長野県教育委員会では県による共同調達で統合型校務支援システムの導入を進めており、2020年度から県内小中学校157校で活用を開始した。県による共同調達を迅速に進めることができたポイントについて、学びの改革支援課の一色保典指導主事、同・降旗昌伸氏、長野県市町村自治振興組合の坪井康徳主査(情報化共同運用・管理担当)、大町市教育委員会学校教育課に聞いた。
長野県では2017年5月、総合教育懇談会で、統合型校務支援システムの共同調達を県の方針として決定。11月には「学校における働き方改革推進のための基本方針」も策定し、システムの仕様を検討して2019年1月に仮稼働。同年4月からモデル地区で本稼働を開始し、2020年度から県内の小中学校157校で活用を開始している。
長野県内全校一斉スタートを必須とせず、クラウド活用を想定したサービス利用を可能にした点が長野県の特徴だ。
共同調達の契約を具体的に進めたのが、長野県市町村自治振興組合(以下、自治振興組合)だ。小規模自治体が多いため、自治振興組合が事務局となり、システムの共同化などに取り組んでおり、仕様書等の作成には慣れている。教育関連では、電子黒板の調達で教育委員会との連携についても既に実績がある。
2017年5月に方針を決めて12月までに大枠を検討し2018年3月に仕様書を作成、6月に入札するという迅速なスケジュールで進めることができたのは、仕様書作成に関するノウハウがあった点と信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センターからの協力支援体制が確立していた点が大きい。
信州大学教育学部付属小中学校の教員も大半は公立の各市町村の学校から異動してくることから、同じシステムの方が良いと考えた。
もう1つのポイントが「長野県内全校一斉スタート」を必須としなかった点だ。
統合型校務支援システムを導入するタイミングは各自治体が決める。既存の校務支援システムの契約が残っていれば、それを終えたタイミングで利用を開始できる。
これが可能になったのは、これまでの校務支援システムの利用方法とは異なる「月額制のサービス利用」としたからだ。
自治振興組合では、月額利用料金による定額サービス等の仕組みの共同調達の経験があり、その利便性も実証済だ。そこで、統合型校務支援システムでも同様の仕組みを採用することとした。
総合評価方式とした調達仕様書のたたき台を作成して県教育委員会のシステム担当や情報政策課、学校教員と共にワーキンググループで検討。小規模自治体でも無理なく予算化できるように最小限の機能とし、長野県として推奨する仕組みを決め、仕様書を作成した。中規模以上の自治体は独自にオプションで別途必要な機能を調達することも可能とした。
2020年3月からの休校措置では、オプションの1つである学校CMS(EDUCOMスクールWebアシスト)を利用した取組も進んでいる。
例えば、システムのアンケート機能を利用し、子供の健康観察カードを毎日記録することが可能になった。保護者はスマートフォンや携帯でWeb上のアンケートに回答するだけで、学校側は効率的・かつ安全に子供の健康状態を把握・管理することができる。これにより、登校前にせきや発熱の症状がある子供を把握して事前に対応ができるため、学校での感染予防にも期待できるという。
クラウドによるサービス利用型とし、月額1校あたりの導入費用を初期費用込みで公告。当初の導入校の数が不明でありながら、すべての学校が導入することを想定した調達のため、事業者にとって設計は簡単ではなかったものの、プロポーザル提案で事業者を決定。
審査は、県の指導主事、市の情報政策課、有識者、校長会、学校事務の各担当者が行った。
「市町村単独の調達では、これだけのメンバーを集めることは難しかった。県統一の基盤を作るという目的で集まった」という。県による共同調達ならではのメリットだ。
選定のポイントを働き方改革支援とし、日々活用しやすい簡素な機能や77市町村全エリアのサポート体制、研修等の支援の手厚さ、長野県下でのデータセンターやPC室等の構築実績、長野県の学校現場の知識経験等に着目して選定。
その結果、松本市内に本社があるキッセイコムテック株式会社を事業者として決定し、システムは、県単位での共同利用実績が豊富な「EDUCOMマネージャーC4th(株式会社EDUCOM)」となった。データセンターの構築管理はキッセイコムテックが担当。この2社で長野県全域をフォローできる体制が選定の一番の理由となったという。
2019年度からモデル地区として統合型校務支援システムを導入したのが、大町市、喬木村、信州大学だ。モデル地区ではないが小諸市も2019年度から参加。
