上がりに向上させることを大きな目標としている。
本学の学生は、1年生から実践力育成科目として体験的に学校教育に触れる学校体験活動を行っている(1、2年生必修、3、4年生選択必修)。加えて、昨年度後期から、教育機関や企業と連携して、全学FD講演会、情報モラルや教材開発の研修会、教科書会社8社との共催によるデジタル教科書体験型研修会を8回開催した。
研修会に参加した学生たちは、ICT活用の先進的な実践や各社のデジタル教科書の特徴を知ることにもつながり、研修後のアンケートでは9割以上が「もっと学びたい、他の機能も活用したい」と回答した。
また、本事業では、前述の学校体験活動にICT支援員的な活動も加えるとともに、教職実践演習でもICT活用を積極的に取り入れるなど、4年間で確実にICT活用指導力を身に付けるためのカリキュラムマップを策定。必修科目「情報教育入門」で使用する『ICT活用指導力アップ!教員になるための情報教育入門』(本学教員監修)も改編し、さらにこの発展(2年生用)としてICT活用指導力育成のための科目「学校教育におけるICT活用」を新設する。
この新設科目では、ハイブリッド授業を想定し、3分の2をオンデマンド教材、3分の1をオンラインもしくは対面授業を前提としたモジュール教材も同時に開発中。本教材等を活用した知識・技能の習得と学校体験活動等による実践により、「教員のICT活用指導力チェックリスト」の数値を向上させかつ他大学や教育委員会主催の研修などにも貢献したいと考えている。
本事業の成果目標は、学習者中心の授業デザイン等の理解促進、ファシリテーターとしての教員の意識向上、新しい学びを創造する意欲や態度の育成である。
本事業の実施のため、今年度から教職キャリアセンター内のICT活用等普及推進統括部門に専任教員2名が予算措置された。そのうちの1名分をクロスアポイントメント制度枠として企業等における幅広い知見を共有。関係機関との連携体制を強化している。クロスアポイントメント制度とは、大学、公的研究機関、企業の中で研究者等が2つ以上の機関に所属してそれぞれで研究・開発及び教育に従事することで、現在3名(情報関連企業2名、他大学1名)が、ICT活用に関する指導助言や支援、全学FD、SD研修における講演、著作権法に関する指導助言などを行っている。
本事業の成果を全国展開するため、コンテンツ開発や映像の編集・配信方法、新たな教員研修制度への貢献などについて、教育委員会を始めとする教育機関や他の情報関連企業とも連携している。
本学では2021年3月、愛知教育大学 未来共創プラン(愛知教育大学中長期ビジョン・目標・戦略)を策定。3つの目標と9つの戦略に沿って取組を進めている。本プラン策定に伴い野田敦敬学長自らが愛知県内54市町村に赴き、各教育長と意見交換を行ったところ、教員採用試験の受験率低下、教員のICT活用指導力の向上、外国人児童生徒への日本語教育、保護者対応での苦労など多くの課題を共有した。主な戦略は学校現場における現代的課題の解決も目指している(表参照)。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年7月4日号掲載