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教育ICT

統合型校務支援システムもクラウド上で活用 学校外からも安全に校務ができる環境へ

2020年5月12日

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、休校が継続しており、教員の在宅勤務も拡大している。在宅勤務の在り方について各自治体の方針は様々で、テレワークで校務ができる仕組みを採用している自治体はまだ少ないようだ。情報セキュリティを担保しながら、教員の働き方改革や予想外の休校措置にも対応できる新たな仕組みが求められている。教員の働き方改革を視野に2018年に開始した「統合型校務支援システム実証事業」は2年間の事業を終え、3月に成果報告会が行われた。414日、実証事業の委員を務め、文部科学省情報セキュリティ対策推進チーム副主査や総務省地域情報化アドバイザーとして全国の自治体に助言をしている髙橋邦夫氏(合同会社KUコンサルティング・代表)と、統合型校務支援システム導入実証研究事業で高知県と奈良県の仕組み作りに関わったシステムディの江本成秀氏(公教育ソリューション事業部長・取締役) 、業務効率を確保してセキュリティを図る仕組みを提供しているアシストの髙木季一氏(アクセスインフラ技術統括部長)が討議した。

統合型校務支援システム実証事業
2
年間で予想以上の成果

--統合型校務支援システム実証事業ではどのような成果がありましたか。

文部科学省情報セキュリティ
対策推進チーム副主査 総務省地域情報化アドバイザー
髙橋邦夫 氏

■髙橋 県単位で校務支援システムを導入・活用する実証事業がスタートした2018年当時の目標は、システム活用による業務の効率化や教員の働き方改革でした。システムを活用することで業務がどれほど効率化するのかエビデンスを示し、小規模自治体でも無理なく導入するためにどのように共同調達・運用していけば良いのかについて検証しました。

2年間の事業でしたが、事業主体である岐阜県教育委員会、奈良県教育委員会、高知県教育委員会、長崎県教育委員会により、校務支援システムの有効性が明らかになり、期待以上の成果が出たと感じています。

特に顕著だったのが、データ化することで情報を共有することのメリットです。

情報共有の仕組みは、子供を複数の目で見ることにつながり、教員1人では気付かないことを発見できることがあるのだ、という実感を多くの教員が持った様子が印象的でした。

システムディ
公教育ソリューション事業部長・取締役
江本成秀 氏

■江本 弊社では高知県教育委員会と奈良県教育委員会のシステム構築をお手伝いしました。それまでは学校独自で校務支援システムを運用していた自治体ですが、統合型校務支援システムを導入することで、情報やノウハウを共有しやすくなり、予想以上に前向きに活用して頂いています。「今までなぜ、この仕組みでできていなかったのか」と不思議に思うほど積極的でした。

小規模自治体は、県主導だったから導入できた、と感謝していましたし、県は、国の支援があったから着手できた、と喜んでいました。まだ県内全校導入には至っていませんが、活用した学校は、大きな手応えを感じています。

県内で情報を共有するための最も大きな障壁は、個人情報保護条例が各設置者によって異なることでした。自治体の首長部局と調整する必要があり、この調整作業が最も大変でした。

■髙橋 個人情報保護の問題については今まさに、解決に向けて検討中です。都道府県と市区町村、さらには広域連合などにそれぞれ「個人情報保護条例」があることから「個人情報保護法制2000個問題」と呼ばれています。災害に備えて平時から個人情報を官民で共有しようとしても個人情報の利活用について自治体ごとに解釈が異なることで、何等かの条例が障害になりすべての自治体のデータがそろわないのです。

今回の実証地域ではこの問題をそれぞれの工夫で乗り越えていましたが、全国に広げるためには、工夫しなくても導入できる仕組みが必要であると考えています。

地方自治を尊重しつつ、自治体の条例をまとめた個人情報保護法の考え方が、今夏までにまとめられる予定です。そうなれば、「個人情報保護のためデータは出せない」という段階から脱し、県で統一した仕組みを導入することのメリットを、より享受しやすくなるはずです。