事業者決定後は、自治振興組合と県教育委員会の指導主事が中心となり、1市1村1大学と共に、出席簿を始めとする帳票の統一や、働き方改革に資する運用ルールの策定を目指し、県統一のシステムを構築する考えで可能な限りシステムに合わせる方針で検討した。
これまでの手書きによる方法をそのまま電子化すると、かえって作業効率の悪い仕組みになるケースもある。電子化するにあたり、紙での運用ルールを変更したほうが効率的な部分を確認。県教育委員会が中心となって進め、1市1村1大学という規模もあり、合意形成が迅速に進み、長野県版統合型校務支援システムの構築を実現。スムーズにスタートすることができた。
公簿となる指導要録については、紙で管理している現状のルールから、システム内で電子データで保存・管理できるように運用ルールを策定。
出退勤管理については、市町村によって運用が異なるが、長野県版統合型校務支援システムに出勤・退勤時刻などの登録をすることで、県統一の帳票が簡単に出力できるようになった。これにより、今まで個人の集計を元に学校ごとの集計をしていた作業が大幅に軽減できると期待されている。
細かい仕様を検討したワーキンググループでは、Web会議システムを利用することで、迅速な検討と意思決定が可能になった。
Web会議では各校から複数名の参加が可能となり、意見を吸い上げやすく、情報共有も進みやすかったという。
今後は、研修などでWeb会議をさらに活用していきたいと考えている。現在、長野県の3分の1が同じ仕組みを活用していることから、次年度以降は教育センターの研修にも統合型校務支援システムの活用について盛り込んでいきたい考えだ。
長野県では、統合型校務支援システムの1年目の導入効果について、モデル地区である大町市、喬木村、信州大学教育学部付属小中学校全16校に対し、Webアンケートにより、定量的な効果測定を実施した。
アンケート調査によると、教員1人当たり年間平均57・9時間、1日に換算すると平均約13・3分以上、校務にかける業務時間の削減効果があった。また、91・5%の教員が「効果があった」と回答。時間以上に心にゆとりが生まれたと実感する教員が増えている。
導入効果があったとされる主な要因については、グループウェア機能を活用し、朝の連絡事項や職員会議時間、それらを準備する時間等、教職員間の情報共有の効率化が実現できた。その他にも、成績処理・出欠管理機能においては、集計作業や一覧表作成時の転記作業がなくなったことで、教職員の業務負担軽減につながっていることがわかった。
校務が効率化されたことにより、教職員の負担軽減のほか以下の効果が挙げられた。▼児童生徒とふれあう時間が増えた(12%)、▼授業準備の時間や児童生徒の作品・ノートを見る時間が増えた(40%)、▼地域や教職員間のコミュニケーションが増えた(45%)
統合型校務支援システムの導入が「教育の質の向上」につながっていることが効果測定のアンケート結果から見えてきた。
校務支援システム導入1年目で活用がまだ定着していない中、働き方改革の一手とした効果だけではなく、教育の質の向上にもつながっていることで、今後、ますます効果が期待できると確信している。3年後には教員1人当たり年間平均100時間以上の削減を目指したい考えだ。
モデル地区の1つとして統合型校務支援システムの活用を進めたのが大町市教育委員会だ。
担当は「共同調達により、市として仕様書を作成する必要がなく、申込書を出すだけで導入できた。県が提供するシステムであるという点、月額サービスであるという点で、行政への説明も簡単にすむ」と話す。
市では「働き方改革を進める」方針で統合型校務支援システムの導入を開始。システムの活用にあわせて、これまでの運用方針や運用ルールを見直した。
まず、当日の行事や日程、出張者などの情報を教職員間で共有していた日報を廃止。全教職員で同じ仕組みを活用することで業務の効率化が図れることから、それまで個別で作成していたソフトウェアの利用も止めた。出退勤システムも統合型校務支援システム上で運用している。
「これまで、何時間働いているのか考えたことがない教員が多かった。自分の時間を大事にすることは子供の時間を大事にすることである、という考えで進めた」と話す。会議も事務処理時間も短縮し、なぜこれまで学校になかったのか、というほど活用が浸透した。
他の市町村の教員との連絡もスムーズになり、セキュリティについても安心できることから、周囲の町村からの視察も増え、導入が広がっていると話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年6月1日号掲載