第46回全日本教育工学研究協議会全国大会・鹿児島大会が11月6・7日、鹿児島市内で開催され、初のハイブリッド開催に挑戦した。授業を公開する4校は、密を避けるため人数制限を設けると共に、オンラインでも授業を公開した。講演やパネル討議、研究発表はオンラインのみで実施。大会テーマ「つながる!広がる!新しいICT活用のカタチ~風は南、かごしまから」を体現する新しい試みとなった。主催は日本教育工学協会(JAET)。
鹿児島県では、GIGAスクール構想によるPC配備について県内の市町村を取りまとめて調達しており、WindowsPCは20教委3万796台、Chromebookは7教委5682台、iPadは10教委2万4031台を調達済で、今年度中にほぼ1人1台PC環境が整う。
授業が公開された鹿児島市では小学校にiPad、中学校にWindowsPCを1人1台配備予定。各校は現在の環境で、児童の主体的・対話的な学びに取り組んだ。
島津氏ゆかりの地にある鹿児島市立大龍小学校(西園香緒利校長)の玄関には西郷隆盛の銅像があり、氏を代表する言葉「敬天愛人」は校訓の一つ。薩摩藩・西郷隆盛と庄内藩・菅実秀の明治維新をきっかけとした交流から、同校と山形県鶴岡市立朝暘第二小学校は52年間にわたり姉妹校として交流を続けている。西郷隆盛は様々な学習のきっかけになっている。
公開されたのは5年算数、6年総合的な学習の時間・理科、特別支援学級えのき組自立活動。校庭の「榎(エノキ)」は同校のシンボルツリーだ。
児童は姉妹校である山形県の朝暘第二小学校と遠隔で話し合いを行った。昨年、両校では鹿児島弁と山形弁の違いなどを遠隔で学び合っている。
コロナウイルス感染症拡大で東京五輪や学校訪問など様々なことが延期や中止になり、日常生活も学校生活も大きく変わっている。このような時代をどう捉え生きていけば良いのかについて、両校を結ぶきっかけである西郷隆盛と菅実秀の生き方や行動、考え方を基に考え、話し合って共同宣言を作り、両校のHPに掲載するという学習内容だ。「今」を意識し、かつ地域に密着した同校ならではの課題設定だ。
児童はこれまで、歴史的事件や当時の動向に対する両名の対応について調べ、人物像などについて学んでいる。この日はZoomとコラボノートで両校の各グループを接続。遠隔で同じ画面を見ながらシンキングツール(ベン図)を使って共同宣言に盛り込みたいキーワードを整理した。
「人に優しく、正直で信頼される人になる」という宣言を考えたグループは、根拠や理由を相手に説明。「優しい」「信頼される」などの言葉に実感がこもっているのは身近な歴史上の人物の行為から学んでいるためだろう。相手に聞こえやすいように画面に近づいてはっきり発音しながらゆっくり話している。相手校のPC数に合わせるため、前半と後半で分かれて接続するなどの工夫も見られた。
授業者は「遠隔でも同じ画面を共有できる仕組みで両校の話し合いを効率的に進めることができた。相手にわかりやすいように伝えるためにどうすれば良いのかも意識している。Zoomと画面共有システムを同時に複数グループ接続したため、ネットワークが遅延した。運用面は課題」と話した。
授業後の協議会で助言者は、公開授業のため児童が交流の際にイヤホン等を使用しなかったことでお互いの声が聞きにくい面があった点について、「イヤホンを使用する方が児童活動がスムーズなのであれば公開授業ということを考えず、使ったほうがよい」「授業者が忙しくなるのではなく、子供が忙しくなる授業デザインを」とアドバイス。イヤホンやヘッドセット等の活用は、グルーブ同士や個人同士でオンライン交流をする際の利便性を向上するポイントになりそうだ。
えのき組では、「カレーのつくり方を分かりやすく伝える」ことをテーマに、プレゼンテーションソフトを使ったレシピ作りを2人1組で行った。8人の児童はそれぞれ異なった課題を持っており、コミュニケーション活動の目標もそれぞれで、各人の目標が板書されている。
児童は前時にレシピを作成し、それを「もっとわかりやすくする」ための修正点を皆で話し合っている。「文字を少なくする」「作り方の順番を意識する」などだ。この日はその修正点を踏まえ、材料を追加して撮影したり、順番に並べたり、説明を追加したりしていた。
各グループの発表時は、前回のプレゼンとどう変わったのかも比較したので、変化がよくわかる。児童は今後、自分たちで作成したレシピを使ってカレー作りに取り組む。
授業後、助言者は「これまでの活動の様子を印刷して教室に掲示しており、児童にとっても、活動のふり返りになる。掲示物の活用は特別支援教育で有効。撮影時、カレールウの箱を見て児童は『開けていい?』と聞いていた。教員がおぜん立てしすぎず、主体性を発揮する余地を残すことはすべての授業に重要」と話した。
