通常授業や公開授業のオンライン配信など、1人1台PC時代とWithコロナ対応に向けて新たな取組が始まっている。町田市立町田第五小学校(東京都・五十嵐俊子校長)と守谷市立黒内小学校(茨城県・荒井弘勝校長)では、YouTubeのライブ配信アプリ「YouTube Live」をZoomと組み合わせて限定URLで配信した。黒内小学校では、遠隔ライブ授業も同時に展開。町田第五小学校は五十嵐校長がレポーターとなって校門から参加者を校内へ案内。学校や教室、児童の様子を紹介し、公開授業用資料や見どころの紹介動画をWebに事前掲載した。今後、公開授業や授業参観等のライブ開催やハイブリッド開催を検討している各校への新たな提案となりそうだ。
感性とは「価値あるものに気付く感覚」といわれている。ICTが一層大きな役割を果たす中、感性教育の重要性が再注目されている。12月15日、守谷市立黒内小学校の荒井弘勝校長は「芸術家の生き方」をテーマに、パブロ・ピカソの制作過程を追体験する授業を遠隔で行った。対象は同校5年生125人及び校区内の大野小学校5年生25人、計150人。大野小学校との合同授業は今回が初。授業の実施は5年1組で、その様子を他クラス・他校に同時配信しながら双方向でやりとり。授業の様子はリアルタイムでアーカイブされるので、学校でも家庭でも視聴できる。同校の普通教室及び特別教室には75型の電子黒板を配備済。タブレットPCは3人につき1台を配備済で、GIGAスクール構想による1人1台PC環境は今年度中に配備予定。
各班に渡されたワークシートには、パブロ・ピカソの代表作「肘掛け椅子に座る女」の一部の輪郭が印刷されている。作家名や作品名は明かさないまま、児童は班の5~6人で分担を決め、廊下に掲示されている絵を1人ずつ1分間観察。自席に戻って記憶を頼りにワークシートに90秒間で再現する。この「観察」「再現」を繰り返し、6回目の担当は、最後にもう一度確認したい部分を班で話し合ってから廊下に向かった。
すべての班の完成図を黒板に掲示し、どの班が、より正確にコピーできたかについて評価。作品名を伝え、次はこの作品を描いた作家について学習することを伝えてオリジナル作品への興味関心を高めた。
荒井校長は、年代によりピカソの作風が大きく異なること、作品点数の多さなどを伝えてからピカソの3枚の絵を1枚ずつ大型提示装置に映し、制作年の順番を児童に考えさせた。
14歳のときの作品「初聖体拝領」、青の時代の「悲劇」、キュビズム期の「ドラ・マールの肖像」の3枚で、自分の予想を考えてからグループで話し合う。答え合わせをすると、遠隔でつながっている他教室から歓声が聞こえる。正解していたようだ。
ピカソの少年時代、青年時代、壮年時代の写真を提示しながらそれぞれの年代で描かれた絵を提示。8歳で描いた石膏デッサンや15歳で描いた母親のパステル画、114億円で落札された「パイプを持つ少年」、ワークに使った「肘掛椅子に座る女」などを通じてピカソの才能の豊かさと旺盛な創造意欲を理解できるようにした。
キュビズムの理解を深めるため、様々な角度から見た形を一枚に描き、一部のラインを省略したり強調したりしていることに気付かせてから、コップをピカソのように描く活動を実施。様々な角度から見たコップの絵を黒板に掲示して児童の発想を促した。
各教室から発表された児童の作品はユニークで、児童はふり返りで「自分でも描けると思っていたが、ピカソは他の人とは違う表現を考えて描いていることがわかった」「もともと才能があったが、その才能をどんどん発展させていった」「ピカソのような発想で絵を描いてみたい」などと発表した。荒井校長は最後に、ピカソの言葉「15歳で既にベラスケスのように描くことができた、子供のような絵を描くまでに80年もかかった」を紹介した。
途中、ネットワーク負荷により提示資料の画面共有がオンラインで配信されないというトラブルもあったが、大型提示装置の画面を大写しすることで対応した。守谷市では今年度中にネットワークを強化する予定。
本授業の特徴はライブによる遠隔授業とオンデマンド配信を兼ねた点だ。ZoomはYouTubeのアーカイブ配信に連動しており、リアルタイムで巻き戻しや追いかけ再生等ができ、個別最適化された学びにも貢献する。YouTubeのライブ配信機能をZoomに組み合わせることで、100人以上の児童生徒が一斉に授業を受けることができ、ネットワーク負荷が少なく、Zoom単体より安定した配信が可能だ。ゲーム配信などでよく活用されている方法だが、公立学校での事例はまだ少ない。
守谷市の保護者約5800名のアンケートによると、8割はオンライン授業を望んでいるものの、保護者が日中、自宅にいない家庭もあり、PC操作のサポートが難しく、アーカイブ配信を希望する声もあった。そこで、事後視聴もできる「守谷型オンデマンド・ライブ授業」に挑戦。専科教員や指導力のある教員が授業を行い、複数のサテライト教室で児童生徒が視聴。各教室では、主に学級担任が児童生徒の意見や質問を授業者につなぐ。
既にアカウントは配備済で、学校及び家庭からの接続も検証済だ。
