長野県の飯田・下伊那地域10市町村52校の小中学校・約70名の教職員が団結。GIGAスクール構想に向けて歩み始めた。8月27日より信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センター(学びセンター)と飯田市教育委員会が協力して、ICT活用中核教員育成研修を開催。現在進行形で懸念される休校時の学びの継続を乗り越えるための準備でもある。
研修はWeb研修と会場研修との融合で開催。講師は、信州大学教育学部学びセンター佐藤和紀助教が務める。50校を超える学校がオンラインで同時に研修を実施する先駆的な試み。
中山間地校が多い飯田下伊那地域では、教員が研修会等に参加する際には長時間学校を空けなくてはならないという実情もあり、遠隔で行うことで、新しい教員研修のモデルを確立する。
配信は、信州大学教育学部附属次世代型学びセンターが実施。飯田市内小中学校、エス・バード、下條村立下條小学校をWeb会議システムで接続し、飯田市内の教員は各学校で、それ以外の地区の教員は2会場で受講する。
中核教員研修は8月2回、10月1回、12月1回の計4回実施予定。中核教員は、各校で校内研修を行う。8月の研修内容は講義とオンラインによるワークショップを次の内容で実施。▼オンライン授業の実施~Gsuiteを用いたワークショップ、家庭に向けたルール作成、校内ファシリテーションの方法 ▼GoogleClassroomを使った配信、学校経営・学校運営
飯田市の代田昭久教育長は研修に先立ち、「今回の研修で行ったすべての内容を各校で実施し、すべての先生がGoogleClassroomを活用できるようになりましょう」と話した。
講師の佐藤氏は、GoogleClassroomを大学の講義で2年前から活用している。
「慣れること、繰り返すことが必要」と述べ、参加した教員は生徒モードで、Googleスプレッドシートを使ったしりとりやGoogleドキュメントを使った意見の書き込みなど、同時書き込みや編集を体験。
「書き込みの反応が遅い場合は、他のアプリケーションでテキストを作成してペーストして」と、アドバイスをしながら進めた。
研修に参加した教員は「新しい学校の景色を思い描くことができた」「共有ファイルの編集などを実際に体験でき、不安が軽くなった」「佐藤先生の『とりあえず使ってみるとできてしまうのがこれからのICT』という言葉に、何とかなりそうな気がしてきた」「教材や授業のやり方、会合のもちかたなど考える幅が広がった」など、体験で不安感が薄れた教員もいる一方、「ICTが苦手な先生への支援が不安」という感想も届いた。
■長野県19市町でPC共同調達約3万台
長野県では学びセンターのICT教育自治体支援事業と連携しながらGIGAスクール構想に向けた共同調達を実施し、19市町村が参加。Chromebook1万9449台、iPad7936台、WindowsPC2223台の整備が決まっている。
県内でトップをきって活用が始まったのは長野県喬木村(後述)。
飯田市は、長野県の共同調達により児童生徒用PC7242台(Chromebook)を10月末までに導入する。
教員用は校務用PCに加えて授業用PC(Windows)を2019年度までに導入済。校内LAN整備も実施中。
下伊那郡では町村ごとにWindowsPC等を独自調達して今年度中に整備予定。9月議会に向けて準備中だ。
長野県喬木村教育委員会は、2学期から学校に導入されるPCを含めた今後のICTの運用について保護者に協力と理解を依頼した。
喬木村では「教育クラウドと全児童生徒・保護者に1人1アカウント整備」「貸し出し用モバイルルータの整備」「児童生徒1人1台の学習用PCの整備」を準備し、PCは家庭への持ち帰りを前提として設定・運用。
PCを全児童生徒が持ち帰り、家庭のインターネットに接続して日常的に学習を行い、充電も家庭で行う。
有事の際には家庭からWEB会議システムを用いてオンライン朝の会や教員からの学習ガイドの提供も想定。破損・故障は基本的には教育委員会が負担。
希望する家庭にモバイルルータを無料で貸し出し。別途インターネット利用料(月額約2300円・10G)の実費が必要だ。なお有事の際には村内無料WiFiを学習用として開放する。
小学校4年生~中学校3年生は新規で整備したChromebook、小学校1~3年生は既存のWindowsPCを貸与。次年度以降、順次更新する。将来的には各家庭で購入した自分専用のPC等を持ち込むBYODの方針を検討している。
持ち帰り用PCにはフィルタリングを設定して有害サイトや指定したサイトのブロック、時間指定でインターネットに接続できない等を想定。保護者に理解を促す説明パンフレットではモバイルルータの貸し出し希望調査も同時に行った。
情報交換会も定期的に実施。
教育委員会主催だが、進行は各校で行う。Googleスプレッドシートを用い、あらかじめ各校が報告内容を記載。当日はさらに具体的に報告し、質問を受けており、様々な情報交換が行われている。
ある小学校では、最初に「自宅にPCを持ち帰り、充電して学校に持ってくる」ことからスタートしたと報告。
小学校はランドセルに入れて持ち帰る。小規模校であるため、教室ではブックエンドを設置してPCを立てかけており、使用するときに持ってくるという運用だ。
中学校ではソフトケースに入れて持ち帰っており、学校では机横のフックに、書道セットのように掛けておくことができる。
ソフトケースは現在、手持ちのみだが、肩掛けストラップを準備する予定だ。
喬木中学校ではChromebookを梱包から取り出すところから初期設定等を生徒が実施した。
教員は、PCの段ボールに貼ってあるバーコードを読み込んでシリアル番号を管理台帳に登録。この仕組みは同校教員の自作だ。
その後、生徒は箱からPCと電源アダプターを取り出し、シール貼り、電源アダプターの接続、WiFi接続、ログイン、ID入力、フィルタリングの設定等を行った。中学校3年生は20分程度で設定を終えたという。当日の設定の様子をWebに公開している(http://takagijh.vill-takagi.info/news/7-28.html)。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載