東北大学は2020年6月、「オンライン事務化宣言」を発出。同年7月に国立大学法人で初となるCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)を創設し、「業務のDX推進プロジェクト・チーム」が立ち上がった。そして同学ではNew Normal時代でのワークスタイルの変革の一貫として、事務環境をクラウド化し、高性能Chromebookを1,238台導入。本仕組み導入の経緯と活用について、オンライン業務推進課 業務推進係の川上翔係長、武藤槙子主任、岡田正之氏に聞いた。
2016年、東日本大震災の教訓を踏まえ、BCP(=Business Continuity Plan/緊急事態における事業継続計画)対応として仮想デスクトップを導入しました。仮想クライアントへ接続することで、利用者の業務環境をどこからでも利用でき、リモートワークへの対応も可能となりました。2019年度から、クラウド業務基盤として、Google Workspace for Education(旧 G Suite for Education)を導入しました。その後、新型コロナウイルス感染症の急拡大を受け、Zoom、Microsoft 365、サイボウズ Garoon等を導入して情報基盤を強化しています。
2020年度に事務系の若手職員有志56名で結成した「業務のDX推進プロジェクト・チーム」は、部署の垣根を超えて様々な業務のDXを推進する組織ですが、オンライン事務化宣言で掲げた「窓口フリー」「印鑑フリー」「働き場所フリー」を促進するため、各種手続きのオンライン化や電子決裁のシステム化を図ると共に、テレワークに関係するルールやマニュアルを整備しました。そして2021年4月にはテレワークおよびフレックスタイム制の導入を後押ししました。
現在、テレワークの環境改善のために職場にかかってきた電話を自宅で受ける仕組みとして、クラウドPBXの導入を検討しており、実証実験を行っています。また、問い合わせ対応の業務効率化のため、全学を対象に日本語・英語・中国語の3か国語に対応したチャットボットを導入しました。これは国立大学法人として初の試みです。
2020年7月に当時の情報推進課が現在のオンライン業務推進課となり、「業務のDX推進プロジェクト・チーム」と連携して業務のDXを進めています。オンライン業務推進課では、業務のDXに欠かせない事務システムの構築と運用を行っており、より良い職場環境の実現に向け、業務効率化のための検証やテレワークがしやすい環境を全職員に提供する役割を担っています。
仮想デスクトップ導入前は各部署でPCを購入しており、PCの台数や業務環境の管理が困難でした。また、基幹業務システム(財務、教務、人事のシステム)は共用端末(業務システムを使用するための専用PC)で行っており、業務により使用端末が異なる状況でし業務により使用端末が異なる状況でした。共用端末を誰かが使用している場合は待つこともありました。
さらに人事異動の際は使用するPCが変わるため、USBメモリにデータをコピーし異動先のPCへ移動する必要があるなど、効率が悪い状況が続いていました。
そこで、全職員が統一した環境となるように仮想デスクトップ(VDI)を導入し、事務職員は手元のPCから仮想デスクトップへ接続することで、業務に必要な各種基幹業務システムを利用できるようにしました。人事異動の際に手元のPCが変わっても、業務に必要なデータは仮想デスクトップに保存されているので、USBメモリによるデータ移動の作業等も不要になります。
仮想デスクトップの導入によってこれまでの課題は解決できましたが、経年により新たな課題が生じました。まず、2016年の稼働以降、度重なるOSアップデートにより、仮想デスクトップの動作が重くなっていました。また、コロナ禍における感染拡大防止のため、外部業者の出入りや出勤者数を制限する必要性が生じ、学内に保有しているサーバのメンテナンスが以前よりも難しくなってきました。BCPの観点からも、クラウド移行の必要性が浸透しました。
そこで、クラウドサービス上の仮想デスクトップ(DaaS)を導入し、仮想デスクトップ環境をこれまでの学内サーバ上からクラウド上に構築しました。同時に学内ファイルサーバの運用をやめて、Googleドライブの運用を開始し、Googleのオンラインストレージを利用することで安全性と信頼性をより高めることができました。
Chromebookの運用は2021年10月からです。それ以前に仮想デスクトップへの接続用として導入していたシンクライアント端末にはカメラやマイクが搭載されていませんでしたが、当時は特に不便さを感じていませんでした。それは仮想デスクトップを導入した2016年当時はWeb会議を行う機会がなかったためです。