荒井校長は「GIGAスクール構想によるPC配備後は、新たな学びのスタイルと共にこれまで以上に学びの質の高さも求められる。中学校区で学びの質を確保しよう、各校の大型提示装置とWeb会議システムを使えば可能である、と考え授業改善のための第一歩の取組とした。鑑賞の授業では、感想で終わるのではなく、作家について学びを深めることで自らの制作に活かし、作品に触れるときの見方考え方を深めることが重要。今後はテレビのスイッチを入れる感覚で遠隔授業が展開されることになるだろう」と話した。
守谷市教育委員会では「ワークシートを見ると、オンライン授業の教室でも質の高い学びが展開されていることがわかった。学級担任が子供に寄り添いながら対応できるメリットがあり、オンライン授業の可能性を感じた。この方法であれば、Zoom、YouTubeどちらでも参加でき、ライブ授業をしながらアーカイブ配信もできる。万が一、一部の学級が閉鎖した場合も授業を配信でき、同一時間ではなくても視聴できる。授業参観も後日視聴が可能になる」と話した。
12月には、オンライン授業のテストを、守谷中学校1・2年生を対象に実施。各家庭でZoomを使って出席確認をし、1時間目のみオンラインで授業を受けた後に登校。事情により登校を希望する生徒は、学校でオンライン配信による授業を受けた。
町田市立町田第五小学校(五十嵐俊子校長・東京都)は11月18日、オンラインで公開研究会を開催。1人1台のPCを活用する1年生の授業を公開した。本研究会には550を超える教育関係者の申込があった。公開授業は東原義訓教授が感想を交えながら配信した。五十嵐校長は「『まちご』自慢の1年生の伸び伸びとした普段の姿を、配信画面を通してどうすれば伝えられるのかを考え、教員が率先して進め、オンライン配信に挑戦した」と話した。
公開研究会は、参加申込者に限定URLを配信。当日は公開授業と全体会を、Zoomを使った限定公開のYouTubeLIVEで配信。分科会はオンライン上のミーティングルームをYouTubeで配信し、子供のPCはLTE回線でやり取りした。
冒頭は、五十嵐校長がレポーターとなって校内を歩きながら学校や教室、児童の様子を紹介。1年生とのやりとりも配信した。
公開授業に至るまでの取組は、Web上に動画で紹介。授業案や板書計画も掲載した。1年生が休校期間明けに初めてPCを配布され、IDやパスワードを入力する際、同校では3年生がサポート。昨年の1年生には当時の4年生がサポートしており、そのときの様子の紹介動画もWebに掲載された。
公開授業では、教室後方の固定カメラと、教員による可動カメラの映像を配信。カメラマン役の教員は子供用アカウントでログインし、子供がグループで共有している画面も配信した。
1年生生活科×国語科「きせつとなかよし あき」で子供は公園で見つけた「秋」――木の実や木の葉を集め、オリジナルおもちゃ――どんぐりマラカス、アスレチック、木の葉のお魚釣り等の設計図をお絵描きツール「Canvas」で描き、工夫ポイントを、デジタルホワイトボード「Jamboad」の付せん上に書き込んでいる。設計図に基づいておもちゃも制作している。
この日は「1分間で作ったおもちゃの遊び方を友達に説明する」「4分間で実際に遊ぶ」、「友達のおもちゃの良かったポイント、良くなるポイントをPC上の付せんに書き込んで伝え合う」内容だ。
工夫と遊び方説明の際は、自分の設計図を共有ドライブに移動。画面をグループ内で共有し、工夫を凝らしたさまざまなおもちゃの工夫ポイントと遊び方を伝えた。
設計図もカラフルで分かりやすく、楽しそうなものばかりだ。
説明の後はどんぐりや落ち葉を使った迷路など様々なおもちゃでの遊びを短時間ではあるが精いっぱい楽しんだ。大型の力作が多いのも印象的だ。遊び合った後は自席に戻り、付せんに「良かったポイント」「良くなるポイント」を入力。「やじろべえのやりかたがわかりやすかったよ」「しゃかしゃかしているおとがきれいだったよ」など、五感を意識した具体的な内容だ。入力時の教室はとても静かで、児童が集中している様子がわかる。教員は教員用PCで、子供たちの書き込みの進捗を確認した。
付せんの書き込みは手書き入力をテキスト変換する機能を使っている。各自の付せんの色は決まっているので誰のコメントかもわかる。書き込みが終わった児童は、友達からのコメントを熱心に読んでいた。子供たちは、学年全体のおもちゃランドで遊ぶ活動を楽しみにしていた。
町田第五小学校は、「1年生でもここまでできる」「クラウドの無料サービスでここまでできる」ことを示した。「1年生には無理」「危険」など大人のこれまでのイメージを大きく変えていこうという提案だ。コロナ禍で公開授業は中止という学校が多い中、さらにオンラインであればどうすればよりわかりやすいかの新たなチャンレンジがあった。冒頭の生中継のような五十嵐校長の学校紹介も良いアイデアだ。
1人1台PC配備はクラウド環境をどう活用するのか、に本質がある。
コメントはボード上で共有し、手書き入力はテキスト変換するなどのクラウドサービスを利用していた。児童はコメントがもらえると嬉しく、何度も見返していくうちに気付きにもつながり、さらなる工夫に発展し、「追究」が継続していきやすい仕組みであった。友達同士でコメントを書き合うことで共同し合うことの意味も体験を通して理解できる。
おもちゃはかなり複雑なものを作っていた。十分に作りこみ、遊び込む時間があるからこそ、お互いへの感想も伝えたい内容も具体的になる。
教育家庭新聞 新春特別号 2021年1月1日号掲載