■江本 奈良県の個人情報保護条例を調査したところ、わずかな表現の違いがある程度でした。奈良市が先陣を切った方針をまとめたことで、他自治体も賛同し、データの横展開が可能になりました。県が方針を出すためには国の方針が必要ですので、今回の実証実験はよい機会になりました。

■髙橋 隣の自治体の動向が気になるのが自治体の特徴ですので、人口規模の大きい自治体がリーダーシップをとるという方法は確かにあります。

在宅でもできる校務環境

--新型コロナウイルス感染症拡大による休校措置と共に教員の在宅勤務が拡大していますが、テレワークを推進している自治体はまだ少ないようです。校務もテレワークが可能になれば、休校期間に限らず通常の授業でも情報共有や連絡が円滑になるのではないでしょうか。そのためにはどのような仕組みが必要ですか。

アシスト
アクセスインフラ技術 統括部長
髙木季一 氏

■髙木 緊急事態宣言を受け、多くの企業がテレワークを実施しており、家庭のインターネット回線からVPN(閉域網)で社内ネットワークに接続して仕事を行っています。弊社でも従来から希望者はテレワークを行っていましたが、国の要請による「8割在宅」のため対象を全社としたところ、VPNライセンスの数が足りず、追加で用意する必要がありました。社内ネットワークにインターネットVPN接続し、Web会議のクラウドサービスを利用するために再度インターネットに出るということをした場合、会社のインターネット回線が逼迫してWeb会議が中断したり、音声が聞き取りづらくなる現象も発生しました。

これらの問題を解決し、セキュリティも担保できる仕組みを学校で構築して初めて、学校の校務システムもテレワークで利用できるようになるのではないでしょうか。

■江本 多くの教育委員会は、校務支援システムを「学校でのみ接続できする仕組み」として構築していますが、技術的には学校外からのアクセスは可能です。弊社の仕組みはクラウド上にあり、Webベースで運用していますので、全国どこからでも、WindowsOSやChromeOS、スマートフォンからも接続が可能です。

自宅でも校務ができる仕組みを比較的早期に構築したのが、神奈川県南足柄市教育委員会です。自己申告して許可を得るというポリシーで自宅から校務支援システムにアクセスしており、コロナによる影響が出るかなり以前から在宅勤務を実現されています。

「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」改訂版で「クラウド・バイ・デフォルト」が明記されましたので、今後は同様の動きが始まる可能性を感じているところです。

■髙橋 本ガイドラインでは初版から、リスク回避のためのインターネットからの分離は求めていますが、校務をテレワークできない仕組みを推奨しているわけではありません。

VPN(閉域網)の仕組みで校務情報を管理する場合、セキュリティは通信事業者が確保するので安心できるのですが、8割以上の教員がリモートで校務を行おうとすると、この仕組みでは教員数が多い自治体ほどコストがかかりますから、ベストの方法であると考えてはいません。今回の改訂版では、どんな場所からも安全にアクセスできる環境の構築が重要である、と示しています。

■髙木 VPN接続を行う場合、端末の情報を保護するためには端末側のセキュリティ対策を強化する必要があり、VDI(仮想デスクトップ環境)を導入して、すべての校務を仮想デスクトップ経由で行えば、各端末からのデータ漏えいリスクはなくなりますが、サーバ、ネットワーク、仮想化ライセンス、シンクライアント端末のコストを考えると導入できる自治体は限られます。

そこで弊社では、安全性、利便性、コストの最適化が図れるRDS方式による画面転送の仕組みをご提案しています。漏えいすると問題が大きい情報のみ、画面転送経由にすれば、ネットワークと端末には重要なデータが残らないので、情報漏えいリスクを大きく低減できます。授業のための資料作成など、機微情報を扱わない業務は端末上で直接扱えるようにしておけば、職員の方の利便性低下は最小限に抑えられます。

弊社の提供しているEricom Connectを利用した場合、専用クライアントに加えて、ブラウザを画面転送用のクライアントとして利用することもできるため、個人所有の端末を使うことも技術的に可能です。

