高橋 「1人ひとりが主語」になります。これまでも目指していたものですが、それが実現しやすくなりました。
うまくいっているところは大きな変化が見られます。愛知県春日井市の小中学校では、昨年度2学期の時点で約9割の教員と子供が毎日端末を活用しています。その子供に「端末の活用で何が変わったのか」を聞いたところ「見通しを持ちやすくなった」「楽しくなった」「自分のペースで進められる」などの声が際立っていました。また、教科の点数を上げるという方向のみではなく、Googleカレンダーやチャットでつながる、重要事項は保存する等、かなり使いこんでおり、自分なりのペースで学ぶ工夫や学びの準備に端末を使っていることがわかりました。
越塚 「新しい『万能』文房具」が入手できたことです。端末は、端末そのものに活用目的がないという人類初の道具です。何に使うのかという明確な意思に左右されます。文房具のように気軽に使うことが大事です。
堀田 端末は、人の目的感に依存する面があるという重要な指摘です。新しい学びにも使えますし、昔の授業を補強する道具としても使うことができてしまいます。新しい学びを創りたいと思うことでそのような活用が進みます。
山内 「共同編集による学習の深化」が生まれると考えています。
「コンフリクトを乗り越えるプロジェクト学習」について関西学院千里国際高等部と共同研究に取り組んでいます。情報環境は便利です。切り取って加工するだけでそれなりの発表をすることができてしまいます。ではどうすれば深い協働学習ができるのか。
具体的には防災に関するプロジェクト学習で「被災地支援は内からと外からどちらが有効か。矛盾を統合するアイデアを出す」ことをテーマに設定しました。「矛盾や問題を乗り越える」ことが重要なのは実社会でも同様です。その模倣的学習を展開しました。
グループ討議は、言いっぱなしだったり、ディベートのように言い負かすことが目的になったりしがちですが、それを乗り越えるために討議のプロセスをGoogleスプレッドシート上でリアルタイムに可視化し、それに基づき教員が適切に介入を行うことで、事後のレポートが大きく改善していきました。
共同編集によりこれまでできなかった高度な協働学習ができるという可能性は今後の取組のポイントです。
堀田 大人になったときの仕事のイメージに接続する学習ですね。プロジェクト学習を上手く進行するためには、教育的なデザインが必要であり、リアルな学びを取り入れる際にクラウドやICTがうまく機能します。
大学の学びを知った上で、小中高等学校の学びを議論すべきであると感じていますが、今、大学ではどのように進んでいますか。
山内 本学はコロナ禍の影響でほぼ100%オンラインになり、日常的にオンラインでリアルタイムに共同編集しています。
堀田 1人ひとりが十分に参画し相互作用し合って深く学ぶことを支えるものが1人1台端末とクラウド環境であり、これが繰り返されると大学入試も変わっていくことが予想されます。東北大学は3割強がAO入試でした。こだわりの強い学びを進めている人が混ざることで教育効果が上がることを重視しています。
高橋 クラウドで常時つながり続けることの成果は、同じ教室空間にいながら、それぞれの学びができるようになったことです。これまでは「単一の進行」で「一斉の協働学習」でした。それが同じ教室空間であっても個別に協働学習を進めることができます。非同期分散と協働という矛盾が同時にバランスよく実現できるようになりました。
越塚 クラウドや端末を活用すればするほど、人にとって何が重要なのかがわかってくる面があります。
PCもデータもある、しかしどう使ってよいかわからない、問題を見つけることができないという状況は、使っていくうちに、何を学ぶべきかがわかっていくのではないでしょうか。
堀田 学習の軸足が端末やクラウドを活用することにより学びの本質が浮かび上がってきます。
山内 現在は対面授業をしながらオンライン参加もしてグループ学習を行っています。オンライン参加は健康状態に問題のある学生のための学習機会の確保という側面はありますが、卒業生やゲストがオンラインで参加できる点がより重要です。学習の共同体がオンラインで半分世界中に開くことで強い学習環境が実現します。初等中等教育でもこれからどんどん新しいことができるようになるのではないでしょうか。
堀田 対面とオンラインを同時に展開する良さを体験していることは重要で、そのような学びを経験している人が教員になると良いですね。