オンラインのメリットを取り入れたハイブリッドな教育活動が求められている。オンライン可能な活動には、教員研修や職員会議等各種会議など教職員活動に係るもの、授業参観や保護者会、保護者面談、学校説明会、保護者連絡など保護者に係るもの、社会見学や合同授業、外部講師の参画、保健室や院内学級、自宅からの授業参観、家庭学習、生徒会、朝会やグループ討議など授業や学習、子供の活動に係るものなど各種ある。児童1人1台体制がなくても着手できることも多い。今後のオンライン学習やハイブリッド授業の在り方を再検討するための基礎資料や事例が蓄積されつつある。
立教大学経営学部では大学1・2年生計627名を対象にWeb調査を実施。リアルタイムで双方向型・対話形式を取り入れたオンライン授業に、1年生の73・9%が満足しており、2年生の59・4%よりも明らかに高かった。
リアルタイムだが双方向のやり取りができないオンライン授業については、1年生は47・2%が不満を感じており、2年生25・8%よりも明らかに不満度が高い。
動画配信形式で「リアルタイム」なもの、「リアルではない」ものについても調査。いずれの形式についても2年生は5割弱が満足している。それに対して1年生は「双方向のやりとりができないリアルタイム」に対する不満度が明らかに高い。リアルタイムでありながらやりとりができないことに不満に感じているようだ。オンデマンドは好きな時間に視聴できるメリットもある。
大学入学早々で友人関係などが構築できていない1年生にとって、リアルタイムであるか否かより、双方向でやり取りができるか否かが、より重要であるようだ。同学では本調査を受け、授業内で質問しやすさやインタラクティブ性を高める工夫が必要としている。
都内のある私立学校では、日常的に課題提出をiPadで行っており、連絡はすべてGoogleClassroomやClassi等で実施。4月上旬には早々にオンライン授業を、主に双方向形式で開始。課題は次の授業時間までに送信・提出する。周辺の公立学校の登校が始まる中、同校ではオンライン授業が夏休み明けまで続いた。
日常的にICT活用をしている学校はオンライン授業も問題なく実施できるという「好事例の典型」に思えるが、保護者は「進度に遅れはないものの、力が身についているかどうか不安」「双方向ではあったが授業中のやりとりは多くはなく、子供は日々ストレスが蓄積していった」と話した。
小学校でのオンライン学習はどうか。
東京都板橋区の公立小学校に通わせている保護者は「教育委員会提供の動画はほとんど利用しなかった。学校が学年単位で制作した動画や担任が制作した動画は、双方向のやりとりはなかったが、種まきや体操など様々な動画があり、視聴した」、東京都足立区の公立小学校に通わせている保護者も「教育委員会提供の動画はあったがほとんど利用していない」と回答。教育委員会制作の授業動画の成果は各地でバラつきがありそうだが、学校独自の取組には保護者も子供も前向きに視聴していたようだ。
全校児童数44人の小規模特認校である柏市立手賀東小学校(佐和伸明校長・千葉県)では、4月中旬から双方向型オンライン学習を実施。分散登校期間を合わせると約2か月間、オンライン学習を行った。
内容は、オンライン朝の会と一日平均2時間程度のリアルタイム双方向のオンライン授業で、リモート昼食会なども行った。さらに、週1回の「テガニ便」で、プリントや教材を各家庭に宅配。オンラインいちご狩りをした際にはいちごを各家庭に送るなどの工夫を凝らした。
児童はほぼ全員がオンライン学習に満足しており、保護者も高く評価。その一方で、オンライン授業の時間の長さについての認識は、異なった。児童は「ちょうどよい」が64%、「もっと長い方が良い」が24%。対して保護者は45%が「もっと長い方が良い」と回答した。
教員と保護者で、学習効果の印象も異なった。多くの教員が「オンライン授業で学力をつけることができた」と考えているが、保護者は34%が「よくわからない」と回答。「学力がついた」と考えている保護者31%を上回った。
今後、1学期のオンライン学習活動の経験を活かし、不登校児童や場面緘黙児の学習参加のため、通常登校再開後も、Zoomのブレイクアウトルームを活用した対話や、学習動画の充実を準備中だ。食物アレルギー面談を始めとする保護者面談のオンライン化や外部講師のオンライン参加、オンライン教員研修も進めていくという。
佐和校長は「これまで行ったことのない活動を始めるためには、管理職の情報収集と決断、実行力が必要。うまくいかない際に批判されることも覚悟したうえで進めることも求められる」と話した。
これらの事例から、オンライン学習でストレスを蓄積するか否かは「運用」に左右されることがわかる。
前述の私立学校でも、子供が生き生きと「自ら学ぶ」姿が家庭で見られれば、保護者ももっと安心したはずだ。
学習進度の維持以上に求められるのが、子供の「やる気の維持」「安心感」「満足感」であり、その解決方法の1つとして、双方向のやりとりを盛り込むことは重要だ。その上で、対話的な学びや深い学びに自ら向かうための支援も求められる。
オンデマンド教材も、レポート提出やチャット機能などの双方向のやりとりができる機能を追加することで、満足度や効果が高まる。
さらに今後は、オンライン学習時にも有効な評価方法について、新しい提案が必要になりそうだ。ここに、ビッグデータ活用やAI活用など新しいテクノロジーを取り入れることで解決できる可能性がある。
家庭でどのような環境でオンライン学習を行うかについても検証が必要だ。
東洋大学が全国15大学を調査したところ、オンライン学習の効果は使用デバイスにより異なることがわかった。本調査は15大学1426人(2年生48%、3年生41%、4年生10%)が回答し、使用デバイスはスマートフォン16%、タブレットPC10%、PC74%。
