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教育ICT

スキル・役割に応じて研修を計画<福岡県教育庁教育振興部 義務教育課 塚田淳課長>

2021年6月8日

過度な自前主義、完璧主義から少し肩の力を抜く
「学校情報化チェックリスト」20項目を調査 地区別・市町村別の課題を分析

塚田淳 課長
福岡県教育庁教育振興部義務教育課
2009年文部科学省に入省。2020年4月より福岡県教育庁に出向

GIGAスクール構想で端末や通信環境は整備したものの、「端末活用はこれから」「何から着手するか検討中」という市町村も多いようだ。福岡県内の市町村も同様で、政令指定都市を除く県内の58市町村中、34がChromebook、17がWindowsPC、7がiPadを選択し、2020年度末までに小学生15万人、中学生約7万人の合計約22万人分の児童生徒用端末の配備が完了している。これらを着実に活用するため、県教育庁内の推進体制を見直すと共に、学校管理職からICTを苦手とする教員までを対象にきめ細かく研修を設定し、今後の巻き返しを図る。福岡県教育庁教育振興部義務教育課の塚田淳課長に話を聞いた。塚田課長は、NewEducationExpo2021において、6月5日に登壇。

先進地域の取組に学ぶ
専任の指導主事を配置

教育庁本庁と6つの教育事務所で教育行政を進めている福岡県は、面積の割に市町村数が多く(2政令市を除き58市町村)、教育の情報化の取組状況にも大きな格差があった。そして、県全体としても、2019年度文科省調査時点では、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数で全国43位、普通教室の無線LAN整備率で全国37位とICT環境の整備が遅れていた。

整備されていなければ活用は進まない。教員のICT活用指導力も、校務活用、授業活用、児童生徒活用含めすべてが全国40位以下であった。

そのような厳しい状況の中、光る存在があった。県内の田川市は2019年度に、うきは市は2020年度に、JAETにより「学校情報化先進地域」として認定を受けている。この2市は、2016年頃から、中村学園大学の山本朋弘教授(当時は鹿児島大学准教授)のアドバイスを受けながら、推進体制を立ち上げ、計画的な環境整備や研修に取り組んできており、教員のICT活用指導力も順調に伸びている。そこで、GIGAスクール構想による環境整備後のICT活用推進策を検討する際、山本教授にアドバイスを受けると共にこの2市の取組を分析。計画・体制・整備・研修を4つの柱として、次のような取組を全県展開していくこととした。

▼総合教育会議で、教育行政の最重要テーマとしてICT整備・活用を位置付け、予算確保に向けて知事部局と認識を共有。

▼ハード・ソフトの一体的な整備、県・市町村・学校の役割分担、当面のロードマップ等について、「福岡県学校教育ICT化推進計画」を策定。

▼福岡県学校教育ICT化推進本部を設置。副教育長を本部長とし、教育総務部、教育振興部、総務企画課、施設課、高校教育課、義務教育課、特別支援教育課、人権・同和教育課、福岡県教育センターが参加して、タテ割りを生まない組織を構成。

ICT化推進本部の下に、実働組織として学校教育ICT活用推進班を設置。義務教育課の中島正之主任指導主事を班長、野坂稔指導主事を副班長とし、ICT活用推進を専任で担当する指導主事4名を配置。14名体制でICT活用を推進。

▼県独自の予算で教育庁本庁、教育センター、教育事務所等のICT環境を整備。調査研究・指導助言の機能向上を図るとともに、教員研修や各種会議をオンライン化。

JAET「学校情報化チェックリスト」の20項目について、政令市を除く県内の全小・中学校で調査を実施して、推進状況を把握。県全体の課題のほか、地区別・市町村別に重点を置くべき取組・支援内容を明らかにした。

▼個別最適化モデルと遠隔授業モデルの研究開発について、6市町村に研究指定校を設定し、2021年度から3年間で取り組む。

スキルや役割に応じ
研修を複層的に計画

20213月に実施したJAET「学校情報化チェックリスト」を基にした調査によると、教材研究や指導準備のためのICT活用や学校事務等の情報化はある程度できているが、子供たちの学習の定着のためのICT活用やICT活用による学力向上、教員のICT活用指導力とその向上のための校内研修について課題が見られたことから、ここに重点を置くべきであると判断。研修計画の検討に当たって、これまでの学校教育におけるICT活用は、「オプション的なもの」「先進的なもの」という位置付けであったが、GIGAスクール構想を踏まえて、「新しいスタンダード」「ICT活用が前提」になるべきだと考えた。

