GIGAスクール構想では1人1台のPC配備による個別最適化された学びの推進が期待されている。個別最適化された学びのためにどのような学習データを収集し、どう分析して学びに活かすかが問われている。東京都教育委員会は昨年度から「公立小中学校におけるICT利活用モデル検証事業」を行っており、町田市教育委員会と千代田区教育委員会で検証している。実証校の1つである千代田区立お茶の水小学校(太田耕司校長)では学習データ収集の仕組みを複数導入して検証を始めており、10月21日、3年社会科の授業が行われた。授業者は中畝毅主幹教諭。
社会「店ではたらく人」で、児童は、スーパーマーケットの工夫について事前に自宅で考えた内容を発表し合った。
自分の考えを1つずつ付せんに書き込んでから、各グループの中央に置いたHylableDiscussion(以下、ハイラブル)の電源をオンにして、話し合いをスタート。個人の考えをグループ内で報告し合い、新たな気付きを追加したり分類した。その間の対話はハイラブルで録音・分析される。
その後、全体で意見を共有。スーパーマーケットでは低い棚に子供が欲しがりそうなものを置く、入口にお買い得商品を置くなどの置き方の工夫や、地域の名産品を置くなど置くものの工夫など多くの意見が出た。
これらの「予測」を確かめるため、中畝教諭は次の社会の時間までにスーパーマーケットの様子をビデオ撮影する。そこで、この日の宿題を「どんな部分を撮影してきてほしいか」とした。
同校では、個別最適化された学びに役立つ学習データ収集・蓄積・分析のため、対話を収集・分析する卵型のレコーダー「ハイラブル」と、学習支援プラットフォーム「リアテンダント」を10月から利用。ハイラブルは、グループごとに「発話量」「誰とやりとりが多いか」「発話の重なり」ほかを数分程度で可視化でき、レポートも出る。教員は、沈黙しているグループや発言が偏っているグループをサポートでき、任意の発話部分の再生も可能だ。
リアテンダントは、主に家庭学習で活用。教員が作成した課題プリントに家庭からアクセスして書き込むことができ、教員は事前に確認できる。正答率や解答所要時間の把握・分析、個別の記述プロセスの再現もできる。
中畝教諭は、「データ収集のため、児童自身が調べ、考える宿題とし、グループの話し合いの場を意識して設けている。児童は家庭の方と情報をやりとりしながら課題に取り組んでおり、様々な発見があるようで、課題を楽しみにするようになった」と話す。
課題は、自宅のPCやスマートフォンからリアテンダントのサーバにアクセスして書き込む。自宅のPC等を使えない場合は学校のタブレットPCを貸与している。「授業前に児童の考えを確認できるので、可能なかぎり異なる意見を持つ児童でグループを構成することができた」という。発話データについては「事前のワークシートによい考えを書いている児童の当日の発話量を事後に確認している。グループごとの発話量や流れ、関係性などを一目で確認できるので、国語の話し合い単元で、児童自身でデータを見て話し合いをレベルアップしていく活動もできそうだ」と話した。
千代田区教育委員会はGIGAスクール構想で全小中学生に1人1台PCを調達済で、用意でき次第、各校に配備する。中畝教諭は「1人1台環境になると、今日のような授業をもっと効率的に展開できる」と話した。
本事業は益川弘如教授(聖心女子大学現代教養学部教育学科)が学習科学の視点から授業デザインについて、村上正行教授(大阪大学)がデータ収集・解析について、北澤武准教授(東京学芸大学大学院教育学研究科)が評価手法についてアドバイスをしている。
コロナ禍でGIGAスクール構想の配備が急速に進展している。これから1人1台体制になる自治体も多いと思うが、整備が完成する前にこうした検証授業を行うことの意味は大きいと考えている。
本校においても中畝主幹教諭の検証授業を参考にしながら、個別最適化や協働学習の在り方、思考力・判断力・表現力等の育成について、ICT機器をどう活用すれば効果的なのか、研究を続けていきたい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年11月2日号掲載