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教育ICT

ICT×インクルーシブ教室で学び合い話し合い 東京学芸大学附属小金井小学校

2020年10月5日
鈴木教諭

鈴木教諭

鈴木秀樹教諭(東京学芸大学附属小金井小学校情報部長)は、パナソニック教育財団特別研究指定校として2019~20年度の2年間、「通常学級におけるインクルーシブ教育を実現するICT活用の研究~学びの多様性を拓く未来の教室づくり~」に取り組んでいる。コロナ禍による休校など想定外の事態の中、予想外の成果も上がっているという。

テーブル型提示で学習者用デジタル教科書

本校の取組「ICTを活用して適切な支援を行うことにより、通常学級でのインクルーシブ教育を実現していくこと」は、文部科学省「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」(2013~14年度)や文部科学省「学習上の支援機器等教材活用評価研究事業」(2018年度)等での実績がベースにある。長引く休校で軌道修正しながら取り組む中、予想以上にうまくいったことがいくつかある。

ICT×インクルーシブ教育」教室で学び合い

1つめが、ICTを活用した個別支援のベースとなる「ICT×インクルーシブ教育」教室だ。

学校の大型提示装置のリプレイスもあり、本教室には、75インチの大型提示装置(電子黒板)55インチのテーブル型タッチパネルディスプレイ(旭ガラス試作品)、フロアプロジェクションシステム「Wize Floor」と3種類の提示環境が25教室分の広いスペースに揃った。

話し合いしやすいテーブル型提示環境

テーブル型ディスプレイに国語の学習者用デジタル教科書を提示したところ、発言が困難な子供も話し合いに参加しやすくなることが分かった。学習者用デジタル教科書の画面を囲み、複数の児童が画面タッチしてラインを引いたり、図を動かしたりしながら話し合うことができた。全員に対して発表するときに感じるような緊張感が生じにくいようだ。

読み上げ機能のハイライト表示も漢字の筆順表示も目の前で大きく提示されるので、見逃しようがなく、気が散りやすい子供も集中しやすい。インクルーシブ教育には欠かせない学習者用デジタル教科書だが、テーブル型に提示することでさらに効果的に活用できると感じた。

身体使った交流で仲間意識を育む

「ICT×インクルーシブ教育」にはフロアプロジェクションシステムや電子黒板、テーブル型電子黒板がある

「ICT×インクルーシブ教育」にはフロアプロジェクションシステムや電子黒板、テーブル型電子黒板がある

フロアプロジェクションシステム(写真)は、身体を使ったコミュニケーション活動がごく自然にできる。昨年度は6年生が、デジタルツイスターのようなゲームアプリを作成して1年生がそれを使って遊ぶ活動を行った。多様性を認め合うことは大前提だが、多様性を意識することなくコミュニケーションできる場を創出でき、関係性の構築に役立った。

AIスピーカーで気持ちを伝える

高学年で「お礼を言いたい人にありがとうの気持ちを伝える」ことをテーマにAIスピーカーを活用。オンラインフォームに入力すると、AIスピーカーがその内容を読み上げる。気恥ずかしくて面と向かって伝えられないことも、この形式であれば格段に伝えやすく、互いへの思いが変わっていく。クラスが笑顔になる時間になった。

ロボットでプレゼン

パワーポイントと連動したプレゼンテーションができるロボット「プレゼンSotaクラウド版」を活用。パワーポイントのノート機能の内容をロボットが読み上げたり、動作したりするので、人前で話すことが苦手な児童もスライドをクリックするだけでプレゼンテーションができる。

発表時、通信環境に不具合が生じてロボットが止まった時には、児童がロボットの代わりに発表する、という逆転現象が起こった。発表冒頭の緊張感をクリアできれば、自ら発表できる、ということが分かった。

オンライン授業

オンライン授業を行うことなど全く考えていなかったが、コロナウイルスの影響による休校で事態は急変。急遽全児童にアカウントを発行してオンラインでの学習支援を4月から開始。様々なことが明らかになった。

3月の休校期間には子供と十分なコミュニケーションがとれなかったことから、教員は予想以上に活発に活用し、子供たち1人ひとりにメッセージを送るなど、気持ちに寄り添う様々な実践が生まれた。長期間にわたり関係が断たれたことにストレスを感じていたのは、子供や保護者だけではない。教員も同様。この方法ならばつながりを確保できる。6月に通常登校が開始したが、通常授業にも活用したいという意見が大半であった。

オンラインのほうが話し合いに参加しやすい児童がいることも分かった。オンライン授業では同時発言は、ほぼ不可能。そのため1人ひとりの発言が明確になりやすく、気が散りにくいようだ。

11台のPC導入も目前に迫っており、11アカウント配備によってその準備ができた。

オンラインセミナー117日に開催

117日、ICT×インクルーシブ教育セミナー「ICTに学びを救われる子はあなたのそばにいる」vol.3を開催。実践経過を報告する。放送大学・中川一史教授や香川大学・坂井聡教授の講演も予定。

特別研究指定校のメリット

特別研究指定校は2年間助成のため、2年計画で予算立てしながら安心して取り組むことができる。今後も感染症の状況次第ではあるが、「困難な子供たちの支援」という本質はぶれずに進めていく。

 

【講評】帝京大学 田村順一教授

本質的なインクルーシブ教育を展開
道具を使って各人の弱みを支援

本質的なインクルーシブ教育に迫る良い実践を行っている。障害の有無ではなく、個性・多様性と捉えて関係を構築する力を育むことがインクルーシブ教育である。その理念から生まれた数々の授業アイデアを見ることができた。

かつての特殊教育時代は、人権意識が出発点にあった。現在のインクルーシブ教育は、多様な個性を認め合うことから始まる。学校生活において成績や体力、発表力など様々な序列関係が生じやすい中、優劣ではなくそれぞれの良さを認め合うきっかけになる活動に重きを置いたICT活用に取り組んでおり、ロボットや大型提示装置、オンラインツールなどのちょっとした道具使いでそれぞれの児童の弱みを助けている。

子供の活動を軸に授業を構成している点も特長だ。

各人の考え方を共有し、その内容を一覧表示したり分類したり焦点化したりといった活動を、児童が当然のように自ら取り組んでいる姿は見事。教員の指導ももちろんあるはずだが、授業の中で具体的な指示はない。

これが可能なのは、教員の寄り添う支援と、ICT機器の活用が子供にとって、のりやはさみのように日常化しているからだろう。

フロアプロジェクションシステムは、画面タッチやキーボード、マウスではなく、身体全体を使って活動ができ、関係作りにおいて大きな可能性を感じる機器である。この活用を元に、大型提示装置の新たな活用の可能性が広がりそうで、期待が持てる。

想定外の休校期間には全校一丸となって、MicrosoftTeams等を活用し、子供の心身の状態を把握、適切な支援を行うという枠組みを構築。対面授業のFace to Faceから、オンラインによるSide by Sideという意識を持った学習となった。

遠距離から通学してくる附属学校の特性もあり、今後は登校渋りの可能性もあるだろうが、オンラインでいつでもつながることができることは大きな意義がある。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年10月5日号掲載

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