「オンライン講義で学習時間が増えた」と回答した学生は、スマートフォン使用の学生では62%であるのに対し、タブレットPC78%、PC80%。PCを使用した学生は予習もしくは復習に他デバイスよりも多く時間を使っている。画面の大きさやキーボードの有無が学習時間に影響を与えていることがわかる。
現状のオンライン学習の場合、多くがオンデマンド配信や双方向性を担保していないリアルタイム授業配信である。しかし今後は、リアルタイム配信の場合もオンデマンド配信の場合も、何等かの双方向のやりとりが行われていく。
そのとき、小さな画面で授業を視聴すると同時にメモをとったり皆で同時に書き込んだり課題に取り組むことは難しい。
青山学院中等部・高等部の安藤昇教諭が高等部情報科や中等部の技術の授業でオンライン学習に取り組んだ際には、動画視聴やレポート作成を一画面で行うと切替が煩雑でPCの動きも悪くなり、生徒が集中しにくいと考え、「動画視聴はスマートフォン」「オンライン実習や学習のまとめはPC」で行う「ダブルウィンドウ」スタイルを推奨した(写真)。音が聞こえにくいことも集中の妨げとなるため、イヤホンも必須とした。
現在の高校生はスマートフォンの名手だ。ある県立高等学校の生徒は、学校配備のPCがあるにも関わらず、自分のスマートフォンでプレゼンテーションなどを素早く制作してしまうという。しかし、GIGAスクール構想による配備により、小中学校でPCやキーボードに慣れた子供が高校生になった時、この状況は大きく変わることが予想される。今の高校生の姿を見て「スマートフォンで十分できる」と判断するわけにはいかない。
3月から6月1日まで休校しており6月26日まで分散登校していた狛江市では、休校期間は授業動画を配信。分散登校期間にはZoomやMicrosoftTeams、Forms、OneNoteなどを検証して双方向のやり取りや課題の提出・意見の共有などを行った。
8月末まで、「東京ベーシックドリル クラウド版」(大日本印刷)の無償提供により、学習履歴の蓄積と共有も実施。
9月から双方向型でオンライン授業もできるようにモデル校及び検討委員会で検証を開始。児童・生徒のアカウント発行等の準備を進め、双方向型オンライン授業を組み合わせたハイブリッド授業を推進する。
狛江市では9月末に小学校はiPad、中学校はWindowsPCの配備を完了している。
大分県教育委員会は、新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン授業が必要になった場合に備え、すべての県立学校など58校にオンライン授業用のWeb 配信スタジオ(通称: Web スタ)を設置する。12月上旬には全校で設置が完了する予定。臨時休校時だけでなく、平常時から学校間の遠隔授業や研修でもWeb スタを活用する。
通常は応接室や小(中)会議室として利用し、オンライン授業などを行う際にはWeb スタとして利用するためハイブリッドルームに部屋を改修する。Web スタには大型モニターやPC、Web カメラ、ホワイトボードなどを設置し、すぐにオンライン授業やWeb 会議が始められる体制を整える。
iPadを生徒1人1台が所有している同校では3月からの休校期間はオンデマンド授業を中心とし、課題を配信してやりとり。朝と帰りはZoomでHRを行った。保護者アンケートによるとZoomのHRの評価は高かった。
通常登校が始まったが、首都圏から通っている一部の生徒にオンライン授業を継続しなければならないこともあり、同校の事務職員が「常設のカメラやディスプレイを設置して災害や悪天候でも教室から配信できる環境にしてはどうか」と提案。対面授業を同時配信できる教室環境を整えることとした。
天井カメラと超広角Webカメラを設置して教員と提示画面、さらに教室の生徒の様子も映せるようにした。これにより在宅で学習している生徒は、教室の様子も提示画面も見ることができる。PC画面は、以前はZoomの画面共有機能で授業をしていたが、容量制限などで使えなくなったり音ずれが生じたことから、AppleTVを使用することとした。雑音の入りにくい置き型マイクも設置。
オンライン授業を受けている生徒は現在数パーセントで、Zoomで顔を見せることで出欠を確認。質問にはチャットで対応しており、課題配信や回収はロイロノートやClassiを活用。
テストは事前に回答用紙のみ送付し、当日画面で問題を提示すると共にZoomで監督している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年11月2日号掲載
コロナ対応で自宅待機児童生徒の学びを保障
奈良市教育委員会は10月30日の市立小学校の新型コロナウイルス感染症感染者発生に伴い、濃厚接触者4名(児童3名・教員1名)のほかその他接触の可能性がある47名(児童44名・教員3名)に対してPCR検査を実施。14日間の待機が必要な児童3名はオンライン授業を行う。
GIGAスクール構想で既に全生徒に1人一台PCの配布を完了している奈良市は、市立小中学校に通う児童生徒が濃厚接触者に該当した場合、健康であっても自宅待機が求められる現状に対し、教室と自宅をライブ中継でつなぐ取組を始めている。
家庭に通信環境がない場合には市からモバイルWiFiを貸与する。陽性者や濃接者だけでなく感染不安から登校を控えている子供にも適応できる。
奈良市教育委員会では「日常的に学校で使い、持ち帰りを行い、学校でも家庭でも利用を継続することで緊急時の対応がスムーズになる」と話している。(11/5追記)