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教育ICT

混乱を整理し、社会全体のデジタル化の動きとつなげる デジタル改革の視点からGIGAスクール構想を見る<理化学研究所経営企画部長兼未来戦略室長/前・文部科学省情報教育・外国語教育課課長 髙谷浩樹氏>

2021年5月3日
理化学研究所経営企画部長兼未来戦略室長/前・文部科学省情報教育・外国語教育課課長

理化学研究所経営企画部長兼未来戦略室長/前・文部科学省情報教育・外国語教育課課長 髙谷浩樹氏

GIGAスクール構想により全国で1人1台端末体制が始まった。今年9月に社会全体のDX化を進めるデジタル庁を創設することを柱としたデジタル改革関連法案も審議が進んでいる。そのもととなっている「デジタル社会を形成するための基本原則(10原則)」を含む「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」も12月に示されている。教育分野では中央教育審議会答申「『令和の日本型教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」もまとめられた。GIGAスクール構想をけん引した1人である前・文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課課長で現在、理化学研究所に所属しつつ内閣官房デジタル改革関連法案準備室(以下「デジタル庁」準備室)で教育のDX化に取り組んでいる髙谷浩樹氏に、デジタル庁設立を見据えた教育のDX化について聞いた。髙谷氏はGIGAスクール構想を、端末の仕様書をOS事業者と文科省が直接やりとりして決める、教育委員会が直接OS事業者に問い合わせることも勧める等、これまでにないアプローチで進めてきた。

端末の導入で“終わり”ではない
IT活かす業務改善で真価を発揮

内閣官房デジタル庁
準備室で教育のDX

今回の学習指導要領、中教審の答申などでのICTに関連する一連の動きは社会全体がデジタル化に向かう中で避けられないパラダイムの転換にあると考えている。このような変革の中では、前例踏襲に囚われてはいけない。「児童生徒には何でも全員平等に」、「教員の労働は美徳」、「教員に失敗は許されない」などという思い込みを捨て去る必要がある。

最近ではネット上のモラル不足や犯罪が連日報道される。そのたびに子供たちにデジタル社会を生き抜く力をつけてほしいと考えている。

前職の経緯もあり、現在、理研での本務と別に「デジタル庁」準備室で教育分野のデジタル化のお手伝いをしている。その立場で政府のデジタル改革の現状を紹介するともに、デジタル改革の視点からGIGAスクール構想を見た中で、学校や教育委員会、産業界の皆さんに是非押さえておいてほしいことを述べたい。

社会のデジタル化の現状から教育DXに取り組む

中央教育審議会答申「『令和の日本型教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの実現~」では、教育の視点からのICT活用がこれまでになく取り上げられた。

一方で、コロナ禍をきっかけに社会全般のデジタル化も一気に進んでいる。菅総理就任後、社会のデジタル化推進について政府内で検討が重ねられた結果、昨年末、デジタル社会を形成するための10原則とともに改革の方針が示されたところである(図参照)。この方針に基づき異例の早さで「デジタル社会形成基本法」(以下、基本法)や、9月に発足する「デジタル庁設置法」などを柱とするデジタル改革関連法案がまとめられた。法案は5月中にも成立する見通しだ。

この結果、秋以降はデジタル庁を司令塔として、ガバメントクラウドやベースレジストリなど、行政や公共分野での具体的なデジタル化が加速していく。教育も医療、防災とともに「準公共部門」と位置付けられ、社会全体のデジタル化と一体的に推進していくこととなる。

教育分野はGIGAスクール構想として先行してデジタル化に着手した。当時の担当として、振り返ればより良い進め方があったのかもしれないと反省しつつ、この場を借りて教育委員会や学校現場のこれまでのご尽力には最大限の敬意を表したい。一方で、コロナ禍も重なる中、端末導入だけがとりあえず先行して混乱している現場も多いようだ。この混乱を整理し、社会全体のデジタル化の動きとつなげていかなければならない。

個別最適な学びに「データ」は必須

 個別最適な学びの実現は、中教審答申の柱の一つである。この実現に不可欠なものが、個人の情報すなわちデータだ。個人のスタディ・ログや生活指導などのデータがあって初めて、そのデータをもとに個別最適な学びを提供できる。このデータというものの重要性を改めて押さえてほしい。

教科書や教材のデジタル化も、学習指導要領のコードと紐づけてデータを集めてこそ、その真価を発揮できる。その点から、紙のPDF化だけではデジタル化とは呼べない。学習者のID取得も、データを個人と一意に紐づけるために不可欠だ。端末共有ではなく、1人1台体制では児童生徒個人がIDを持たないと意味をなさない。クラウド活用が必須となっているのは、これら膨大なデータをより安全に、経済的に保存しつつ、様々な活用をするためだ。

データ標準化も、現在の散在する情報を、必要な関係者がいつでもどこでも汎用的に使えるために絶対に必要な工程だ。文科省もデータ標準化の概念整理を始めているのもこの考えからである。

これからはガバメントクラウドやベースレジストリなど自治体全体のデジタル化、公的基礎情報の整理が進む。教育関連のデータ処理もこれと歩調を整える必要があり、教育委員会も自治体のデジタル化部局と歩調をあわせてほしい。デジタル庁準備室でも教育について関係省庁と検討を始めており、デジタル庁発足後は具体化に向け検討が加速されることとなる。

個人情報保護もルールを統一

クラウド上でデータを取り扱うことに関し、学校や保護者の不安が個人情報保護だ。基本法第10条にもある通り、情報はその重要度に応じてバランスよく扱うことが基本であるが、現在自治体や学校により差異が激しく、クラウド禁止、持ち帰り禁止、動画視聴禁止などのルールが残っている自治体もあるようだ。

