久喜市内全小中学校(小学校22校・中学校11校)にGIGAスクール環境が整備されてから11か月。12月の時点では、全授業のうち80%以上で端末を活用した学習が行われているという。川島尚之氏(教育部指導課主幹兼GIGAスクール推進室長)は「学校も教育委員会も変化を楽しんでいる。それが前進するための一番のポイント」と話した(フルノシステムズ教育機関向けウェビナー「アフターGIGAからの課題!実践事例から学ぶ、ICT授業の秘訣と通信環境」2月24日実施より)。
久喜市ではいまやICTは、あって当たり前の「お箸」になりつつある。小学校1年生から中学校3年生まで、端末を使わない授業は「稀」になり、メインが電子黒板で通常の黒板が補助的なものになってきた。登校している子供とオンライン参加の子供が当たり前に討議している。
12月のデータでは、354教員6421授業のうち83・3%がChromebookにログインして学習していた。Google Classroomは700以上が稼働。学級数の1・6倍のクラスがアクティブであった。
Google Meetは分散登校時、1日当たり約7000アカウントが、分散登校終了後も約1000アカウントが稼働していた。
2020年度3月の前例のない3か月間の休校期間、「子供たちのためにできることはないか」という教員の思いが高まった。そこですぐにオンライン学習を準備。教員スキルの向上を一気に図ったところ、自主的な学習グループが生まれ中核教員が育まれていった。「自分には無理、自信がない」という教員はYouTube限定配信から開始。1本動画をアップできると、そのあとは取組が一気に進んだ。
当初から満足度が高かったのがWeb会議ツールを使った学習支援だ。コミュニケーションで活用し始め、次第に学習活用に進んだ。
21年度8月から9月にかけての分散登校では全授業でハイブリッド授業を展開し、日常的に教室参加とオンライン参加をミックスした授業になった。
分散登校が明けた後も、オンラインを活用した授業が常態化した。
教育環境は教員ニーズに適合していなければ活用は進まない。そこでどのような教育環境が必要なのかを試すため1小学校に久喜市版「未来の教室」を設置。GIGAスクール構想環境配備前に検証した。
アクセスポイント全教室分、インターネットブレイクアウト回線、持ち帰り用Wi―Fiルータ、大型提示装置、Chromebook、充電保管庫、学習支援アプリ、ICT活用研修の提供を企業に受け、初の学習スタイルを検証。様々な課題がわかった。
この研究をシェアするため「未来の教室研究委員会」を立ち上げて市内全34校から各1名の教員が参加。月1回ペースで研究会を実施し、現地参加とオンライン参加の教員が討議した。
「未来の教室」環境では成果も上がった。毎月実施している久喜市ステップアップテストでは7月時点で国語・算数共に市平均以下だった研究校の6年生は、9月以降学力が伸びた。
研究に関わった教員は「新しい着眼点がわかった」「学びを深めるためのツールの活用方法がわかった」「授業づくりのターニングポイントになった」と振り返っている。子供が楽しいと感じると教員の意識が変わり、授業改善が進むことを実感した。
この成果を受けてGIGAスクール構想環境を構築。学習者用端末はChromebookを配備。PC室のWindowsPCを設定変更して教員授業用PCとした。さらに21年度補正予算で授業用Chromebookも配備。授業用端末が2台になった。対面授業用とオンライン授業用で2台必要、Chromebookも使いたい等様々な教員の意見に対応した。
安定したネットワークは活用の生命線である。全学級で全員がアクセスしても大丈夫なようにフルノシステムズに依頼して事前に検証。その結果、インターネット回線はインターネットブレイクアウト・1Gベストエフォートで接続。21年補正予算により、大規模校は2回線とした。また、無線APは3RF対応(※)のACERA1210を配備(※2・4GHz帯1台、5GHz帯2台、計3波を利用可)した。
電子黒板は20年度補正予算で全普通教室に配備。特別支援教室も21年度補正予算で順次追加した。
ソフトウェアとしてはGoogle for Education、ミライシード、eライブラリを導入。このほかYomokka!やWinbirdの授業支援、Shuffle等をトライヤル中だ。
整備した環境は教員がより質の高い授業を計画し実行できて初めて価値をもつ。そこで「久喜市版 未来の教室」コンセプトとして次の5つを示し、それぞれのゴールを示して教育委員会は伴走することを心掛けた。
ゴールは次の3つ。
○日常的に仮想教室と現実の教室を連動して進める学びの常態化
○国内外問わず遠隔地と接続して学ぶ
○登校困難な児童生徒は家庭からリアルタイム・オンラインで学ぶことを選択できる。
これを実現するため夏休み明けの分散登校時はすべてハイブリット授業を展開。日常化に役立った。冬休み明けは積極的に授業のオンライン参加を選択できるようにした。保護者は朝、Googleフォームでオンライン出席を選択するだけ。市独自の措置でオンライン参加も出席としている。指導要録も同様だ。
国内外を問わず遠隔で学ぶため、教育委員会がコーディネータ役となった。5年生の社会科では漁業の課題を船上の漁師に直接聞くことができ、予想と異なる答えに児童は衝撃を受けていた。このほかシンガポールの日本人学校やメルボルンなど時差がない国とリアルタイムで交流・連携している。
ゴールは2つ。
○知識習得・定着のための反復学習をオンラインで実施
○学習記録のデータ化により発信していない児童生徒も含め、児童生徒一人ひとりの学習状況をより正確に把握、支援
最終的には児童生徒が自分の課題に向かって主体的に学び、それを教員が支援することを目指している。
各種アプリを活用しているが「ミライシード」は好評で、小中学校共に活用されている。
授業支援ツール「ウインバード」は、教室で授業を受けている子供もオンライン参加の子供も同様に端末画面を教員が取得できるのでハイブリッド授業で重宝した。
現在、データ利活用に関して脈拍変動解析を学びに活かす研究を中学校で行っている(グラフ参照)。集中度やストレス状況を授業改善や個別支援に活かす取組だ。同日同一人物でありながら授業により大きく集中度が異なることが一目瞭然だ。複数生徒のグラフを重ねるとグループ学習で誰が活躍しているのかもわかる。全員のグラフを重ねると、集中度が上昇している場面、低下している場面もわかる。これからの教員はこのようなデータとも向き合っていなかければならないと考えている。
ゴールは3つ。
○地域や企業と連携して社会とつながる教科横断的な学びの実施
○各教科の学びと情報活用能力の連携
○単元のまとまりごとにPBL化を図る
未来のエンジニア育成に取り組むジェームズダイソン財団により問題発見解決型学習を実施。高齢者が駅を利用する際の課題と解決案を検討し3Dプリンター等で様々なアイデアの実現に取り組んだ。アイロボット社とはプログラミング学習で連携。理想科学とは万華鏡模様をプログラミングして孔版印刷し、エコバッグを制作。Amazonの倉庫見学やプログラミング学習等、教育委員会がコーディネートしている。
ゴールは2つ。
○校務の効率化のためGoogleWork上に共有ドライブを構築
○校務もオンラインでできるようにする
テレワークも進めている。22年度には教育系サーバリースアップに伴いフルクラウド化を予定している。
GIGAスクール構想は環境配備がゴールではなく、何ができるようになるのかを考えて授業計画を立て、子供を支援することが重要だ。
本市は GoogleforEducationパートナー自治体プログラムに参画。校長対象、教頭・事務職対象にそれぞれハングアウト研修も行った。GIGA推進室指導室は認定研修を受けて資格を取得。授業者はレベル別に選択して12回の研修に参加した。教員が主体的にグループを作り、学び合うことで中核教員が育っていった。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年4月4日号掲載