7月13・14日、「With コロナにおける『英語教育×EdTech』~新しい時代の教育を先進的な実践から学ぶ~」がオンラインで開催され、品川女子学院中等部・高等部の山根雅広教諭と三田国際学園中学校・高等学校の尹龍貴教諭は、コロナ禍でのICTを活用した英語教育について報告した。主催はグローバルパートナーズ。同社では外国人英語教員の紹介やコンサルティング等を提供している。
英語科の山根雅広教諭は高校2年生のクラス担任を務めながら高等部の授業を担当している。オンライン授業実施の経緯とその後の変化について報告した。
本校では数学科と英語科で、3月末の高校1年生の春期講習をオンラインで行った。どの程度のことがオンラインで可能か、トライアルも兼ねた。毎回40~50人程度の参加があり、手応えを感じることができた。
講習終了後の4月2日、新学期のオンライン授業に向けて7名の教員によるプロジェクトチームを発足。2日間でガイドラインを作成した。4月6日に全教職員約120名に周知し、新学期の授業初日である4月16日に備えた。
本校では生徒全員がiPadを個人所有しており、Googleアカウントも全員が持っているため、授業や課外活動ではG Suiteのほか、Slackを始めとする各種ツールを活用。今回のリモート授業についての情報共有もSlackで行った。教室を始めとする校内各所にWiFiが設置され、教員がリモートで授業をする環境は整っている。
リモート期間の授業について「生徒の安全確保」と「学習機会の確保」の2点を教員の目標とした。学習機会の確保にむけて大切なことは「コミュニケーション」と「エンゲージメント」と考え、放課後には1対1やグループでのオンライン面談を実施した。
授業はシラバス(年間授業計画)に沿って、各クラスの時間割通りに実施。しかし通常通りの授業をオンラインでそのまま行うのは、教員にとっても生徒にとっても負担になる。そこで生徒ポータルをSlackで設定。生徒は必ず最初にここにアクセスして、その時間の指示を受けて授業を開始することとした。
朝のHRもSlackで出欠確認。簡単な質問にスタンプで回答させるなど楽しいひとときとなるように工夫をした。
学年や教科で使用したツールは様々で、各担当が様々なツールを活用。ポイントは、必ず記録を残すこと。進捗が気になる生徒には担任がコメントを記入して、フォローできるようにした。
本来1人の教員で行っていた授業をチームティーチングで行うことで、進捗が遅れている生徒に個別対応ができるようにした学年もある。
教員には予習復習の仕組み作りを意識しつつ、オンラインならではの授業の流れを次のように例示した。▼課題を事前に配信→解答を提示→ノートに書かせて授業時にチェックもしくはノートの写真をGoogleドライブにアップ ▼授業ビデオを配信→授業時間内にリフレクションシートの提出またはGoogleスプレッドシートの指定枠に記入 ▼Zoomでオンライン授業→Googleフォームに記入などで生徒の出席確認もしくは成果物の提出。
生徒のノートは、アプリMetaMojiClassRoomで共有。もともと数学科が活用しており、ノート共有に便利であると考えて英語科も活用を始めた。リアルタイムに生徒のノートが共有でき、教員も書き込みができる。Zoomの全画面共有機能で画面を皆と共有し、生徒のノートに書き込みながら解説したり添削したりすることができる。Zoomの通信に問題が起こっても、メタモジクラスルーム上のアプリは共有できる。授業を休んだ際にも学習内容を把握できるなどのメリットもある。
中等部2年生の英語演習は、アウトプットが中心だ。好きな映画をテーマに話す授業ではPadletを活用。紹介したい映画のポスター等をPadletにアップしてチャット機能でそれについて英語で質問や感想などのコメントを書き込んでいき、そのやりとりを通して発表内容のイメージを固めてからZoomのブレイクアウトルームで会話を行った。
復習では、クイズレット(Quizlet)ライブやイングリッシュセントラル(EnglishCentral)を主に活用。クイズレットでは協力しながら問題を解くことができる。イングリッシュセントラルでは動画をいくつか視聴することを復習とした。
高等部2年生では、受験対策として小テスト5分、ポイント解説動画の視聴10分、Zoomでオンライン授業30分、確認テスト5分という流れで実施。自作のスライドに解説を吹き込みGoogleドライブにアップした「ポイント解説動画」は生徒に好評で、通常登校開始後も継続している。ノート共有や提出物管理もGoogleClassroomでチェックした。
オンライン授業による通常登校後の変化がいくつかあった。
従来はプロジェクターで黒板に投影したものに書き込んでいたが、今はMetaMojiClassRoom上に提示して書き込んでいる。これにより板書が見えにくいと感じる生徒は手元のiPadで見ることができ、欠席した場合も過去の板書をアプリ上で確認できる。
協働学習も変わった。お互いの考えをタブレットに書き込み、それを参照しながらグループで話し合うようになった。教員も各自の考えを書き込みから知ることができる。カフート(Kahoot!)やクイズレット、イングリッシュセントラルも継続して使っている。
オンライン授業では「やらせすぎない、与えすぎない」ことが重要。これまでのペースに比べて「少しゆっくり」くらいでちょうどよい。
学校という「場」の共有があるからこそ、オンラインでのつながりもスムーズになり、積極的になれる。オンライン授業からスタートとなった中等部1年生には、オンラインでグループ討議を多く体験する、面談を行う、自己紹介ゲームをするなどを試みた。時間はかかったが、1か月半ほどで信頼関係を構築できたと感じている。
漆紫穂子理事長は「はじめに、何のために何を大切にするのかという目的と価値観を共有した。公平性にこだわりすぎず、環境の整っていない生徒をフォローするようにした。献身的に活動してくれたプロジェクトチームのリーダーシップは素晴らしかった。3年かかる改革が3週間くらいでできたように感じている」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年8月3日号掲載