6年理科「電気とわたしたちのくらし」はオンラインで公開された。実物投影機で教室後方から固定で撮影すると共に、タブレットPCで児童の手元の様子などを撮影して配信した。
児童は発電や蓄電、電気の変換や有効利用について学び、リズム運転と連続運転のどちらが効率よく電気を使うことができるのかをペアで測定。タブレットPCとアーテックロボは2人に1台。
「必要な時だけ電気を使うことが効率的である」ことの理解を深め、電気を効率良く使うための身近な仕組みに気付くようにし、扇風機を効率的に動かす仕組みのプログラミングを考えた。授業者は「児童は、自動ブレーキやエアバックなど身近なものの仕組みについて話題にするようになった」と報告した。
「深い学びを明らかにして授業改善を行うことで、資質能力を育成することができる」「教員のICT活用指導力と児童の情報活用能力が向上すれば、主体的・対話的で深い学びにつながるICT活用ができる」という仮説を基に取り組んだ。
各教室に大型提示装置と画像転送装置、実物投影機が配備されており、児童生徒数365人に対してタブレットPCはPC室配備も含めて60台程度。中核市としては整備が進んでいたものの、当初は教員の半数以上がICT活用は苦手であると回答。積極的な活用には至っていなかった。
コロナウイルス感染症拡大予防に伴う休校期間、教員にMicrosoftアカウントを用意して打ち合わせや研修をMicrosoftTeamsで行うことで教員活用が進み、情報共有の便利さを体験でき、児童活用を促す授業改善につながった。放課後研修会や授業相互参観「ひょっこりタイム」も設けた。
PC系統表も作成して情報活用能力の育成に取り組んでいる。
山形県の姉妹校である朝暘第二小学校と遠隔交流を行ったところ、他校から交流の依頼も届くなど可能性と広がりを感じている。
パネル討議では、各校の2年間の取組について助言者が報告した。
武小学校では4年総合的な学習の時間で、校庭の安全な使い方について考え、それを1年生に伝えるための表現をプログラミング。4つの遊具の危険度などをどう紹介すれば一番伝わるのかについて考えていた。
6年理科「電気と私たちの暮らし」では、適切なプログラムを検討。朝起きるのが苦手な人や目に障害がある人それぞれに適合する仕組みを作る、という課題は、改善の方向が明確で討議がはずんでいた。
各学年で情報教育年間指導計画に基づいた実践を行っており、ふり返りを次年度の計画に活かしている。タイピングスキル向上も学校全体で取り組み、素地を整えている。次の課題は子供の裁量範囲を広げることになるだろう。
当初、名山小学校の学習指導案は教員のICT活用が中心であった。そこで児童の活用が主体となるようにアドバイス。公開授業では児童の活用場面が多く見られた。短期間で発想を転換した努力は素晴らしい。学校全体に落ち着きがあり、児童への信頼が発想の展開を後押ししたのではないか。
同校では隙間時間でICTスキルを高めることに取り組んでいた。
当初はタッチパネルで書き込んでいた児童も2か月ほどで1分間に50文字程度打てるようになった。タイピングが速いと児童主体の活動は捗る。教員が忙しい授業ではなく、子供が忙しい授業を目指すことが重要。
今後も授業デザインの転換に取り組んでほしい。
辻が丘幼稚園では、カメラ4台をスイッチャーで切り替えながら上手く教材を提示し、児童の主体性を後押ししていた。
年長クラスでは、ロボット「アリロ」を動かして遊ぶことを目標に「9回動かしてゴールを目指そう」などのミッションに挑戦。年中クラスでは「秋の自然物を使ってあそぼう」とし、プレゼンテーションを作成。年少クラスでは、森から贈り物と手紙が届いたという設定で、楽器作りを考えた。
保育でのICT活用は「ファンタジー」と「リアリティ」の2点。これからの学びは、探究的である点、子供自身が問いを喚起できる点が求められる。
学齢期前半のICT事例は少ないが同園は幼稚園としてトップクラスのICT活用と言って良い。小学校低学年でも応用できる内容。全国に発信してほしい。
複数の学校の授業を全国に配信するという初の試みにチャンレンジした。事前に授業のオンライン配信はテストして臨んだが、当日の流れなどの微調整や確認など、多くの方の協力が必要であった。
今後、密を避けた授業参観や公開授業は、一層求められることが予想される。オンラインでも簡単に公開できる仕組みをいくつかの教室に予め設定しておくなどの新たな環境が必要になるだろう。
