特別企画「GIGAスクールにおける教育支援~熊本市の事例から考える~」では、熊本市のGIGAスクール構想をけん引した教育委員会、大学、ICT支援員、企業が登壇。教育支援の成功の仕組みについて討議した。パネラーは前田康裕氏(熊本市教育センター)、早川裕子氏(熊本市ICT支援員)、徳永勇人氏(NTTドコモ)。コーディネータは中川一史教授(放送大学・AI時代の教育学会副会長)。
■中川 9割以上の小中学校に1人1台の情報端末が配備され、どう活用するかという段階に入った今年こそが、GIGA元年。熊本市がうまくいっている理由は以下、5つであるのではないでしょうか。▼スモールステップでの進行 ▼トップの推進力 ▼整備の充実 ▼教育センターのフットワーク ▼根底にある教育のコンセプト
■前田 2016年の熊本地震は衝撃的な被害で熊本市の復興は短期的なものでは難しく、長期的に考える必要があり、価値観が変わりました。復興は子供にかかっている、100年後の未来の礎作りとして投資が必要で、そのためにはICTもAIも含めあらゆるものの手を借りようということになりました。
自ら考え主体的に行動できる人材育成に資する授業改善のため、2018年、3人に1台の情報端末(iPad)を24校に配備。さらに2019年は全小学校に、2020年は全中学校に情報端末を配備。AppleTVや電子黒板、実物投影機も2019年1月までに全校配備が完了しました。
一斉授業の場合、情報端末の活用シーンはそれほど多くなく、そのため「使うための授業」になりがちです。しかし主体的に学び取る場合は、情報端末を使う場面はたくさん出てきます。対話的な授業による思考力育成、振り返りによる学びの言語化も進めやすくなります。
指導案はこれまで「本時の展開」に力をいれていましたが、資質能力を学習プロセスの中で伸ばす発想に至りにくいため、現在は子供がどう活動していくのかを単元構成で考えています。
情報端末は、相手に伝える、情報収集する、知識を共有するための「メディア」として考えることが、今後の学びのために重要ではないでしょうか。
■中川 言語化していく力を子供にどうつけていくのか。まさにコンピテンシーの育成ですね。
■前田 その通りです。モデルカリキュラムも、情報活用能力を身に付けるための学習で情報端末がどう活きるか、という発想で考えました。
■中川 情報活用能力は、振り返りを重視しないとうまくサイクルがまわっていきません。
■前田 かつて、経験学習が批判されました。この最大の失敗は、活動で終わりがちだったこと。活動から学びを見出すプロセスが欠けていました。体験を通して、何を学んだのかを問いかけ、学びを意識する振り返りとして言語化しないと、活動は活動で終わってしまいます。また、教員が振り返りを形成的に評価しないと、振り返りは「感想」で終わってしまいます。
■中川 学習指導要領に記載されている内容を具現化した仕組みにいち早く着手していますね。
■前田 教育センターとして導入研修に力を入れ、管理職研修、オンラインで18時以降スタートする希望研修、学校の要望に応じた出張研修などを行いました。また、教育センター公式チャンネルには、タイムリーなコンテンツを発信しました。
各校には情報化推進チーム(リーダー、サブリーダー、メンバー)を設置し、各校同士で情報交換する仕組みをMicrosoftTeams上に構築。1人1台情報端末を1人の担当者で支えることは仕事も多岐にわたり負担が大きく、十分に力を発揮できないためです。
■中川 呼ばれたらすぐに学校に行く、という研修はすごいですね。発信も充実しています。
■早川 ICT支援員は現在、月3回半日の学校訪問ができる体制です。ICT支援室があり、顔を見て話せる場所があることも熊本市の強みです。また、ICT支援員用の機器やライセンスもあり、学校と同じ環境でサポートできる環境です。指導主事と学校訪問し、様々な授業を見ることができるので、アドバイスの幅を広げることができます。2020年の全校一斉休校では、児童生徒とつながるための健康観察から始めました。でも多くの先生は、授業を希望していました。そこで試行錯誤しながら進め、学校再開後も授業の一部や行事をオンライン展開しました。
2021年度の休校時は、情報端末も1人1台体制になり、教員用PCも活用できるようWebカメラも導入。手元を見せることができる実物投影機が活躍し、ホワイトボードの共有で双方向性の授業が展開できるなど、前年度よりオンライン授業もレベルアップしました。
8月には支援室に1100件の電話がありました。また、分散登校時、オンライン授業ができないという学校があり、日常的に蓄積しているネットワーク図からループしているケーブルを発見。最小限の時間で問題を解決することができた、ということもあります。
支援員は話しかけられやすいこと、たくさんの引き出しがあることが重要ではないでしょうか。技術は進化し続けるため、ゴールはなく、市の教育情報班との連携は欠かせません。
■徳永 当初は少人数からスタートし、その必要性が認められて今の人数になりました。熊本市スタイルのICT支援員は、教員の働き方改革の面で全国に必要性であると訴える必要があります。
■前田 2018年に熊本市、熊本大学、熊本県立大学、NTTドコモの4社で連携協定を締結し、ICT活用のノウハウの共有やモデルカリキュラムの開発、プログラミング教育の普及などに取り組んでいます。産学官連携会議は毎月1回実施しており、各学校の通信データ量や取組について報告、共有しています。
熊本大学は研修とカリキュラム開発、熊本県立大学は学校教育外でのプログラミング教育の推進を担っており、大学の「ハブ」としての役割は大きい、と感じています。今後は、突出した子が学べる場の提供などについても検討していく予定で、さらに他大学との連携も構想中です。
■徳永 今年、一気に情報端末の数が増え、様々なことがありました。
LTE端末は電波でつながるため、季節や天候、時間などに左右されます。また、建物構造により、クラスの配備により通信速度も変わります。安定運用のためには常時監視と品質改善の努力が必要です。
9月からスタートしたオンライン授業では、LTE端末でZoomに接続しっぱなしでした。これは、当初想定していなかった活用だったため、回線を調整しました。
ヘルプデスクには月に数百件の問い合わせが届きます。毎月、どのような問い合わせが多いのか等、学校ごとの運用レポートを提出しています。
端末の持ち帰りも始まり、通信量のチェックを毎日のように行っています。さらに今後は5G×AIの時代が始まります。
■前田 熊本市の基本理念を具現化して新時代の学びと未来を創るため、学校と地域、保護者、教育関連団体、企業をつなげるきっかけづくりのため、くまもとEducationWeekを開催しており、今年は2022年1月22~30日、オンラインで実施します。
■中川 産官学連携も、学校経営や学級経営に近いものがありますね。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年10月4日号掲載