オンラインで人と人がつながることは、単なる「メリット」にとどまらない重大な効果がある。オンラインで子供の集いを開いたり室内でできる運動を行ったりなど、「1人でもできるかもしれないがつながっているほうが良い」ことで精神的に楽になることが、社会的に認識され始めている。人とつながること、言葉を交わすこと、思いやること、現状でできることを考えて実行することの重要性を多くの人が共有している点が印象深い。学校のオンライン授業も同様で、つながることによる心のケア―教員にとっても子供にとっても―は何より重視したい点だ。「オンライン授業に取り組んでいる学校の少なさ」から教育格差への懸念が指摘されているが、1つひとつのオンライン授業の取組は素晴らしく、確実に数が増えている。先月号では20事例ほど紹介している。整備内容や環境はそれぞれである中、多くの事例から共通点や違いが見えてくる。今回掲載している大商学園高等学校と熊本県高森町の共通点は「教員も自宅からオンライン授業をしている」点である。教育委員会や学校が教員を信じて任せることが重要だ。
●3週間でオンライン授業を準備<大阪府豊中市 大商学園高等学校>
●オンライン授業は1日3時間 1単位ごとに休憩<熊本県高森町>
●分散登校のサポートも視野にオンライン朝の会<東京都小平市立小平第三小学校>
大商学園高等学校(大阪府豊中市)は生徒数約1200人・教員数約100人・平均偏差値40前半の高等学校だ。先進的なICT活用を目指すのではなく、先行事例を見て真似ることから始め、無理なく活用を進める方針で取り組んで6年目。連休明けの5月11日以降に従来の時間割・カリキュラムをベースにZoomを使ったオンライン授業を実施するため、準備を始めた。準備期間は3週間。同校ICT戦略室の中村天良室長は「ICTの先進校ではない中の取組が他校の参考になれば」と話す。同校の段階を踏んだ取組は、これからオンライン授業を始めようとしている学校や、取り組み始めたが見直しを図ろうと考えている学校に参考になりそうだ。
同校には4コースあり、そのうち特進コースと情報コースの生徒はiPadを保護者負担で入学時に購入して活用している。
新型コロナウイルス感染症に伴う休校措置に対応し、4月の始業式以降、iPadを持つコースでZoomを使った50分間の進学講習を実施。それ以外のクラスはYouTubeによる授業動画の配信を行った。
これを4月末まで3週間継続。
休校措置の継続に伴い、学校長判断もあり、連休明けの5月11日以降は従来の時間割・カリキュラムをベースにしたオンライン授業を始めた。同校では4月のオンライン授業・動画配信から始まるこれらの取組を「大商学園マナトメオンライン」と呼んでいる。
全校生徒対象のオンライン授業の準備期間はほぼ3週間であった。iPadを所持していない生徒にも大きな負担を与えないこと、多くの教員がオンラインで授業ができること、教員の出勤率の低下を図り感染の危険を抑えることを目指し、以下を決めた。▼教員が疲弊しないように複数教員で取り組むためにクラスをいくつか合併 ▼分散登校時に対応できるよう水曜・土曜を空き日とし、この日の時間割を他の日程に振り分け。2週間で時間割1回分を実施。▼教員は、在宅でも授業を可能にする
Web会議システムは、安定度・鮮明度・セキュリティに加え必要な通信量を考慮して引き続きZoomを採用。4月末までは無料提供のアカウントで使用していたが、5月からは全学年全クラスの活用を想定して有料ライセンスを契約。
簡単にWeb公開でき、公開後も変更がしやすいことから、Googleスプレッドシートを使って時間割を作成。時間割作成には3日間を要した。
まずは全教員がZoomに慣れるため、Zoomを使って学年会議を実施。初回はICT戦略室のメンバー5人がサポートしたが、2回目以降はサポートなしでWeb会議による学年会議を開催することができた。
研修は5班に分かれ、同内容の研修を3日間ずつ、計6日間実施。Zoomでどのように授業するか、実際の授業期間、どのように授業を始めるか。どうやって授業を交代し、どうやって授業を終わるか等、具体的な流れを研修した。
分散登校が始まれば機器を予め固定設置しておくことができないため、自分でセッティングする必要があり、多くの教員の不安要素になっていた。しかし、研修後も自主的に練習をしており、その結果、ちょっとしたトラブルにも各教員である程度対応できるレベルになった。
オンライン授業を実施する上で、家庭の協力は必要不可欠だ。
学校は今から何をしようとしていて、何が必要なのか。通信費などについて伝える資料を作成。休校が延長する前提で、変更する可能性も伝えつつ、決定前に配信。連絡が早いほど、家庭は安心でき準備もできる。
iPadを配布していないクラスは「オンライン授業の始め方」をテーマにオンラインホームルームを実施。生徒はスプレッドシートで作成したWEB時間割からZoomへ入る。担任は出欠確認、名前の変更方法、授業の受け方や姿勢についてのオリエンテーションを実施。各クラス平均して1~3名が欠席したため、電話で状況を確認。参加方法が分からなかった生徒や連絡を見ていなかった生徒などをフォロー。最終的に環境が整わなかった生徒は約1200人中2人であった。
環境が整わなかった生徒は、登校方法を保護者と相談し、安全に登校できることを前提に登校を許可。学校の設備を利用して授業に参加した。お互いの距離は十分に取り、窓を開け、学校の端末を使ってZoom経由で授業に参加。その際は同じ端末を利用させ、端末経由の感染の可能性に配慮。監督する教員も十分に距離を取り、安全に配慮した。
