兵庫県教育委員会では「県立学校学びのイノベーション推進事業」等により県立高等学校等に1学年1クラス分のタブレットPC 1万7137台を2020年9月から整備している。また、2022年度から各生徒が所有するPCを学校でも活用する方針を示している。ICT活用・授業スキルを持つ「HYOGOスクールエバンジェリスト」の養成もスタート。無線環境と大型提示装置は全教室に配備済だ。兵庫県立神戸甲北高等学校で教科「情報」を担当し、「HYOGOスクールエバンジェリスト」でもある松本吉生主幹教諭は、「GIGA スクール構想」で高校生が活用する情報端末について、現場の教員の視点からブログに考察をまとめ、発信している。松本教諭に、高校生の学びに必要なPCについて聞いた。
本校にも昨年夏、約3クラス分にあたる「Surface Go2」が123台、生徒が自由に活用できる端末として配備されました。通常は図書室に設置してあり、英語や総合的な探究の時間など様々な教科で活用されています。
このほか本校には、2室のコンピュータ教室があり、学習用のノートPCやデスクトップPCが約100台あります。またこれら以外に教員用PCが100台ほどあり、すべてOSはWindowsです。
また、来年4月の新入生から各生徒が所有するPCを学校でも活用する予定で「BYOD委員会」を立ち上げ、購入方法や機種選定、運用方法や在校生への対応などを検討中です。
今年4月から、個人のブログに「文部科学省『GIGAスクール構想』で活用する「児童生徒向けの1人1台端末についての考察」をまとめており、3OSの端末を取り上げ、キーボードの仕様や起動の速さ等様々な観点から検証、比較しています。現在項目を追加しながら更新中です。
GIGAスクール構想により大きく学びが変革しようとしています。高校生の1人1台端末活用も必須とされ、様々な施策が進んでおり、大きな歴史の変わり目がきています。
ここで思い出されたのが、2003年のミレニアムプロジェクトです。
当時、教科「情報」という新たな教科が生まれ、全国の高等学校に「コンピュータ室」が設置されました。そのときに注目されたものの1つにLinuxなど UNIX 系の OS があります。
コンピュータは当時、今以上に高価で、無料のOSは魅力的でした。そこで様々な研究を皆で進めました。しかし結局使いこなしきれなかった、自分たちのものにできなかったという苦い経験をしています。
当時と同じような苦労を繰り返したくないと考え、様々な機種がどのような動きをするのかをまとめ、発信することとしました。
GIGAスクール構想で小中学校の4割以上にChromebookが導入されました。Webブラウザベース・クラウド活用前提で、低コストで導入できるなどの特徴があります。小学生であれば、調べ学習によるWeb検索や資料閲覧、写真・動画の撮影が多く、WebベースのPCでもある程度の学習が可能です。
しかし高校生の場合は、表現活動が最も重要です。調べる活動、話し合う活動からプレゼンテーションをまとめ、ポスター等品質の高い創作物を作ることが求められます。個人制作のほか、協働制作もあります。
これをスムーズに進めるためには、デジタルカメラやビデオ、プリンター、USBなど他デバイスとのファイルのやり取りがしやすいことが求められますが、一部のOSには対応していない周辺機器もあります。
自宅でプリンター等に印刷できると、オンラインで課題を出し、自宅で印刷して学ぶなど様々な学習をスムーズも可能です。自宅でレポートの続きを書くこともあり、それを出力する場合もあります。印刷レイアウトと画面レイアウトがずれることがない環境が望ましいのです。家庭でプリンターを利用するという観点から考えると、例えばChromeOS対応のプリンターも増えているものの、現在ご家庭で所有している機種が対応していない場合もあり、注意が必要です。
さらに今後は、大学受験も含め、学びの蓄積がますます必須になります。クラウド上に保存できることも重要ですが、ローカルに保存・管理したいものもあります。
教科で求められる学びの質も小学校とは異なります。
「工業専門科」で取り組む「データベース」や「ビジュアルデザイン」、教科「情報」の専門分野「課題研究」「情報の表現と管理」「情報デザイン」「コンテンツの制作と発信」「メディアとサービス」「情報実習」では、高度な実習に取り組む必要があります。普通教科「情報」のプログラミングでも、高度なプログラミング学習に取り組みます。
これらが円滑に動くPC環境が必要です。
Webベースの端末は、インターネットに接続していることが必要です。
多くの家庭にWiFi環境があり、学校もルータの貸し出しを準備しているとはいえ、校外学習や修学旅行先ではWiFi環境が不十分な場合もあります。
ネットワークそのものの不具合の可能性もあります。学校のインターネット環境がひっ迫する可能性もあり、インターネット接続していないと何もできない、という点は学びの継続において問題です。
オフラインの学びのためにはインストール型アプリの活用が必要です。
「教員が自作したデジタル教材や既存コンテンツを大型提示装置に提示する」「子供は1人1台端末でWeb上の情報を調べ、写真・動画を撮影する」
これが、多くの教員のICT活用の授業イメージです。
ここから一歩進んだ授業イメージが必要です。主体的に学ぶ力を育むためには、授業の在り方が変わってきます。
本校にはPC室が2つあります。1室は、WordやExcel、PowerPoint等基本ツールが活用でき、もう1室は、Photoshopのようなデザインツールを自由に活用できる、よりハイスペックな環境です。安定したネットワーク、広い画面で取り組むことができるのがPC室の利点です。
本校の1年生は1年かけてPC室でPCの使い方を学び、2年になると自らの学びにPCを活かせるようになります。1人1台端末の配備が進めば、自分の端末上でまとめたことの続きをPC室で行う等が可能です。
高校生にとって、自ら学ぶこと、学びを連続していくことに適した端末を選ぶことが重要です。それぞれのOSでできること、できないことを理解した上で選択してほしいと考えています。
2台目、3台目であれば何を選んでも良いのですが、高校生の学びを連続性のあるものにするためにも、今後の運用を円滑にするためにも、基本となる1台目は、Windowsベースの学習環境がベストであると考えています。
BYOD 端末の導入は、保護者が購入しますが、ブラウザが快適に動く、いくつかの基本アプリが使えることにとどまらず、教科「情報」やその他の教科でどのように使うかをイメージした機種の選択を期待しています。
兵庫県教育委員会では学校の臨時休校を機に、2020年7月から県内各校で、各教科において中心となってICT活用を先導する教員となる「HYOGOスクールエバンジェリスト」の養成が始まっている。県立高等学校51人、市町立学校36人、計87人16チームで各チームにMicrosoft サポーターを配置し、チーム研修を実施。松本教諭もエバンジェリストの1人だ。
また、ICT教育環境の整備・運用を円滑に実施するため、ICT技術者を配置し、PC等の設定や初期トラブル対応、使用ルールの策定などの業務を担っている。
■松本教諭個人サイト
http://www.matsumotoyoshio.net
■blog ホチキス先生の「プログラマーと呼ばれたい」
http://matsumotoyoshio.wordpress.com/
■高等学校向けPC 一覧はこちら
https://www.microsoft.com/ja-jp/biz/education/gigaschool-highschool-pc.aspx