文部科学省・学習者用デジタル教科書普及促進事業が始まっている。予算額が最も大きいのが、約20億円の新規予算により、1人1台端末環境等が整っている小中学校を対象として、原則小学校5・6年生及び中学校全学年に1教科分の学習者用デジタル教科書(+教材)をクラウドで提供する「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」(以下、本事業)だ。対象は全国の約4割にあたる小中学校。各校からの申込は3月末までに終了しており、4月早々から対象の学習者用デジタル教科書を活用するため、各校で準備が始まっている。各教科書会社に本事業をスムーズに進めるポイント、活用アイデアについて聞いた。
大日本図書では、本事業において現時点で小中学校約700校に対して約15万ユーザのIDを発行済(小学校6万、中学校9万)だ。15万の児童生徒が同社の学習者用デジタル教科書を活用することになる。
デジタル教科書+教材の形式で提供される算数・数学や理科の導入が主流で、特に多いのが中学校理科だが、デジタル教科書のみの提供となる保健・保健体育や生活にも一定のニーズがある。
本事業では、すべての小中学校に導入できるわけではない。そこで事業に通らなかった学校からも同様に購入したいという問い合わせが届いている。
同社では小学校理科及び算数、生活、保健の学習者用デジタル教科書は「まなビューア」、中学校理科及び数学、保健体育のビューアは「みらいスクールプラットフォーム」を採用している。いずれも、充実した特別支援機能が学習者用デジタル教科書に搭載されており、教科書+教材には指導者用のコンテンツがほぼ同じ形で収録。個別最適な学びをサポートする仕様とした。
運用上の問い合わせも多い。本事業では、活用したい学習者用デジタル教科書について、教科書会社からライセンス証明書が各校に届く。次に各校において児童生徒用アカウントを登録して教材に紐づける必要がある。
同社ではWeb上に、学習者用デジタル教科書クラウド版の登録手順マニュアルを詳細にアップしているが、各校からは各種問い合わせが届いている。特に多かったのが「CSVの取り扱い」だ。ユーザ登録の際、ユーザデータをCSVで登録する必要がある。まなビューアとみらいスクールプラットフォームでは、入力項目には大差ないがCSVの形式が当初、異なっていた。前者の文字コードはS―JIS、後者はUTF―8のため前者はExcelの上書き保存でも概ね問題ないが、後者はExcel2016以前のバージョンで上書き保存するとCSVが破損することがあり、5月24日の改修で後者もS―JISとした。また、ユーザIDの最小文字数などは異なるが、いずれもCSVに空行があると登録できない。この辺りの分かりづらさから問い合わせが頻発している。今後、教科書業界としてCSVの仕様を標準化すればユーザの利便性は向上するだろうと思われる。
本事業ではライセンス証明書の受領通知を、教科書発行者が各学校から入手する必要がある。同社はこのやりとりにメールとFaxを併用しているが、受領通知の入手状況は芳しくなく、これから未入手の学校との調整に一手間かかることが予想される。
準備の早いところは活用が始まっている。今後は子供が使っていくうえでの質問が届くことになりそうだ。
デジタル教科書のクラウド版は印刷や流通費用が不要であり低コスト化につながる、という見方もある。しかしクラウド版のユーザが増えるにつれてクラウドサーバーのメンテナンスコストも増える。本来はユーザ負担が求められる部分だが、現時点では事業者負担だ。問い合わせも紙の教科書と比較すると明らかに多く、デジタル化が即低コストにつながるとはいえない現状のようだ。
大型提示装置の導入も広がり、指導者用デジタル教科書の導入は継続して増えている。
指導者用デジタル教科書の活用に慣れていると、学習者用デジタル教科書の活用もイメージしやすい面はあるものの、本事業では学習者用デジタル教科書のみを導入している学校も多い。学習者用デジタル教科書を教室前方で一斉に拡大提示する場合、提示対象の児童生徒と教員の全員が学習者用デジタル教科書を購入している必要がある(教科書協会のガイドラインより)。また、児童生徒が学習者用デジタル教科書上に書き込んだものを教員のPC上で確認するためには、授業支援システムなどを使う必要がある。学習者用デジタル教科書ならではの活用を考える必要がある。
大日本図書の学習者用デジタル教科書(+教材)は、指導者用デジタル教科書のコンテンツについて、一部を除きほぼ網羅。急な休校時での家庭学習にも役立つように、児童生徒が自学自習しやすいようにした。
同社のデジタル教科書の特徴の1つが、豊富なコンテンツだ。小中学校の理科と数学ではNHKアーカイブスから、教科書の内容に沿って大日本図書オリジナル版に編集して収録している。シミュレーションも充実を図った。例えば、ひな型の数値を変更して実験結果を何度もシミュレーションしてグラフ化したり、複数の実験結果を並べて比較したりすることができる。実験や作図などの映像も豊富に収録。写真を拡大して観察することも可能だ。問題や課題を解くためのヒントも充実した。小学校算数は、計算問題の正誤判定や自分の学習履歴を閲覧する機能を搭載している。数学のグラフシミュレーションも、数値を変更したり、グラフを動かしながら考察したりすることができる。
中学校版は今夏にバージョンアップも予定しており、さらに多様なコンテンツを搭載する。