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教育ICT

生きて働く「高次」の知識を獲得することに情報端末を活用する <東京学芸大学教育学部 高橋純准教授>

2022年2月7日

東京学芸大学教育学部
高橋純准教授

NPO法人学校図書館実践活動研究会(SLPA)は1月8日、第2回子供の学び研修会をオンラインで開催。東京学芸大学教育学部・高橋純准教授は「豊かな学びと情報活用能力の育成」をテーマに講演した。

学校の実情に合わせてスタートを切る段階

GIGAスクール構想で情報端末が配備され、「情報活用能力をどう身に付ければ良いのか」「端末をどう活用させれば良いのか」と質問される機会が増えた。

答えは1つではない。地域差が大きく、その実情に合わせた活用はそれぞれであるからだ。うちの学校ではチャットは禁止している、情報端末を使用するタイミングは教員が決めている、という場合もあるだろう。自分の地域に合わせた活用をせざるを得ない、というのが今の段階だ。しかし、慣れるにつれて意識が変わり、活用も変わる。

石盤をノートとして使っていた1815年の出版物に「最近の子供たちは紙に頼りすぎです(中略)紙を使い切ってしまったらどうするのでしょう」という投稿がある。

紙が最新のテクノロジーだった時代である。

1995年の日本では携帯電話を「11台持つ必要があるのか」という議論があり、皆が持つと対面でやりとりする機会が減り「コミュニケーション能力が低下する」という指摘もあった。

いずれも、今では考えられない議論である。紙と石盤、どちらが学習に適しているのか。どちらでも学習はできる。しかし紙のほうが汎用性が高い。また、電話を11台持つことで不要になるものもある。同じことが情報端末にもいえる。時間の経過とともになじむことを考えると、紙かICTか、11台必要か、デジタル教科書か紙の教科書か等を論じることは生産的とはいえない。

「情報活用能力」を育む授業とは

「課題の設定」「情報収集」「意見交換」「まとめ」を自ら繰り返し行うことで、知識という点のつながりが複雑化し、汎用的な力が育まれる(当日公開資料より)

情報活用能力とは世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である。

汎用的な力であり、「課題の設定」「情報収集」「意見交換」「まとめ」を自ら繰り返し行うことで身に付いていくものだ。しかも、今後も変遷していくものである。

この育成に資する授業は、これまで通りの授業では難しい。

例えば情報端末上に「穴埋め問題」を配信して端末上で行った場合、「情報端末の活用」にはなるが、情報活用能力の育成にはつながらない。しかもこの活用では「紙の方が良い」ということにもなりがちだ。

これまでは「教員が課題を与え、皆で考えて意見を出し合い、構造を考えながら板書にまとめる、そして子供は板書をノートに写す」流れが主流であった。この「課題設定」「整理・分析」という情報活用能力育成にとって重要な部分を「教員がやる」点が特徴である。また、皆が意見を出し合い「練り上げる」課程も教員主導である。「協働」ではなく「一斉の協働」になっている。

情報活用能力育成を考えると、この点を見直さなければならない。

素晴らしい課題設定、教員による構造化された秀逸な板書を「例として」示すことは良いが、最終的には、子供自身ができるようになることを目的とすることが重要だ。「自ら構造化して図式化する」ことと「板書をノートに写す」ことでは、認知レベルは大きく異なる。

「知識」にも「質の違い」がある

「自ら構造化」していく過程で身に付く「知識」こそが、新学習指導要領で求められる「知識」である。

学習指導要領・解説は、重要な順に書かれている。「総則」の最初に記載されているものが「知識・技能」の定義だ。そこには「学習の過程を通して」個別の知識を学びながら、「既得の知識及び技能と関連付け」、各教科等で扱う「主要な概念を深く理解」し、他の学習や生活の場面でも活用できるものを「確かな知識」としている。

学習指導要領で求めている「知識」は、「質の高い」知識であり、ワークシートの穴埋めや丸暗記、ドリルのみにより得られる知識ではない。

「知識」の意味を理解した上で、資質・能力の3つの柱「知識及び技能の習得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「学びに向かう力、人間性等の涵養」を読み解き、各教科で取り組む必要がある。

書籍や情報端末等で得た情報を「点」と考えると、点と点をつなげ、構造化していくプロセスは、話し合ったり批判し合ったりまとめたりし伝えたりする中で身に付いていくものである。「生きて働く」知識とするためには、このプロセスが欠かせない。

PISA2018の「読解力」とは

PISA2018では「読解力」の低下が話題になった。この「読解力」は、日本で考えられている「読解力」よりも範囲が広く、問題発見能力や情報活用能力も含まれている。

では情報活用能力の育成は現在、どこで主に取り組まれているのか。202011月に調査したところ、小学校高学年で取り組まれることが多く、中学、高校に上がるにつれて下がっている。しかし今後は、中高での取組がさらに重要になる。

「情報科学」が軽んじられている

情報活用能力を整理すると、情報モラルやセキュリティ、基本的な操作が基盤となり、情報活用(情報収集・整・分析・まとめ・発表)と情報の技術(情報科学やプログラミング)で構成される。

情報活用については問題解決学習の過程とも重なり、生きて働く知識を身に付けるために重要なプロセスでもあり、すべての教科で取り組むべきでものである。

今気になっているのは「情報科学」の部分が軽んじられている点だ。

情報モラル教育は感覚的・情緒的な教育に偏りがちであるが、情報科学に基づく仕組みを知ることも重要だ。例えばSNSの仕組みを知れば、その危険性や望ましいふるまいについて、科学的な視点から判断する力につながる。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年2月7日号掲載

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