9月18日、AI時代の教育学会第3回年次大会がオンラインで開催され、招待講演や特別企画のパネル討議「GIGAスクールにおける教育支援~熊本市の事例から考える」、研究発表などが行われた。当日は研究者や教員のほか、高校生や大学生も参加した。本学会では今後も、高校生や大学生の参加も期待している。
東京学芸大学では、修士課程の教育支援協働実践開発専攻に「教育AI研究プログラム」を設置。この3月、初の卒業生を出した。今後、充実発展していく段階だ。理事・副学長の松田恵示教授が報告した。
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「教育AI研究プログラム」設置は産学共同でAIについて考えるプロジェクト「EDUAI」の立ち上げがきっかけだ。経済学から見た人工知能研究の第一人者・井上智洋氏は「人口知能と経済の未来」(文芸春秋)で、AIにより、労働を伴わない生産活動が始まり、人の関わり方の研究が増える、それが次の時代の経済活動である、と説明。今後は、価値の創出が重要になり、職業の構造がAIにより変わっていくと指摘していることを紹介した。
では、AIベースの社会にはどのような教育人材が必要になるのか。EDUAIでは教育現場でAIを活用していくことを考え、5つの提言(https://creduon.jp/?p=1535)にまとめると共に、継続して教育現場のAI活用の検討が必須であると考えて、教育支援協働実践開発専攻に「教育AI研究プログラム」を設置した。
新しい修士課程では、教育AIや臨床倫理学、教育協働研究など、これからの社会で生きる力を身につけた人材の育成を目標としている。
フィールド研究は、選択必修8科目で設置。学校現場と共に教育課題を半年から1年で課題を設定して解決する試みで、学びを現場で統合してほしいという思いがある。様々な支援者と協働して教育支援を行う教育AIワーカーの力を育む。
教育学領域の専門性と実践性を教育AIの横串で学び、教育現場とつなぐため、「専攻展開科目」については、「情報AI領域」「コンピテンシー学術心理領域」「教育内容・実践領域」という3領域を設定した。
さらに、インキュベーションセンターも立ち上げ、スタートアップの企業とオープン・イノベーションのプラットフォームを構築している。
東京学芸大学が竹早地区で実践しているのが「未来の学校みんなで作ろう。プロジェクト」だ。行政や企業が参画して未来の学校の姿を示そうというもの。授業を変えるとともに学び全体を変え、教員と地域のかかわり方と学校全体を変えるためのプロジェクトで、フィールド研究として実践している。
ゴールは理想の公教育の実現だ。
教育支援とは、学習者を支援する面と教育者を支援する面があるが、「支援学」を定議する脇田愉司氏にならって、学びに関する他者への働きかけの意図を理解しながら補助・連携・協働することを通して教育の営みの質を維持・改善する一連の活動を教育支援と考えたい。
学校のなかで異なった主体が学校教育の改善を行うことが「協働」、異なる場の主体と協力することが「連携」であり、この「協働」「連携」が今後のカギを握る。
特別な支援が必要な子供にICTは有効である、という意見がある。
LDやADHDは、先の見通しが持てないと不安感を生じるという特徴がある。
ある昆虫好きのADHD児は、昆虫に関して多くの情報を持っており、昆虫とかかわるときは不安解消を満たした状態になり、安心して接することができた。しかし、ICTを使って昆虫の情報を獲得することは好まなかった。既に知っている世界をさらに無限に広げることが混乱につながるからではないかと考えられる。
一方で、見通しを持つためのICT活用は、LDやADHDの児童に安心感をもたらす効果がある。
ここで考えたいことは、学習の深まり=未知のものとの出会い、と考えがちなのではないか、という点だ。
個別最適化は重要な理念だが、AIを使い、皆が同じくらいにできるようになる、ことが「目的」と設定しがちである、という危険を理解する必要がある
チームアプローチとは、凸凹のある力で互いを補い合いながらミッションを達成するもの。むしろ、凸凹や弱さがつながりを強化する。
ゴールを同一に「揃える」ためのAI活用ではなく、交わる・つながるためのAI活用が重要であり、力が同質の共同ではなく、凸凹のある協働が重要であると考えている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年10月4日号掲載