新型コロナウイルス感染症による突然の休校を機に「GIGAスクール構想」の整備が大幅に前倒しになった。日本HPは6月30日、「GIGAスクール構想で自治体・教育委員会が考察すべきポイント~PC、ネットワーク、クラウド企業が集結!わかりやすくご紹介~」をテーマにウェビナー(Webセミナー)を開催。基調講演には、休校期間に保護者として学校対応を体験した教育ITライターの神谷加代氏を迎え、GIGAスクール構想に向けた整備のポイントについて、日本HPの松本英樹氏、日本マイクロソフトの仲西和彦氏、無線LANアクセスポイントを提供している日本ヒューレット・パッカードの斎藤翔太氏がPC、クラウド事業者、ネットワークとしての専門家の立場から講演した。当日は500人を超える教育関係者が視聴し、講演後の質疑も活発に行われた。
教育現場を8年余り取材している神谷氏は「コロナの休校対応で見えたこれからの学校に求めるICT環境~子供たちと保護者が学校に望んだもの」について話した。2人の子育てを通じた保護者目線の取材が好評で『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由』『マインクラフトで身につく5つの力』などを著作。6月よりインプレス「こどもとIT」編集担当。
2010年にアメリカから帰国し、アメリカと日本の学校の違いに愕然としました。
PC活用が当然だった日常から、紙文化中心の生活になったのです。その驚愕についての発信をきっかけに、学校現場の取材を始め、これまでのべ300校を取材しています。
新型コロナウイルス感染症による3月から始まった休校期間、2人の子供の学校対応は、対照的なものでした。
私立学校に通っている兄はBYODで自分のPCを日常的に活用しており、休校期間もクラウド上での連絡など、学校とのやりとりができます。学校で取り組んでいたオンライン教材による学習も自宅で始まりました。日常的に活用している連絡網サービスにより保護者にもすぐに連絡があり、今後の学校対応やオンライン授業の時間割などを共有できます。
4月の新学期には、Zoomを使った朝礼と終礼が始まりました。
授業は、まずオンラインで課題を与えて子供は各自で取り組み、授業時間中はオンラインで自由に質問できるというものです。
妹が通っていた公立中学校では、連絡事項が学校HPに掲載され、緊急メールで保護者にも連絡がありました。
4月に教科書配布で登校した日もありましたが、休校に入ってから5月連休明けまで、子供と先生との交流が一切ありませんでした。
この間、子供の不安は日に日に増していきました。日頃は明るく振舞っていますが、何かの拍子に不安を口にするのです。親として辛い時期でした。
不安の最も大きな理由は、先生や友達が自分を受け入れてくれるのかどうか、にありました。2か月以上やりとりがないため、帰属意識やアイデンティティが揺らいでいる様子でした。先生何とかしてください、と何度も思ってしまいました。
子供と保護者が学校に最も求めているものは、関係性の維持と安心感です。
休校期間、オンライン朝の会の取組が様々な学校で見られました。大変良い取組であると感じています。友達や先生と交流でき、規則的な生活を維持する目安にもなります。
各校のオンライン学習の取組については、1人1台PC所有の有無や学校種で異なりました。
高等学校では個人のスマートフォン利用が多くみられました。中学校では、3年生に学校共有のPCを貸与し、先生が作成した動画教材を家庭にある端末や学校貸与のPCで視聴する取組もありました。端末を用意できない場合はプリント配布等の手段で対応していました。小学校ではオンライン朝の会や授業支援システム等による課題配信、写真のやりとりなどの取組がありました。
クラウド上で活用できる授業支援ツールを日常的に活用している学校はすぐにオンラインに対応できていましたが、そうではない学校の場合は、管理職の決断により、オンライン学習ができた学校とできなかった学校がありました。
「家庭環境がそろわないからやめておこう」と判断するのか、「8割可能であればやっていこう」と判断するのかの違いです。
児童生徒や保護者とのオンラインによる連絡手段の有無も影響しました。
いつ何をどのようにやるのか。これを紙で連絡している学校もありましたが、オンライン学習の説明を紙で表現するのは難しいことです。
オンライン学習が成功している学校には、様々な面で「自由度の高さ」という共通点がありました。学校PC管理についても、厳しすぎないほうが、対応が早かったようです。
未知の状況に対応するためには、できることから始めるしかありません。それを形にするためには、自由な発想を形にできることが必要です。
また、ICTを日常的に活用している学校であっても、一斉授業でのICT活用が主である学校より、課題解決学習や部活動、生徒会活動など、児童生徒主体でICT活用の経験を積んでいる方が、オンライン学習を上手く取り入れることができる傾向がありました。
オンライン学習で見えてきた課題もあります。
一斉授業中心の学習形態である学校の場合、保護者はオンライン学習に、対面授業に近いものを求める傾向があります。そこで保護者の理解と協力を得るためには、学校として、今後、どのようなオンライン学習を展開するのかの方針を示す必要があります。
オンライン学習の実施では、いくつか明らかになったことがあります。
1つは、1人1IDの重要性です。授業支援システム等のユーザIDではなく、クラウド活用を前提とした学校が発行する正式なID(Microsoftアカウント、Googleアカウント等)です。
このIDを元に、様々な学習サービスと連携し、児童生徒はどの端末であっても学習に参加することができます。学習データの蓄積・分析にもつながります
学校で集まって学習することの意味についての問い直しもありました。皆で集まって学ぶ価値を一層高めること、オンラインとオフラインのハイブリッド授業のメリットや可能性などを多くの人が共有できたのではないでしょうか。
感染症第2波、第3波やその他の起こりえる災害への備えとしても、子供が先生とつながるオンライン手段の確保は大変重要であると感じています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年7月13日号掲載