輝翔学園つくば市立谷田部中学校(茨城県)ではGIGA端末(WindowsOS)が2021年6月にほぼ全児童生徒に配備され、同年9月の休校や分散登校時にはオンライン授業を行った。10月には文部科学省事業により中学校英語「NEW HORIZON」の学習者用デジタル教科書+教材(東京書籍)(以下、学習者用デジタル教科書)も配備され、1人1台端末を使った活用が浸透しつつある。小松﨑亮教諭は「学習者用デジタル教科書の導入で授業の流れが変わった」と話す。3月4日、7年生(中学校1年)の授業を取材した。
授業前には、全生徒が学習者用デジタル教科書を各自の端末で立ち上げ、授業開始を待っている。何人かはMicrosoftTeamsも同時に立ち上げており、前時の板書や課題を同時に確認できるようにしている。
小松﨑教諭は、教室前方の電子黒板に指導者用デジタル教科書の「Enjoy Listening」を提示した。これは本文をリスニングして「誰が何について話しているのか」等を解答する内容確認問題だ。まずは指導者用デジタル教科書の音声を全員で視聴してから、視聴した問題に答えを書き込ませることで、初見のリスニング問題にも取り組みやすくなる。
次に「Story Slide」を活用。パワーポイントを使って図や写真を見ながら本文の読み取りを行い、スキーマを高める(※)。英文を読む前にスキーマを活性化することで、スローラーナーにとってはハードルが下がり、内容を理解しやすくなる(※文章の情報や背景を知ること)。
Buzz Readingでは、最初は生徒全員が全文マスクの状態で、2回目からは自分のペースでマスクの量を調整してリスニングを繰り返した。学習者用デジタル教科書は、単語のマスク量をパーセンテージで各自が選択できる。すべての単語を表示させて聞いている生徒、半分程度の単語をマスクして聞く生徒、次第にマスクする量を増やしていく生徒がいる。
次に指導者用デジタル教科書で一斉にオーバーラッピングした後、各自の端末でオーバーラッピング。数分間の練習後に再度、全員でオーバーラッピングすると、各自の端末で練習したため一回目よりも声が大きく、自信をもって発音している生徒が増えていた。小松﨑教諭は、発音部分のみが表示されるモードも使った。
ワークシート(Dictation Sheet)は紙で配布。これはペア活動で行った。2名1組で、1人が教科書本文を読み上げ、もう一方の生徒はその発音を聴きながらワークシートの選択問題や記述問題を行うことで、一定の距離を確保しつつコミュニケーションし、相手を意識して読むことにつなげた。コロナ禍のため役割分担をして発音し合うスモールトークが難しいことから、小松﨑教諭が考えた方法だ。ワークシートの答え合わせは各自で行い、早く終わった生徒は、事前に配布していた内容理解プリントを行った。
授業の終わりは、Forms上でまとめの問題(選択1問、記述1問)と振り返り(記述)を配信。この日の22時が提出期限だ。
小松﨑教諭は「学習者用デジタル教科書の導入で授業の流れが変わった」と話す。その理由を聞いた。
これまでは訳読と文法解説中心の授業で、プリントの量も多かった。現在はまとめの問題と振り返り等をオンラインで配信・提出できるので、授業の終わりに急いで書き込むのではなく、自宅でじっくり取り組むことができる。授業展開も、思考・判断・表現力の育成を意識している。生徒に配布するプリントの量も減った。
学習者用デジタル教科書により、各自のペースでリスニングやオーバーラッピングができるので、集中して練習できている。紙ベースの学習だとモチベーションが上がらない生徒もいるが、学習者用デジタル教科書や様々なツールにより自分のペースで取り組むことに慣れ、英語学習や家庭学習の意欲が高まった。リーディングも学習者用デジタル教科書があると、音声を何度も繰り返して聞くことができるため、自宅でも安心して取り組めるようだ。
Teams上で利用できるツール「Reading Progress」を使って「自宅で音読している様子を録画、それを提出」する取組も始めた。
リーディングテストは表情やアイコンタクトも評価するため、マスクをしながらでは難しいことが利用のきっかけだ。AIによる自動採点機能もある。自宅で、自分ひとりでカメラに向かうため、リラックスした状態で話すことができる点もメリットだ。
今後はMystery Skype(※)にも挑戦していきたいと考えている(※ランダムに海外につながり互いにどこの国かをあて、コミュニケーションにつなげる交流学習。Microsoftアカウントで利用できる)。
本校では教員も子供も市から配備されているMicrosoftアカウントを主に使用している。2021年9月の休校やその後の分散登校時にオンライン授業を実施。朝の会をTeams上で行う、授業の始まりと最後にオンラインでつながって課題とまとめを行うなどの形が定型化した。その中で自分の意見を書き込みリアルタイムで共有することの楽しさや効果を体験できたことで、登校開始時の授業でも1人1台の情報端末の活用が進んだ。
休み時間の端末活用も試行錯誤した。現在は、部活動の連絡等も含め、自分の学びに関係のある内容であれば休み時間も放課後も活用できる。端末の持ち帰りも前提としているが、自宅の端末で学習する等、家庭の判断で持ち帰りをしていない場合もある。
学習者用デジタル教科書が配備された当初も、音声教材を各自で視聴する際にイヤホンを使用するか否か等、細部にわたり1つひとつ試行錯誤していたが、今では学習者用デジタル教科書は授業に自然に馴染んでいる。今後も、これまで以上に子供自身が活躍できる授業を意識して端末活用や運用の最適解を検討していく。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年4月4日号掲載