初日は多くの問合せの電話があったが、多くは事前に送ったはずの時間割が見られないというもの。生徒が保護者アカウントを使って情報を確認していたため時間割を確認できていなかった。この時点で全て解決するつもりで対応。2日目はほとんど問い合わせもなく、順調に進行した。1日目終了後、教員同士でZoom座談会を実施。30人ほど集まったが、手応えを感じる声が多かった。
問合せはほぼなかった。1件のみ、パスワードもIDも合ってるのに生徒が会議に入れない問題が発生。休み時間に強制終了したというので、別ミーティングに入って正しい手順で退室させてから、本来のミーティングに入ると問題なく入ることができた。
2日目終了後と3週間後にオンライン授業についてのアンケートを全校生徒に実施。その推移を参考に再度オンライン授業を実施する際の準備を進める。
全教室にWiFiを整備。電子黒板整備率は約半数。今夏に100%導入予定。AppleSchoolManagerとMDM「MobiCennect」で管理。平常授業ではロイロノートスクールを活用。
家庭学習ではサイバーキャンパスを活用し、教員は生徒に授業用教材や宿題の配布、動画をアップロード。保護者には連絡プリント等を配信。
徐々に利用するICT機器やソフトが増えており、デジタル採点システムやFeelnote、G Suite for Educationの活用も始まった。膨大なアプリはMDMを使ってホワイトリスト形式で管理している。
保護者・生徒それぞれにアカウントがあり、お知らせやPDF資料を配信できる。配信情報は既読や未読を一覧で確認できる。他に教員・生徒間でのメッセージ機能、クラスや部活などのコミュニティ機能など。保護者からの欠席連絡も可能。インターネット環境さえあれば利用できる。
ワークシート等をリアルタイムで提出するほか、オフラインで家や授業外でも利用。
時間割の作成に利用。作成したページをWEBページとして公開し、サイバーキャンパスで生徒や教員に配信している。
アンケートやオンライン授業内でのテストに利用。瞬時に結果が分かるため、意見収集や理解度把握にも役立てている。
全国的にもICT活用の先進地として有名な熊本県高森町は、子供たちがタブレット端末を家庭に持ち帰り、家庭学習に活かすようになって、既に4年目を迎えている。
その継続的な取組が今回のコロナウイルス対策として有効な手立てとなっている。
コロナウイルス対策による臨時休校を実施したのは2020年2月の後半からである。
高森町の町長や教育長の決断は早かった。
家庭からWeb会議が活用できるかを即座に調査。家庭のネット環境が充実するように、光回線の敷設やWifiルータの提供などを支援。すべての家庭でWeb会議が利用できるようになり、継続的なオンライン授業を実現している。
高森町のオンライン授業の特徴を整理した。
他地域と大きく違うのは、子供が家庭で学習するだけでなく、教員も自宅からテレワークで授業を進めている点である。教員の働き方改革としては画期的な取組だ。
職員朝礼では、職員室と家庭をWeb会議でつなぎ、出勤していない教員もテレワークで打ち合わせに参加する。また、教員は自宅から子供たちへの健康観察を行うことができる。
高森町のオンライン授業では、教室に常設したICT機器や従来の教具をフルに使って、普段の授業と同様に展開している。Webカメラや大型テレビ、デジタル教科書を活用して、家庭にいる子供たちにわかりやすく説明する。また、板書の内容を実物投影機で拡大して説明し、子供たちからの質問に回答するなど、双方向のオンライン授業を実現している。そこで、どの方法でも授業を実施できるように、全教室の環境を統一し、授業者の目的や意図に応じた遠隔機器の活用が図られている。
家庭からのオンライン授業の時間割を明確に提示した。休校期間中の生活リズムの確保および生徒の健康面を考慮して、教員が生徒の状況を把握しやすくするように各クラス3時間のオンライン授業を実施した。例えば、2つの学級が交互に入れ替えて授業を実施し、休校期間中の生活リズムの安定を図ることができている。また、1単位時間おきに休憩が入ることで画面を見る時間を調整し、体調不良や視力の低下等にも配慮した時間割となっている。
高森町では、定期異動で教員の入れ替わりがある中、教員のICT活用指導力が年々向上しており、教育の質の維持向上が図られている。さらに、児童生徒の学力向上の証し(エビデンス)もしっかり示しており、小規模校を抱える自治体の先進地モデルとして参考になる地域である。
大規模校かつ公立学校単独での取組事例はまだ控えめな中、東京都小平市立小平第三小学校では5月の連休明けからオンライン朝の会をテスト的に開始。5月後半から全学年全クラスでオンライン朝の会を開始した。6月の学校再開後は、分散登校をオンライン授業でサポートできるように準備を進めている。
学校規模や自治体規模が大きいほど、教育委員会の許可を得るのは難しい。児童全員が参加できないという理由で許可されない例はまだ多く、教育委員会の中であっても考え方は様々だ。しかし授業動画の一斉配信を個別に視聴するという形式は周知されつつある。
そこで東京学芸大学は教員と児童生徒を結ぶための動画サイトを4月中旬に立ち上げ、教員がビデオでメッセージを伝えることができるようにした。小平市内の谷川航教諭と伊勢麻美教諭が中心となって動画配信を続ける中、他の教員も興味を示し始め、小平第三小学校では木田明男校長の判断で学校全体での取組を開始。さらに情報部会の教員が中心となってオンライン朝の会の準備を進め、接続テストや試行を行い、5月末から全学年全クラスで実施。家庭で視聴できる環境がない児童についてはPC室も開放して任意参加でスタートした。現在はオンライン学習のためのインフラ準備も始めている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年6月1日号掲載