「人工知能(AI)と授業」を研究テーマの1つとする慶應義塾大学理工学部の山口高平教授は昨年、教育現場に特化したAIロボット構築ツール「CLAIR」(クレール∥CLassroom AI Robots development tool、クレール)を開発した。
これは、教員1人でも、自身と複数ロボット、さらに情報機器まで連動させて授業が行えるツールだ。
2016年12月、このクレールを利用した、「人の体の仕組み」を学習単元とする理科の授業を慶應義塾幼稚舎6年生のクラスで実施。授業では、人型ロボットPepper(ペッパー)と、顔色や表情が変えられる英国製の人型ロボットSociBot(ソシボット)の2種類を利用。ペッパーは教員との掛け合いで授業を進め、ソシボットは子供たちの間を巡回しながら、復習問題を出す。私語をしている子供にソシボットが近づき、目を吊り上げて険しい顔つきをして、注意を促すこともあった。
2018年1月、東京都杉並区立浜田山小学校にでは、振り子の周期を測定する理科実験の授業で、人型ロボットNAO(ナオ)を活用。ナオとロボットアーム、センサーの3者が連携して振り子を振らせ、周期を自動測定した。複数回測定しても測定値は同じで、児童はその精度の高さに驚いていた。
ロボットを活用した授業について「ロボットの表情が変わるのでやる気が出た」など、授業が面白くなったという意見が多かったという。
実験の授業では「ロボットの正確な動作や知識量に人はかなわないけれど、ナオには感情がないし、ひらめきや発想力もないことが分かった」といった声も聞かれた。
山口教授は「ロボットとの連携は、新しい授業形態になる可能性がある」と話す。
クレールは、専門知識がない人でも簡単にAIアプリケーションが開発できるツール「PRINTEPS(∥PRactical INTElligent aPplicationS、プリンテプス)をもとに開発されている。
プリンテプスは、知識推論、音声対話、人と物体の画像センシング、動作という4種類の要素知能を統合した総合知能アプリケーション開発プラットフォームだ。
プリンテプスを使えば、「教員」「児童・生徒」「ロボット」の振る舞いをテキストで入力するだけで、プログラミングを組むのは不要なため、アプリ開発の専門知識がない教員でも容易に使うことができる。
山口教授は、「人間とAIの協働を実現させるには、現場で働く人、つまりエンドユーザーが、AIを使いこなすことが必要です。プリンテプスは、設計段階からエンドユーザーが参加して、知能アプリケーションを簡単に開発できることを目指しました」と話す。
児童数名のグループ討論にロボットを参加させ、グループ討論を活性化させる研究も進めている。
2018年12月、地球温暖化に関するグループ討論に、コミュニケーションロボットSota(ソータ)を参加させた。
児童がソータに質問してソータが答えたり、発言が少ない児童にソータが発言を促すこともあった。
「ソータが媒介となってクラス全体が活性化する教育効果が生まれていました」と話す。
現在は、クレールの全国普及に向けて、小中学校教員などを対象にしたセミナーなどを実施している。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年5月11日号掲載