経済産業省「未来の教室」ビジョンの1つ「学びのSTEAM化」の実現に向け、GIGAスクール構想を踏まえた1人1台端末環境を活かしたデジタルコンテンツライブラリーである「STEAMライブラリー」が2021年2月末より公開される。「未来の教室」プロジェクトを立ち上げた経済産業省サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野大介氏に、STEAMライブラリーにかける想いを聞いた。インタビュアーは、STEAMライブラリーのシステム構築事業者である(株)StudyValley代表取締役の田中悠樹氏。
――『STEAM』に着目した理由は
STEAMは、よい仕事に必須のもの。ほとんどの社会課題は科学や技術の力なくして解決できず、あらゆる仕事には必ずSTEAM――科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、人文社会・芸術・デザイン(Arts)、数学(Mathematics)が関係する。STEAMを自由自在に使って自ら課題を設定して、時には他の人と協力しながら解決していく。
経済産業省の職員が応援として例年被災地にお伺いするが、災害対応はまさにSTEAMである。停電状態での避難所の感染対策など生活の方法を考える上で、理科の原理原則や友好なコミュニケーション能力は必須。全ての知識がある必要はなく、わからないことはさっと調べたり、仮説を立てたり、専門家に聞いたりすることができる能力が必要。つまり、STEAM教育は、良い仕事をするために絶対に必要な学びということ。そのような力を身につけられる場を公教育の中に取り入れたいと思った。
勉強を「9教科」という枠に閉じ込めることなく、プロジェクト化し、それを遂行していく過程で失敗した際にはリフレクション(内省)する。そんな経験ができれば、それは「失敗」ではない。だからこそ学校現場ではこのような失敗や混乱をたくさんしてほしい。そうして失敗や混乱に対応する強靭性を育んでほしい。
そこでSTEAMに基づいたPBL(探究・プロジェクト型学習)を広げるため、STEAMライブラリーを構想した。
――学校で、STEAMライブラリーをどのように活用して欲しいか
STEAMライブラリーは仕事と自分の興味を繋ぐ探究的な学びの場にしたい。
理科も数学も、自分の生活に関係があると思った瞬間に、面白いものになる。そこでまず、子供にSTEAMライブラリーを見てほしい。そして面白そうだと思ったものに取り組んでほしい。
社会人になる前に仕事に繋がるような探究的な学びの機会を多く持つこと。いくつか追っているうちに的も絞られてくる。STEAMライブラリーはそれを体験できる場になる。
僕がインスパイアされている天ぷら屋の大将は、仕事を全てSTEAMで語る。お店の内装もお品書きも自分でアートし、エビをおいしく揚げる温度や時間も計算し、衣の仕組みや揚げるという作業も全て科学的に説明する。季節や気温に左右されずいつも美味しい料理を提供できるように、同じ答えにもっていくために日によって変数を調整している。
スポーツも同じで、ラグビーの五郎丸歩選手は、自分の体の角度やスピンのかかり具合をすべて物理の言葉で説明してくれた。正確無比なキックも、ボールが一定の軌道に乗るように計算し、それがずれないように確認作業としてルーティーンを定めている。バレーボール日本代表の西田有志選手もボールにインパクトを与えるための体のしなりを物理的に捉えている。
どんな仕事やスポーツでも、活躍するために必要な力はSTEAMにあると思う。
――今後、STEAMライブラリーで増やしていきたいコンテンツ教材は
長野県の伊那小学校や信州大学附属長野小学校では、野菜を育ててバザーで売るというプロジェクトのもとに、野菜の観察や土の実験をしたり、調理を通して計量や配合方法、熱の加え方を学んだりして、教科横断的な学習を行っている。このような日常生活と繋がる課題解決型教育プログラムをSTEAMライブラリーで、オンライン配信して日本中に広めたい。
また、高等専門学校やSSH(スーパーサイエンススクール)で取り組んでいるようなSTEAM教育の実践やプログラムを、高等学校からではなく、より早い段階で学べるようにしたい。プロスポーツ界のように、中高校生が活躍したいと「夢見れる場」をプログラミング領域にも広めたい。
――STEAMライブラリーを学校外に広める予定は
塾や家庭教師などの民間企業に取り入れていただき、教育業界全体や保護者の皆様の考えが変わってほしいという思いが強くある。良い大学に入って良い就職先に勤めることが幸せという旧来の考えから、生きていくために本当に必要な力を身につける教育こそが重要であるということを共有したい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年2月1日号掲載