保護者の理解はもちろん重要である。ただし、懸念されるのは「保護者の不安に応える」ことを言い訳に、何も考えずただ何でも禁止するだけで終わる場合があること。折角のデジタル化から何の享受も得られないばかりか、コストもかかり税金の無駄遣いにもつながり最悪である。

セキュリティを担保しながら必要な機能をどう使えるようにするのか、先行事例など参考に具体例を継続的に積み上げながらリテラシーを向上させ、保護者の理解の上でバランスの取れた保護を段階的に目指していってほしい。今回の法改正で自治体ごとにバラバラだった個人情報保護の扱いは整理されることになる(いわゆる2000個問題の解消)。これら一連の動きを踏まえた情報の扱いには教育委員会のみならず、同様に個人情報を扱う他の部署や個人情報保護の知見が豊富なIT業界、特に教育以外の分野からの支援にも期待しているところだ。

ネットワークは協働的な学びに必要

データの流通だけでなく、新しい学習指導要領の「社会に開かれた教育課程」の実現や中教審答申の「他人と協働」のためにも、ネットワークは重要な役割を果たす。

基本法第3条には、情報活用とともに「情報通信ネットワークを容易かつ主体的に利用すること」から「恵沢をあまねく享受できる社会を実現」することと規定されている。

日本のネットワークは、自治体のLG WANネットワークや、学術分野でのSINETなど、基幹通信インフラではむしろ世界で優位と言われている。しかし学校においては、今回の整備でも通信が輻輳するなど、不十分な事例が散見されている。学校側で整備が必要な最後の通信線が細いままの、いわゆるラスト1マイルと呼ばれる問題だ。繋げることは急務である。

デジタル庁準備室ではクラウドとともにデータをネットワークでいかに適切に流通させるか、アーキテクチャーの検討も着手している。今後は自治体DX全体の中で学校のネットワークも考えていくことになる。

政府のセキュリティ基準を満たすクラウドの登録制度(ISMAP)も始まった。5Gの開始、SINET利用も含め、すべての国民が低廉で安定して使えるようにする必要があるとの基本法の理念も踏まえ、クラウド化やネットワークに強い事業者の新たな知見を期待している。

民間が主導的役割を担う産業界への期待は大きい

繰り返し産業界への期待を述べてきたが、技術の急速な進展の中、学校や教育委員会などがそれらを意識して自前で仕様書を書いて推進することには限界がある。

その点、基本法の基本理念では、デジタル社会の形成には「民間が主導的役割を担い、国や自治体が積極的に活用すること」(9条)、「IT分野の技術の進展に積極的に対応すること」(11条)「事業者は自ら社会の形成に努めるとともに自治体に協力する努力を負う」(16条)と明確に示されており、民間が技術の進展に応じて主導する主体とされている。

GIGAスクール構想以前の教育ICT業界は、狭い市場の中で教員や教育委員会からの要望を適える形で機能を発展させていった。そのため、教育分野限定の機能で高コスト体質となってしまった面は否めない。さらに世の中のIT分野の技術の進展にも対応しきれず、時代から取り残された面もある。その弊害が今回のGIGAスクール構想における全国一斉の整備で露呈していないか、教育委員会や学校には今回の整備を振り返ってほしい。教育委員会に言われるがまま旧来のやり方で端末やネットワークを整備して、終わった感を出している事業者は要注意かもしれない。

これからがスタートである。これまでになく広がった教育ICT市場で産業界への期待は大きい。

基本法にあるように、事業者には、ともに学校ICT化を進めるという意識をもって、支えていってほしい。今後進んでいくデータ活用やネットワークに知見を持つIT企業や、利用者の使い勝手を考えたUI(ユーザインターフェイス)やUX(ユーザ体験)の知見のある企業にも最新技術動向を踏まえつつ積極的に参入してもらい、従来の学校現場に強みを持つ企業との相乗効果で教員や学校を支える新たな技術の創出や継続的な支援を期待している。学校や教育委員会も新しい風を積極的に受け入れ、ITセンスを持つ事業者とのうまい付き合い方を見つけてほしい。企業と自治体の包括連携が増えている。好ましい変革であるが、閉じた中での連携になることなく、開かれた形を期待したい。

教育現場への期待
前向きな取組を潰さない

働き方改革に役立つ仕組みを導入する

ICT導入による教員や学校現場の負担を懸念する声がある。導入による初期トラブルや使い慣れるまでに時間を要するのはやむを得ないが、本来、ICTの導入は、基本法にも明記されているように教員や学校現場が能力を有効に発揮するためのもの(4条)であり、ゆとりを実感できるものであるはず。そもそも導入して負担になるものが根付くはずはない。

ICTを導入する他の業界でも同様の事象が起こっている。単に紙をデジタルにするだけではなく、そのデジタルにふさわしい業務に変えていくことでデジタル化はよりその真価を発揮する。その改革に向けて、現場からも声を上げてほしい。

できることから始め軌道修正をしていく

IT分野にはアジャイルという概念がある。

皆さんが使うOSやアプリのバージョンアップのように、製品に少しでもバグが見つかればすぐに新しい技術を入れる等、随時柔軟に対応する方法である。そもそもICTで一律に完璧を目指していると時間やコストがかかる。ICTとはそういうものであり、教育でのICT導入・活用も、まずはできることをやりつつ、失敗を重ねながら随時改善してほしい。

デジタルネイティブでもある若い教員の前向きな取組を、デジタルに疎い教育委員会や管理職、首長部局が潰してはならない。積極的に採用しつつ失敗例含め、自信をもって情報発信し、全国にその取組を広めてほしい。

どうすれば令和の日本型教育が効率的に実現されるのか、デジタル庁も、私個人も支援していきたいと考えている。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年5月3日号掲載

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