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教育ICT

【対談】つくば市森田教育長×堀田龍也教授~つくばGIGAスクール構想で1人1台PC配備開始

2020年7月13日

学び方の選択肢をICTで増やす
ハード・ソフト整備後の授業論こそ重要

40年前から教育にPCを活用してきたつくば市。「世界のあしたを拓く人づくり」を目指し、長年にわたりアクティブ・ラーニングの充実と電子黒板やデジタル教科書などのICT活用に取り組んでおり、子供たちの発信力や学ぶ力の育成に成果を挙げている。2016年には「学校情報化先進地域」(日本教育工学協会・学校情報化認定)にも認定された。しかし、全校のICT環境整備については課題があった。そのつくば市が今年度、GIGAスクール構想をきっかけに、1人1台PC環境整備に着手する。教員や教育委員会指導主事としてICT活用にも積極的に取り組んできた森田充教育長と、第10期中央教育審議会委員を務める堀田龍也教授(東北大学大学院)が、つくば市の教育成果のポイントと今後について対談した。

授業づくりにPCを活かす
つくば市の40年間

東北大学大学院 堀田龍也教授

東北大学大学院
堀田龍也教授

■堀田 多くの教育関係者が「つくば市は研究学園都市だから特別」という印象を持っていますが、ICT環境が潤沢といえないながらも積極的かつ効果的に活用して着実に成果を挙げているつくば市の取組から各自治体が学ぶべき点は大変多いと感じています。

■森田 人口24万人中、約2万人が研究従事者という面では特別ですが、「教育日本一」をスローガンに掲げた2011年頃から人口がさらに増え始め、それに伴い児童生徒数も、多いときは年1000人ほど増えています。ICT環境については、整備するそばから子供が増える、と常に不足している状況でした。

■堀田 森田教育長を初めてお見掛けしたのは、30年以上前の社会科実践の学会発表で、当時私は小学校教員でした。調べ学習で、子供たちが興味を持ったものをクリックするとそれに関連した情報が提示されるという実践で、PCを使って子供の意欲や感心、能力に応じた主体性を刺激する授業を展開していた点が印象に残っています。

つくば市教育委員会 森田 充教育長

つくば市教育委員会
森田 充教育長

■森田 当時、PCに静止画を提示できる機能ができたばかりでした。この機能を使って社会科の調べ学習で、子供の知りたい気持ちや思いに応じた教材ができると考えた実践です。

算数では、同じ間違いでも間違う理由はそれぞれ異なり、それを子供たちに気付かせたいと考え、PCを使えばそれができるのではないか、と考えて授業づくりに取り組んでいました。

■堀田 現在の言い方にすると、探究的な学習と個別最適化学習のミックスですね。先生を呼びましょう、友達と話し合いましょう、という画面が出てきていましたよね。PC任せにするのではなく、人が上手く介入できる教材でした。

■森田 出来たときに先生に褒められることは意欲付けにつながります。わからないときはもちろんですが、成功したときにも呼ぶようにするなど人と人との相互作用を考えながら開発していました。

その後、100校プロジェクトが始まり、インターネットが活用できるようになって、さらに幅広く人との関わり合いが可能になり、茨城県のことを調べ、長野県の子供たちに紹介する取組などを展開しました。

■堀田 現在の言い方にすると、遠隔合同授業ですね。回線速度がどのぐらいあればスムーズにつながるのか、という議論が大半であった中、子供の学ぶ意欲を喚起すること、人との関わり合いを広げることや深めることにPCやインターネットを活用しようとしている、という点は今のつくば市の取組につながっています。

■森田 その通りです。PCで何ができるのか、それを上手く生かすために普段の授業でどんな力を鍛えるのか

PCなどの環境はそろわない中うまく活用する、という気持ちを市全体の教員が共有できていると感じています。

■堀田 PCに何ができて人は何をすべきかを80年代から意識している点、早期から対話的な学びによる学力向上に取り組んでいる点が、つくば市の強みです。

その基盤が長期にわたり継続しているのは何故ですか。

■森田 中心になって取り組んでいる人が異動しても頑張り続けるためには仲間が必要です。

一緒にやっている、という感覚を高めるため、教員主体で活動する「IT’SNet(いっつねっと)」を約20年前に立ち上げ、初代事務局長を務めました。教員主体のグループで、授業づくりの観点からPCを活用するための情報を共有しました。年2回の研修には、全県から100人以上が集まります。

■堀田 人材マネジメントですね。成功している自治体の多くは、非公式で情報共有や理念を共有する自由闊達な集団が力を発揮し、教育委員会が教員を信じて支える仕組みがあります。