1人1台のPC活用が始まると、授業の在り方そのものが変わり、授業モデルも変わる。PCは保管庫に入ったままで教員に言われて持ってくるものではなく、1人1人が机からすぐに取り出して活用できることが前提になる。皆で一斉に同じことに取り組むことが少なくなり、教員の仕事のメインは「説明」や「発問」ではなく「評価」になる。評価とは点数をつけることではなく、励ましやアドバイス、1人ひとりの見取りである。問い返し、揺さぶりは、深い学びのきっかけになる。日常的な活用により、教員の支援も洗練されていく。
情報活用能力がなぜ必要か。それを理解するには、これからの日本の姿を共有する必要がある。
世界的な人口の増大による食糧難を解決するためにテクノロジーの成果が求められている。今の小学校6年生が40代を迎える頃には食糧危機が深刻化する。対して日本は少子高齢化が進み、高齢者が4割になる。今までと同じ仕事の方法では人手不足で多忙化が進む。ロボットやAIの支援を利用しながら自動化していくことが求められている。
そんな時代の中心となる子供を育む教育改革が求められている。自動化されたロボットもAIも人がプログラミングしたものであり、その仕組みを知っておくことは、将来の作り手の育成につながる。
プログラミング教育が今年から小学校でも始まった。「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」でプログラミング教育はAからDまで4種類に分類されている(※)が、A分類で、例えば「正多角形のところでプログラミングすればうまくいく」わけではなく、Scratchでプログラミングした経験がある子供たちであれば、というのが前提にある。プログラミングの経験値の有無で、算数など教科の学びも深められるかどうかが左右される。
教科外の学び(C分類等)でプログラミングを十分に楽しんでいる学校は、教科での学びにも向かうことができる。
(※)A=学習指導要領に例示されている単元等で実施 B=学習指導要領に例示されていないが、各教科等の内容を指導する中で実施 C=教育課程内で各教科等とは別に実施 D=クラブ活動など教育課程内で実施
GIGAスクール構想環境前に実施すべきは、教員の活用と児童の自由な活用だ。
ある学校では、子供がスマートスピーカーの前で英語を歌い、Googleドキュメントの音声認識機能で、自分の英語が英語としてどう認識されるのかを試していた。これは無料のクラウドサービスでできること。クラウドツールにはどのような機能があるのか、活用経験の有無で、新たな授業アイデアが生まれやすくなる。
スマートスピーカーを教室に設置し、子供は様々な質問をし、遊んでおり、AIができること、できないことを体験していたことから、「AIはできることとできないことがある。それは何故か」という課題につながっていた。教室にAI等を持ち込むことも情報教育の1つだ。
宮城県都城市の学校では、研究プロジェクトで1クラス40台を配備した。教員はかなりツールの活用に慣れており、2か月でこんなに変わるのかと感じた。子供はPCも紙も使っており、そうなると現状の机は手狭になり、PCの落下も何度か見られた。PCが壊れにくい点も重要だ。
子供がデスクトップをアレンジする様子も見られた。自分らしいカスタマイズで覚えることはいろいろあり、ツールを自分の使いやすいものにしていく力につながる。
GIGAスクール構想配備による1人1台PC活用の成功の可否はネットワーク整備にある。校内WiFiを高速化しても学校からのインターネット接続が遅いと、子供の活動は滞る。学校からの回線を如何に速くするかが教育委員会と設置者の重要な役割だ。
学習者用デジタル教科書は、弱視やルビがないと読めないなど合理的配慮が必要な児童生徒に最適だ。さらに今後、学習履歴の活用に広がっていく。
学習者用デジタル教科書が一般化しても、教員が提示できる指導者用デジタル教科書(教材)はやはり便利。スタートや途中で、学びの内容を整えることができる。
授業公開校では約2年の準備を経て当日を迎えており、今ある環境で1人1台のPC活用や主体的・対話的で深い学びにどこまで迫ることができるかが試された。全日本教育工学研究協議会全国大会は、公開授業前提で進めているが、今回はハイブリッド開催により、当日の参加者が限定された。授業はオンラインで一部を見ることはできるが、学校掲示物や子供たちの様子に触れることでわかる成果も多い。それをどう担保するかは今後の課題だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年12月7日号掲載