2020年の新型コロナウイルス感染症感染拡大を契機としてWeb会議を行う必要に迫られた際は、別途USBカメラを用意して利用することもありました。しかし、仮想デスクトップではUSBカメラを認識しないケースもあり、Web会議の円滑な開催・参加に支障が生じていました。そこで事務職員向けの端末として、持ち運びできるカメラ付きの端末の必要性が高まっていきました。
全教職員と学生向けに2019年に導入したGoogle Workspace for Educationとの親和性や端末の起動の速さ、ローカルにデータを残さない仕組みなどに着目し、テレワークに伴う持ち運び時の安全確保の観点からChromebookの導入を決めました。またChromebookでは個々のWebページとアプリケーションが「サンドボックス」と呼ばれる制限された環境で動作しているため、万が一Chromebookでウイルスに感染したページを開いたとしても、他のタブ、アプリ、その他の要素に影響が生じることはないため安心です。
Chromebook導入前にはオンライン業務推進課内で複数機種の検証をしました。
小中学校で導入されているGIGAスクール構想モデルと同スペックの機種を試用したところ、参加者の多いWeb会議の際に音声が遅延したり、動画が途切れたりすることがありました。また、GIGAスクール構想では11.6インチモデルが大半でしたが、職員が自宅に持ち帰り、Chromebookだけで業務を行うには画面が小さいという声も挙がりました。
そこで、持ち運びがしやすく、ある程度の画面の大きさが確保できるように、ディスプレイサイズの仕様を13〜14インチとしました。応札の結果、ディスプレイ14インチ、CPU第8世代インテル® Core™m3、メモリ8GB、ストレージ32GBのモデルが採択され、GIGAスクールモデルよりも高性能なスペックのChromebookを事務職員用に計1,238台導入しました。
既存のシンクライアント端末はモニターとのセットで使用することが前提であるデスクトップタイプだったため、テレワークの際に持ち帰ることができない不便さがありました。そしてテレワークを行うために私物の端末を使用する機会もありました。
今回導入されたChromebookは画面サイズが14インチと大きく、かつ薄くて持ち運びしやすいノートパソコンタイプの端末ですので、これでテレワークも捗るのではないかと思います。端末にインカメラも標準装備されているため、Web会議も問題なく接続できます。
また、このChromebookは360度フリップタイプなので、テント型やタブレット型など様々なスタイルに変形できます。使い慣れたキーボードやディスプレイと接続して、2画面で作業している職員も多くいます。私自身は3画面で作業することが多く、様々なデータファイルを同時に開いて作業することができるので、効率的に業務を進めることができると感じています。
シンクライアント端末ですと、何等かのシステム上のトラブルやメンテナンス等で仮想クライアントにログインできない場合、業務を進めることができません。Chromebookに変わったことで、仮想クライアントにログインできなくても、Google ドライブやGmailにアクセスするなどの業務は継続できます。Web会議も問題なく行うことができます。
様々な設定情報はそれぞれのGoogle アカウントに紐づいているため、異動先の端末からアクセスしても、過去に自身で作成したデータファイルやChromeブラウザ上のブックマーク
などは、データ移行の作業をすることなく、そのまま継続できます。また、Google ドライブ上で資料を配布・閲覧する機会が増えたため、印刷量そのものも大幅に減っています。
ただ仮想デスクトップ環境がWindows、接続する端末がChromebookであることから、OSをまたぐことでショートカットキーがうまく機能しない等、予想外のことも起こりました。印刷やスキャナーはChrome OSに対応していないものもまだまだ多く、対応していても、給紙トレイを選択できない場合もあったりします。この場合はWindows PCで対応していますが、特に大きな問題点ではないと感じています。
本学において、既に学生はBYODが採用されており、自分の端末を持って入学してきます。デジタル化の加速を止めることはできません。これまでと異なる点=悪い点と考えるのではなく、新しい方法を模索して活用していく気持ちが重要だと考えています。
東北大学DX=https://www.dx.tohoku.ac.jp/
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年3月7日号掲載