通常の研究指定校制度は、良い仕組みではあるものの長年の経過により形骸化・ノルマ化している面もあり、せっかくの資産が広がりにくいという課題があります。つくば市では学校を超えた取組を何十年も継続している点でこの問題を解決しています。

■森田 2003年に茨城県教育委員会県南事務所の指導主事になり、各市町の足並みをそろえることの難しさを経験しました。まずは教員がPCに慣れることを目的に、必要な書類をサーバにアップする、掲示板を全県の学校で活用するなど、PC活用が必要な仕組みを考えていきました。

■堀田 仕組みを考える、という点は教員時代と同様ですね。森田教育長が県の指導主事になったことで、つくば市の長年の取組が県内に知れわたるきっかけになったのではないでしょうか。

休校時、さらに求められた
つながりと主体的に学ぶ力

■堀田 コロナ禍でつくば市はどのように対応していましたか。

■森田 2月末頃、休校の可能性があることを学校に伝え、万が一のための準備を依頼するとともに、つくば市総合研究所に特設サイトを設置して児童生徒にWeb上で課題を提供できるようにしました。

休校が決まった際は、つくば教育クラウドのeラーニング「チャレンジングスタディ」やオンラインでできるプログラミング学習に家庭でも取り組むように各家庭に通知しました。卒業式はライブ配信をして対応しました。

■堀田 まずはeラーニングをやっておいて、とお知らせすれば良い状態にあることが素晴らしいですね。3月は学習の遅れに関する問題意識はそれほど深刻ではありませんでしたが、4月には社会全体の意識が大きく変わりました。

■森田 新学期からの学習支援については、教員もとまどっていました。

学びを止めないこと、つながりを保つことの2点を重視し、Office365でクラスアカウント(メールアドレス)を教育委員会で付与し、家庭にそのアドレスを通知し、その活用法を示しました。

これにより児童生徒は自宅のPCや保護者のスマートフォンなどを使ってWebで課題を確認し、クラスのアドレス宛にメールで課題を提出することができ、教員はそれに対して返信もできます。金曜日に課題と次の週の学習計画をWebに掲載するという学習サイクルで進めました。

また、Microsoft Formsを利用して、その日の体温や頑張りたいことを投稿したり、評価ミニテストを行ったりもしました。

■堀田 できない家庭があるから不公平だ、などの意見はつくば市でも出たのでしょうか。

■森田 この仕組みを利用できない家庭についてはポスティングや電話など別な方法を考えることとし、教員も納得し、早々に準備をしていました。

さらに児童生徒数が多い学校には、携帯電話を1~2台、追加配備しました。物品確保が難しい時期でしたが、学務課が頑張りました。

■堀田 全員に毎日電話やポスティングをすることは不可能ですが、1~2割ならば、できる可能性が高まります。すぐに次の行動に移れるのは、学校のレベルや教員のスキルが一定以上に達しているからですね。

■森田 各校から様々な課題がWebに掲載されました。学年の教材は、同じ学年の教員が全校から集まって作成しました。

授業動画は市や県でも作成しましたが、子供にとっては知っている先生の顔が見えることが一番ですから、各校でも作成しました。多くの先生が、指導者用デジタル教科書を活用した普段の授業を動画にしていました。主に冒頭の課題提示の部分です。撮影し直しや編集は極力控え、年配の教員も若手に聞きながら取り組んでいました。動画は、校内パスワードでアクセスできるYouTubeサイトにアップしていきました。

想定外の勢いでデータが蓄積されるため、クラウド活用と高速ネットワーク整備の重要性を改めて実感しました。

その中から、子供の主体性を引き出す課題をいくつか紹介し、教育委員会から全教員に通知しました。

児童生徒同士の顔が見えないという「つながり不足」に対する不安の声が出た際は、Webミーティング(Zoomを利用)も導入して、健康観察や近況報告、学習課題の確認、スタディノートと組み合わせた協働学習を行いました。

現在、休校期間の教育委員会対応について調査中ですが、教員からは「課題の大切さが改めてよくわかった」「主体的に学ぶための課題づくりが勉強になった、子供に力がついた」という声が届いています。

長期にわたる休校期間、多くの保護者から協力を頂きました。それについての感謝を教員から伝えるように依頼しています。

課題が多い、という声も一部、あるようです。

本当に多かったのか、家庭の事情で難しかったのかなどを検証し、学校で工夫すべき点と家庭で担うべき面を明確にし、学校と保護者が一体となる仕組み作りについて試行錯誤しているところです。

