工学部と芸術学部を擁する東京工芸大学は、テクノロジーとアートの融合を目指した教育や研究を行っているのが特色だ。
同大学には、「色」の研究成果を公開する「カラボギャラリー」が設置されており、そこでは現在、企画展「ガウディの色と形」が開催されている。
同展には、建築家アントニ・ガウディの代表作であるサグラダ・ファミリアの鐘楼を題材とした作品とともに、AIを使ってサグラダ・ファミリアを着色する作品が展示されている。
ガウディは、サグラダ・ファミリアが様々な地点から見られることを考えていた。特に遠方からは、抽象的・幾何学的な形態が良いとしていた。
そこで展示では、遠方からどう見えるかを、疑似的に体験できる仕掛けを作った。
サグラダ・ファミリアの尖塔部の10分の1の模型を制作し、対面する鏡の中央に配置。鏡の反射効果によって、図像が何回も反転すると、尖塔部のモザイクタイルの細かさが認識できなくなり、色の塊として見え、さらにはそれがひとつの造形に見える瞬間がある。その距離と視点の関係の変化を楽しんでもらおうというのが作品の主旨だ。
また、サグラダ・ファミリアにAIを使って着色する試みも行っている。
ガウディの弟子の言説などによれば、サグラダ・ファミリアの「生誕のファサード」は、着彩する予定だったことが分かっている。しかし、着彩のパターンやデザインはいまだ解明されていない。
今回の企画展を担当した、ガウディ研究家である東京工芸大学の山村健准教授は「ガウディが着彩する予定だった色彩を、AIによるアルゴリズムを用いて、会期中に5000パターンのスタディ(さまざまに検証すること)を制作し、未解明だった着彩パターンやデザインに、新たな可能性を提示しようと考えています」と話す。
さらに、展示を見終わった来館者が、展示から得たヒントやアイデアなどももとにしながら、色彩の付いたシールを思い思いに貼っていき、ファサードを完成させるワークショップも行っている。
「AIによるスタディと人間が制作したデザインの違いを比較することで、AIと人間の感性の関係が視覚的に分かるのではないかと思います」(山村准教授)
今回の展示では、ALife(Artificial Life 人工生命)に代表される創発的なAIを活用した。
「AIにはいろいろな種類があり、AIブレイクのきっかけとなったディープラーニング(深層学習)は、既存の産物を学習して、人間の知能に迫る試みです。一方、創発的なAIは、ミクロなレベルでの簡潔なアルゴリズムを用いることで、マクロな視点での予想外の結果を生み出すことができます」(同学・久原泰雄教授)
展示では、創発的AIの「ラングトンのアリ」という手法を応用し、ガウディの彩色の考え方をアリの動きに取り入れて、複雑な色彩を生成している。
久原教授は、色彩や芸術におけるAIの可能性について、次のように話す。
「色彩は芸術表現の重要な要素ですが、作家が自分の表現が飽和状態に達して行き詰まったときなどに、創発的なAIからインスピレーションを得ることは有力な手段です。ラングトンのアリ以外にも様々な創発的な手法があります。それらを研究し応用することは、色彩に限らず未来の人智を超えた芸術表現の可能性を秘めており、有意義であると考えています」
企画展「ガウディの色と形」は、12月10日までの会期で開催中。入場無料。入場に際しては、当面の間、新型コロナウイルス感染対策のため、事前予約制となっている。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年10月4日号掲載