GIGAスクール構想の推進により教育格差が広がるのは本末転倒である。まず、出遅れる市町村がないように、学校教育のICT化に向けた県としてのビジョンを市町村に伝える目的で、「ICT化推進計画」を示しながら、市町村教育長との意見交換・市町村担当者への研修を実施。

さらに、ICT支援リーダー研修、管理職対象研修、中核教員対象研修、ICTに苦手意識を持つ教員を対象にした基礎研修を設定。教員のスキルや役割に応じて複層的な研修を計画し、本年6月以降に順次実施する予定だ。

ICT支援リーダー研修では、市町村内の各学校のICT活用に対する支援を行うほか、ICT活用を前提とした教育施策を企画立案できる人材養成が目的。

管理職対象研修は、全学校の校長等を対象としたオンライン研修で、研修受講後には各学校のICT化推進計画(ハード・ソフト整備、研究授業計画等)を作成してもらい、リーダーとしての具体的な取組内容を考えるきっかけとする。

中核教員対象研修には、特に力を入れる。各学校における中核となる教員約650名の全員を対象とする。市町村によって導入した端末のOSも学習支援ソフト等も異なることから、市町村単位または導入したOS・学習支援ソフト等を同じくするグループ単位で、合計29回に分けて2日間にわたる研修を行う。

基礎研修は、あえて対面実施を予定しており、機器操作もサポート。1回目の研修後、在籍校での実践を経て、半年後に再度、成果や課題を共有、協議する。

ICT活用が進むほど課題も問題も顕在化することから、研修内容についても随時見直しを加えて、課題に迅速に対応したいと考えている。学校をとりまく状況も技術もどんどん変化しているため、「アジャイル開発」の精神でバージョンアップしながら進めていくしかない。

スキルや役割に応じた研修を計画。6月以降順次始まる

教員の不安を軽減
変化の“芽”を伸ばす

使い方がわからない、失敗すると怖いから活用できない、授業準備がこれまで以上に大変になるのでは等の不安を持つ教員も多い。また、「自分で完全に理解してから子どもに教えるべきである」という考え方が学校文化として浸透しているが、この考え方ではICT活用推進にブレーキをかけてしまうと感じている。当分の間の失敗やトラブルは仕方ないと考え、出来ることから、やれる人から前向きに取り組んで欲しいと考えている。

ICT活用を進める過渡期においては、研修を受けたり試行錯誤したりと、一定の負担増が避けられないのは事実。しかし、ICT活用は、授業準備や校務の効率化に資するものであり、長い目で見れば「働き方改革」と矛盾するものではないことを伝えている。

過度な自前主義、完璧主義から少し肩の力を抜くことも重要だ。先進地域が5年かけて達成したことを、そのノウハウに学ばせてもらって、各市町村に共有することで、可能な限り短期間で達成したいと考えている。全国にもたくさんの先進地域があるが、同じ県内の身近な市町村が先進地域となっていることが、これから活用推進を目指す市町村にとって自信とやる気につながると考えている。

教育効果や業務改善のエビデンスを示す

ICT活用に関する否定的な意見は少なくはなっているが、教育効果に対する懐疑的な意見はまだある。ICT活用は従来の教育実践を否定するものではなく、それ自体が目的になってはいけない。あくまでも、授業の質を高め、深い学びを実現するという目的を達成するための手段であるべきものだ。

学校や教員が、従来の教育実践とICT活用とをシームレスに組み合わせて、「新しい学び」を創造しようとするような雰囲気を実現したい。そのためには、教育上の効果や業務の改善をデータにより証明して、実感してもらうことが重要。JAET「学校情報化チェックリスト」を使った調査を定期的に実施しつつ、学力や問題行動に関するデータ等とも比較・分析を試みていきたい。

ICT活用を一過性のものせず、持続的で不可逆的な変革とするためには、まず「レベルゼロ」(ICTを使ったことがない)をなくし、次にICT活用に積極的な教職員を増やしていきたい。「黄金の3割」を突破することで、組織文化の大きな変革につながると言われている。

多くの市町村が、ICT化推進組織を立ち上げ、推進計画の策定を進めている。文部科学省の学習者用デジタル教科書普及事業については、「5割程度の学校で」とされていたところ、県内の約6割の学校が手を挙げた。また、基礎研修については、募集定員の3倍を超える受講希望があった。

「変化の芽を伸ばす」をスローガンに取組を進めてきたが、市町村・学校・教員のICT活用に対する姿勢・雰囲気が変わってきたと、手応えを感じている。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年6月7日号掲載

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