■堀田 課題に挑戦したいと思うためには、子供の学びに向かう力が求められると共に、保護者の理解や助言が必要です。学びに向かいたくなるような課題の質も求められます

すべてが背中合わせにあり、互いの理解や信頼が不十分だと、どこかに不満が蓄積します。

課題が多くてやりたくないという浅い学習観や、プリントを配布しておけばよいという浅い教育観であるか否かを見極めるためには、ぶれない授業観が求められます。

教育長からの教員への通知や、保護者への感謝など、学校と教育長の距離の近さが全体の動きをさらに活性化するきっかけになっているのではないでしょうか。

活動しながら方法を見直して追加・修正している点、学校再開後にアンケートをしている点も各自治体で見習ってほしいところです。

学校再開イコールオンラインに取り組まなくてすむ、と考えている設置者も中にはいるようですが、新しい学校づくりにおいて学びの種類を増やすことは極めて重要です。

今年度中に1人1台PC環境
持ち帰り用PCは先行で配備

■堀田 GIGAスクール構想環境は、つくば市の40年にわたる成果を発揮できる好機になりますね。

■森田 つくば市GIGAスクール構想については6月の定例議会に提案し、議会全体も前向きで、決議されました。

市内全児童生徒に1人1台のPCを配備し、校内LANを高速化(ケーブル・スイッチ10G以上対応の規格を想定)し、校外から遠隔学習ができるクラウド型に段階的に移行します。

PCは児童生徒の定着度や進捗がわかるクラウド版スタディノート10とMicrosoft365A3をインストールしたつくば市モデルを配備します。目的に応じてTeamsとZoomを使い分けることができるようになります。

家庭のWiFi環境については、4月中旬の調査によると約3%が対応できないという回答でした。そこで分散登校時や臨時休業時にPCを持ち帰ることができるように、GIGAスクール構想整備の前倒しとして、不足分約3%に相当するPC700台、WiFiルータ500台を先行して配備し、6月22日から貸し出しを開始しています。この時期の物品調達は大変でしたが、地元の業者も頑張り、皆の気持ちが一致した整備でした。必要数がさらに多い場合は難しかったかもしれません。

年度内には児童生徒1人1台整備を目指しており、ネットワーク工事は7月からスタートします。インターネット回線の増速や教育用クラウドサーバ構築、今後の児童生徒数増に対応した端末整備などの準備も進めます。感染症第2波や緊急時に備える目的で、夏休みには担任と児童生徒がWeb会議の接続テストをする計画です。

■堀田 動きが早いですね。GIGAスクール構想で整備が必須であると考えれば、早い決断も可能になります。

■森田 文部科学省の2019年度補正、2020年度補正などの補助金は最大限活用するつもりで、教育関係のSNSも積極的に活用して情報収集に努めました。

経済産業省のEdTech補助金ではプログラミング学習やAR教材などを導入予定で、ハードソフト両面の充実に努めます。

学校と家庭の学びをシームレスにつなぐ

■森田 今後、1人1台環境の実現で挑戦したいのは、学校と家庭をシームレスにつなぐ学びの仕組みです。学校で学習した続きや、発展させた学習が家庭でもでき、家庭学習の成果を見て授業でフィードバックできるように準備中です。ウィズコロナはもちろん、アフターコロナにおいても有用な仕組みとします。

■堀田 クラス40人いれば40通りの学習履歴があります。データを分析する力は今後、教員にとって重要ですが、日々の授業に生かすためには、ポイントを一目で理解できるようなシステムの支援も必要です。

■森田 それについてはAIも組み込み、シンプルな分析結果を一覧できるようにする予定です。デジタル教科書・教材の活用を始めとした学習履歴もすべて暗号化し、不正アクセスがあっても個人名と紐づかないようにアカウントとシステム双方を組み合わせて運用します。

■堀田 良質な教材とハードウェアのプラットフォームがそろった後の授業論、教育論こそが重要です。エアコンを入れるように単なる物品としてPCを入れた自治体は、苦労するでしょう。

7月から、新しく「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」と「教育データの利活用に関する有識者会議」(編集部注・両会議の主査は堀田龍也教授)が始まったばかりです。

様々な教材を行き来して学習履歴を蓄積し、授業づくりに生かすつくば市のノウハウは今後の日本の教育にとって重要な実践になります。

1人1台環境に対する不安はありますか。

■森田 保護者の期待は大きく、うまく利用して子供の成長につなげようという思いは共有できていると感じていますが、使いすぎによる健康被害の問題については常に配慮していく必要があると考えています。

コロナ禍は、授業づくりの基本、学校の在り方を改めて見直す機会になりました。

これまでの土台をベースに、資質能力の育成を常に意識しながらICTを効果的に活用し、次世代の学び作りに取り組みたいと考えています。

■堀田 長年にわたり授業づくり、学びの仕組みづくりに生かすICT活用に取り組んできた森田教育長がこのタイミングでリーダーシップをとることで、つくば市の教育がさらに躍進・発展していくことになると確信しています。

<紙面PDF全文はこちら>

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年7月13日号掲載

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