立命館大学 理工学部の笹谷康之准教授は、CAD、地図、まちづくり、教育支援などの専門家とチームを組み、土木教育の変革「4D for Innovation」に取り組んでいる。
笹谷准教授は「日本の大学における土木教育は、縦割りの弊害などから、イノベーションに対応できにくく、実際の現場で戦力になりにくい学生を育てている側面がある」と話す。一方『土木学会誌』21年5月号によるとアメリカでは、第一線で活躍している土木技術者が仕事において重要だと考えているものは、自分自身の技術力がわずか15%。85%は他者の技術力を統合するリーダーシップ力であった。
大学教育においても教室内外におけるPBL(Project Based Learning、問題解決型学習、課題解決型学習)や、インターンシップの活動に力を入れている。
こうしたアメリカの土木教育などを踏まえ、笹谷准教授は「イノベーター学生」を育成していくことを提唱し、次の4点の重要性を唱えている。
①理工学系の分野横断的な教育、学科横断授業
②他の学問との分野横断的な教育
③地域の産官学民金との連携やPBL
④大学間の連携
イノベーター学生を育成するため、笹谷准教授らは「3つのインフラ」の創造を提唱する。
1つは、現実(3D)における土木施設である「元祖インフラ」、2つ目が3Dに時間軸を加えた4Dの「サイバー・インフラ」、3つ目がこれら2つのインフラを統合させた「アメニティ・インフラ」だ。「アメニティ・インフラとはゲームなどによって、まちづくりやコミュニティを創出すること。これを最終的な目標とし、EdTech(テクノロジーを用いて教育を支援する仕組みやサービス)と、リアルなまちづくりを組み合わせたようなものをイメージして4D for Innovationに取り組んでいます」
4D for Innovationとは具体的にどのような取組か。
2018年、本格的な3D―CAD教育を開始。以降、プレゼンのためのポスターやアニメーションを3D制作が始まり、21年には、かつて琵琶湖のほとりに建っていた膳所城(ぜぜじょう)の復元VR制作に着手。3Dに強い宮大工から支援も得、移築された現存物などから城門をモデリングした。21年度中には本丸のモデリングも終える計画だ。
学生たちは復元VRの制作だけでなく、城を活かしたまちづくりにも取り組む。また、関連Webサイトの構築、SNSでの発信と交流を行い、クラウドファンディングによる資金調達の準備などもしている。
22年度には、学生が作った3D、4Dのサイバー空間の中で、学生自身がアバターとなって活動する予定だ。
サイバー空間で、まちの観光ガイドや、避難誘導などといった安全・安心のための情報提供、多世代の交流などを行い、「アメニティ・インフラ」へと発展させていこうというものだ。
土木を学ぶ学生だけでなく、理工学部の全学科、全学年を対象にPBLとして行っていく。
さらには、世界800万人が編集に携わり、世界でもっとも多くの人が利用しているといわれる地図「Open Street Map」が、現状の2Dから3Dに向かう中で、学生がこの編集に参加してリードできることを目指している。
笹谷准教授は「学習eポータルや、文部科学省のCBTシステムMEXCBT(メクビット)とも連携させて、小中高生も参加できる社会課題を解決するエコシステムの構築を目指したい」と話した。(蓬田修一)
教育家庭新聞 新春特別号 2022年1月1日号掲載