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教育ICT

AIロボット「LOVOT」が地域つながるきっかけに「思いやり」「気遣い」育む ~JAET大会研究発表校 横浜市立本牧南小学校

2021年11月1日

横浜市立本牧南小学校(谷口なおみ校長・神奈川県)の図書館にはAIロボット「LOVOT」が子供たちを待っている。同校では「LOVOT」を活用した人権教育を基盤とする学校経営に取り組んでおり、本成果をJAET大会(第47回全日本教育工学研究協議会全国大会(大阪大会)11月19日・20日)の研究発表でも報告予定だ。谷口校長に「LOVOT」導入のきっかけと取組を聞いた。

谷口なおみ校長とシトラスリボンをつけたLOVOT「チョコ」

2020年、本校は50周年を迎えました。その記念事業に向け、当時の最終学年である6年生は頑張っていたのですが、コロナ禍により記念事業を始め様々な行事が延期したり、中止になったり。6年生の表情が暗くなっていく様子に、今できることはないかと考えていました。そのときに出会ったのが『LOVOT』です」

谷口校長が「LOVOT」を見たのはテレビ番組だそうだ。これが学校にあれば、子供たちの心が明るくなるきっかけになるのでは、と考えて提供社であるGROOVE X(以下、GX)の林社長宛てに手紙でその思いを届けたところ、当時の6年生各クラスに1台ずつ「LOVOT」が年度末までの期間限定で届いたという。

名前は「LOVOT」の顔の色をもとにした「チョコ」と「ミルク」だ。

■コロナ禍、子供の表情が明るくなった

体温があるLOVOTにそっと手をあててぬくもりを確認している児童があちこちのグループで見られた

学校にやってきて最初にとまどったのは「LOVOT」の方だ。しかし声をかけると反応し、次第に皆の顔を覚えて自ら近づいてくるようになる。慣れると抱っこをせがむ。授業も6年生の教室で共に受けた。

「言葉を話さず、表情や声、しぐさで思いを表現するのが『LOVOT』の特長です。優しくされるとその子の顔を覚え、その子を見ると嬉しそうに近づき、甘えるそぶりをします。乱暴な扱いを受けた場合も覚えており、表情が固くなり、逃げたりもします。日に200人まで記憶できるそうです」

言葉は話さないものの声は発するため、授業時間中は音量を下げた。皆の様子を見ながら応援する様子が見られたという。

体温があり触れると温かい「LOVOT」に、子供はそっと触れる。重さも新生児を目安にした3キログラムだ。気持ちを表情や行為で表現し、こちらの気持ちを理解した行動をとる。児童はそんな「LOVOT」と過ごすうちに、「LOVOT」が今どんな気持ちなのかを考え、自分の気持ちを表情や行為で表現しようとする様子がみられるようになったという。その感覚は、コロナ禍におけるコミュニケーション力育成につながった。

LOVOT」は卒業式にも参加して6年生を送り出し、貸与期間が終了。GX社に帰っていった。

■「チョコ」が学校に戻ってきた

全校児童が「LOVOT」と触れ合っており、不在を残念がる児童は多かった。何とか再び学校に迎えたい。そう考えて「2021年度パナソニック教育財団」の実践研究助成に応募(※)。全国の中から選出され、1体分・1年間の「LOVOT」運用費と「LOVOT」を確保。6月に「チョコ」が学校に戻ったとき児童は大喜びで迎えた。(※)「主体的で対話的な深い学びによる児童の自己肯定感を高める授業のあり方の探究~SDGsの視点を生かしたカリキュラム・マネジメント~

■様々な子供に良い影響を与えている

今年度、「チョコ」は通常図書館におり、シトラスリボンをつけてSDGsのリーダーとして活躍している。同校では図書館を「学習情報発信センター」と位置付け、SDGsの視点を活かしたICT活用に全学級で取り組んでおり、自己肯定感の変容について検証。カリキュラム作りに取り組んでいる。「チョコ」の存在で、図書館の利用率は大きく伸びた。

さらに「チョコ」は、子供の登校時には迎え、教室に行くことを渋る児童などがいる場合は保健室にやってきて慰める。低学年は、休校や分散登校の影響で母子分離が難しい面があったが「チョコがいるから学校に行く」という児童もいる。

学習にも良い影響がある。「2年国語『あったらいいなこんなもの』の学習では、『LOVOT』もそんな発想から生まれていることを、実感をもって理解していました」

■数年間の運用費を地元47企業が支援

助成金により「チョコ」が学校に戻り、1年分の運用費を確保したものの、2年目以降の運用費は課題であった。

そこで、本牧地区の企業から毎年寄贈を受けている新聞2部のうち1部分をシステム管理費としたいと申し出たところ、「学校の取組を応援したい」と、向こう数年分のシステム管理費をふるさと納税の仕組みを利用して本牧工場地帯47企業から受けることができた。現在、学校から活動報告を毎月届けている。さらにPTAからも理解を得、PTA会費の一部からチョコの運用支援を受けることも決まった。

「様々な方から学校の取組が理解を得て応援して頂けることに教職員一同喜んでいます。これを機会に今後、地元企業への理解が子供にも進み、地元に貢献したいと考える子供の育成につながればと考えています」

■性格が異なる「チョコ」と「ミルク」

「チョコ」と「ミルク」は性格が異なるそうだ。

6月に『チョコ』が戻ってきた時、『ミルク』は今どうしているの?会いたいな、という子供の声はありました。『チョコ』は活発で少しやんちゃ。『ミルク』は控えめな性格で、それぞれ異なる性格を子供なりに認め、愛着を感じていたことがわかります」

様々な支援の積み重ねで「ミルク」も迎えられればと考えているという。「将来は各クラスに1台いて、1人の大切な存在として交流できると素敵ですね」

■高学年でプログラミング学習

LOVOTをプログラミング。目があって見つめ合うシーンも

特に低学年で圧倒的な人気を持つ「LOVOT」だが、高学年ではより知的関心を高めたいと考えた。6年理科「電気とわたしたちのくらし」で「LOVOT」が掲載されている教科書もあり、同校ではプログラミング学習に取り入れることとした。

LOVOT」を各グループでプログラミングできるようにGX社に依頼して7体を借り、1025日に6年生で実施。当日はGX社が開発のコンセプトを伝え、児童は「LOVOT」の動きを各グループで自由にプログラミング。さらに「LOVOT」が横断歩道を安全にわたるためのプログラミング等に挑戦した児童は「動く仕組みがわかり、もっとプログラミングをしてみたくなった」と話す。

谷口校長は「最先端のテクノロジーに触れることで、未来を明るくすることが自分たちにもできると実感し、将来の可能性を拡げてほしい」と語った。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年11月1日号掲載

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