室蘭工業大学はNTT西日本とともに、現在は大学に依存している個人の学位や学歴などの「真正性(※)」に関し、ブロックチェーン技術で「本人の意思によるデジタル証明書の開示/非開示の選択と自由な発行」の実現に向けた共同研究に取り組んだ。共同研究の締結期間は、2019年11月から2020年3月まで。
共同研究では、個人が場所を問わず、自分の学位や学歴などのデジタル証明書を容易に発行できる環境整備を目指した。
共同研究の結果を踏まえ、夏から、室蘭工業大学においてサービスを開始。今年中に、ほかの大学にも広げていく考えだ。
(※)真正性=正当な権限において作成された記録に対して、虚偽入力、書き換え、消去、及び混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること。
今回の共同研究が行われた背景には、近年のリカレント教育(学び直し)の高まりや、社会における人材の流動化がある。
18歳人口の減少などから今後、大学の統廃合が進むことも想定されている。こうした社会的背景の中、大学が個々で管理してきた紙や印影などによる学位証明の継続性は課題となっている。
「人生100年時代」と言われる中、大学以外の機関で証明書を発行することで、これからの多種多様な就学・就労環境に対応する新しい自己証明基盤の実現を目指していく。
室蘭工業大学はこれまで、ブロックチェーンに関する研究を進め、高度な知見を形成してきた。
一方、NTT西日本は、各種証明書をコンビニで手軽に発行できる「証明書発行サービス」を展開している。
NTT西日本をパートナーとした理由について 室蘭工業大学しくみ解明系領域 岸上順一特任教授は「自分がNTT出身であり、NTTの研究所とは5年にわたるブロックチェーン研究の積み重ねがありました。その具体的な応用として、まず足元の教育の分野で、実際のサービスを実現しようと考えたのが、今回の共同研究です。NTT西日本は証明書発行システムサービスを有していますし、何より、同社の担当者の方が熱心でした」と話した。
今回の共同研究の内容は次のとおりだ。
①多くの人々が学び直しにより様々なキャリアを積み重ねることを可能とするため、EU一般データ保護規則(GDPR)に準拠した、個人の学位や学歴などを明確に証明していく仕組み作り
②紙の証明書の代替として、場所を問わず発行可能な国際標準の学位証明への対応
③大学の運営形態に左右されず、希望者の求めに応じ、単位や学位を客観的に証明可能な仕組み作り
将来はデジタル証明書を、今の紙の履歴書に代わる存在にしたいという。
「今回の共同研究の取組や、私の造語ですが『Learning as a Service』に向けて、リカレント教育を始めとして、教育を受けたい人が大学キャンパスや地域の制限なく、自由に勉強でき、そのことをきちんと証明できるシステムを作ることで、現在の教育システムのICT化とレベルアップを図っていきたい」と話す。
履歴書は学歴証明、職歴証明、資格証明を記述している。いずれも今回の枠組みを活用することで、真正性が保証されている履歴書が簡単に作成できるという。
今回の共同研究は、これからの多種多様な就学・就労環境に対応する新しい自己証明基盤の実現を一歩進めたと言えそうだ。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年6月1日号掲載