2008年度から市内全小学校全学年で英語教育に取り組んでいる鹿屋市。2020年度も文部科学省教育課程特例校の指定を受け、1・2年生各20時間、3・4年生各35時間、5・6年生各70時間で英語教育に取り組んでいる。今年度から小学校英語が教科になり、授業はどのように変わったのか。鹿屋市立鹿屋小学校(下松勝浩校長・鹿児島県)6年生の授業を取材した。授業者は吉田雄二教諭と英語指導講師の坪山麻衣子氏。高学年では、NEW HORIZON Elementary English Course(東京書籍)の教師用指導書に付属した指導者用デジタルブックと自作教材を使って、ALTや英語指導講師、担任とTTで授業を展開している。
導入の挨拶と日付、その日の天気を授業冒頭に英語で行うのは英語授業の定番だ。吉田教諭はそれにひと手間加えている。この日は11月10日。この日に生まれた著名人を、ヒントをいくつか提示して答えさせたり、世界地図と各地の天気予報を出し、一部を隠して「どんな天気だと思う?」と問いかけたり。さらに、昨日の給食の写真を提示し、一部を隠して何の給食だったかを答えさせたり、食べ物と国旗を出して産地はどこかを答えさせるなど、学習内容「Let’s think about our food.」につながる話題も複数盛り込んでおり、これらすべてを冒頭20分間のオールイングリッシュタイムで行っている。質問や誉め言葉は坪山講師が、提示教材の操作や補足などは吉田教諭の役割だ。隣の人同士の活動では、吉田教諭と坪山講師が今朝何を食べたか、いつもどのようなものを食べているのかを示してから、児童も英語でやり取りした。
どの国の食べ物かについてもクイズ形式でやり取りしてから、指導者用デジタルブックを電子黒板に提示して「冷蔵庫にある食べ物」を児童は英語で答えていく。事前にクイズ等で発音しているためテンポよく英語でのやり取りが進む。
ビデオ教材は朝食に何を食べるのか、その原料の産地はどこかという内容で、これまでのやり取りが盛り込まれている。視聴後は、登場人物の朝食は何か、朝食に出た納豆の原料である大豆の産地はどこかなどと質問。書く活動も行った。
吉田教諭は「カレーライス」の写真を提示。ポークとチーズは鹿屋、ズッキーニは串良、冬瓜は垂水――すべて鹿児島県産であることを英語で説明して「みんなもオリジナルカレーのレシピを考えるんだよ」と次時の学習内容につなげた。
「ふり返り」で児童は、英語のやり取りでよく聞き取れたこと、うまくできたこと、こんな表現が言えるようになりたいなどを日本語で記述。「〇〇さんはみんなでコーンスープを飲んでいる」「〇〇さんに、食べないものを質問された」「時間いっぱいやり取りできた」「カレーのレシピを考えるのが楽しみ」などだ。英語でやり取りできたことに達成感を感じている様子がわかる。
吉田教諭は同校で英語教育の研究担当として7年間取り組んできた。最も重視しているのは「英語でやり取りする時間の確保」「英語のままで理解できること」。「英語のやり取りを繰り返すことで度胸や即興性がつき、オリジナルのやり取りが少しずつ確実にできるようになっていく」という。この日のオールイングリッシュタイムは20分間だったが、3学期には25分間にする。坪山講師は「当初、わからない、と言っていた児童が、授業を繰り返すうちにI don’t know.と口にするようになっていった」と話す。
今年から3年生の学級担任である吉田教諭は6年生2クラスの英語を担当。高学年の英語は、吉田教諭と学級担任が交互に、英語指導講師もしくはALTとTTで行っている。英語指導講師と学級担任と共に、週1回打ち合わせも行う。
今年度から英語が教科になったことから、高学年では教科書と指導者用デジタルブックを使った授業が始まった。指導者用デジタルブックについて吉田教諭は「映像や音声がクリアで使いやすい。読む、書く、聞く、話すがすべて盛り込まれているので、授業の流れを作りやすく、すべてのコンテンツを使っている。これまで蓄積してきた自作教材のノウハウを活かし、教科書の内容を英語のまま理解できるように、スパイラルな授業づくりを意識している」と話す。
さらに朝のモジュール学習の時間には『Picture Dictionary』を使って単語やチャンツ、ドリル学習などを行っている。授業中は英語でやり取りする時間を多く確保したいからだ。
鹿屋市では全教室に電子黒板を配備済で、GIGAスクール構想により今年度中に小・中学校にiPadが教員と児童生徒に1人1台配備される。「1人1台あればわからない言葉や表現を児童が自ら調べることができるようになる。様々な人とグループや個人同士でつながり、コミュニケーションする機会を増やしていきたい」と話した。
同校では英語の指導者用デジタルブックのほか、国語、算数の指導者用デジタル教科書を今年度から導入している。下松校長は「すべての学級でほぼ毎時間、電子黒板を活用している。複数の指導者用のデジタル教科書の導入で、これまで以上に活用が増えた。10数年前、PCが導入されたときは教員も戸惑っていたが、現在は電子黒板やデジタル教材の活用意欲が高く、授業づくりを意識して研究を進めている」という。
同校では2021年2月10日に公開授業「オープンスクール」を実施する予定で、ハイブリッド開催も視野に準備中だ。
指導者用デジタルブック(DVD―ROM)は教師用指導書に同梱。教科書紙面を含む提示用デジタル教材、教科書紙面からアクセスできるQRコンテンツと同様のストーリー映像、困り感ショートコント、ゲーム、歌・チャンツ、リズムボックス、語順パズル、海外映像、絵カード作成システムなどを収載。教員用PCに限り校内フリーライセンス。Web配信利用も可。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年12月7日号掲載