■髙橋 校務側を仮想化してVDI上で使うことでインターネットと分離する、という仕組みの方がコスト的なメリットが大きいと考えています。

■髙木 千葉県教育委員会では県立学校の校務について、当初はセンターのファイルサーバにVPN接続して端末から直接校務データを扱っていましたが、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に沿って画面転送方式に切り替えています。統合校務支援システムはブラウザから利用できるものと、Windowsの専用クライアントから利用するものがありますが、どちらの仕組みでも技術的にRDS上で利用できるはずです。校務システムベンダー側にRDSの対応を確認すると、実績も含めて教えてくれるでしょう。

■江本 千葉県教育委員会の校務支援システムは弊社が提供していますが、情報漏えいのリスク排除には万全を期しているという印象があります。リモートワークは行っていないようです。

■髙木 千葉県教育委員会はEricom Connectの画面転送で校務支援システムを利用していますから、技術的には画面転送通信をインターネット経由で行えるように門番付きのゲートウェイ(玄関口)をつけることで、リモートワークは可能です。

■髙橋 教員が学校にいない時に対応すべき問題が起こる可能性に備え、「学校に行かなければできないこと」をなるべく少なくする必要があります。どんな環境でも安全に校務ができる、そのためのリテラシーもある、という方向に進んでいくことが予想されます。

クラウド化が進めば、特別なソフトウェアのインストールを必要としないブラウザベースの仕組みのニーズが高くなります。様々な企業が、クラウド化を視野にブラウザベースの仕組みの提供を始めています。

■髙木 一般企業で普及しているVPNですが、認証を経てVPN接続が許可されると、社内ネットワークが丸見えになるので、VPN装置が不正アクセスを許せばやりたい放題にやられてしまう点や、自分がアクセスするべきでない情報にまでアクセスできてしまうという点も問題視されています。今後はVPNではなく、システムや扱う情報の重要度ごとにアクセス制御も必要になっていくでしょう。

 

共同調達で割り勘効果

--統合型校務支援システム実証事業では、共同調達のメリットや円滑な調達手法についても検証していました。

■髙橋 県が主導する共同調達で統一した仕組みを導入することは、小規模自治体にとって導入時の費用だけではなく、調達や公告、審査などを個別に行う必要がなくなるなど、時間的事務的なコストメリットも大きいことがわかりました。

校務支援システム導入の際には有識者を揃えて選定委員会を実施することが多く、中には選定委員を集めることが難しい自治体もありますので、価格以外のメリットも大きいようです。

■江本 弊社の仕組みはもともとクラウドベースで開発したこともあり、サーバ資源がコンパクトな点が特徴です。一つのシステム、データベースで多数の学校、自治体を統合管理できるマルチテナントアーキテクチャーであり、最大規模では300校、14万人の児童生徒を一括で管理しています。導入、運用コストの割り勘効果は大きいものがあります。構築そのものも非常に短期間で可能です。

■髙木 その仕組みであれば校務基盤そのものを仮想化しやすいですね。弊社の仕組みと相性が良さそうです。

■髙橋 「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」では次の改訂が進んでいます。クラウド・バイ・デフォルトになった際に、校務系と学習系の切り分けをどう考えていくのかがポイントになります。それに伴い必要になるのが、情報資産の分類です。これを明確にすることで、新しい情報管理の可能性が見えてくるでしょう。

子供にデータを紐づけ、その子供に関係する教職員がデータにアクセスできる仕組みを構築することで、より有効にデータ活用ができると考えています。

GIGAスクール構想の次には、BYODがあり、PCのスペックに左右されず、どんな環境でもセキュリティが保たれることが重要視されます。そうなれば、兄弟姉妹のおさがりPCの使用も可能になるかもしれません。危険なものに触れて実感することの経験も必要であると考えれば、万が一リスクのあるサイトにアクセスしたとしても情報漏えいしない、不正アクセスされないという仕組みが必要になります。

校務情報に教員の個人PCで接続してもセキュリティ面で安心という仕組みが次の段階ではないでしょうか。

■髙木 クラウド側にゲートウェイを設置したり、セキュリティゲートウェイのサービスを利用してクリックしたときにリスク度合いに応じた注意を喚起する仕組みを実現できれば理想的ですね。

リスク低減には様々な方法がありますが、弊社では、在宅ワークを安心して安価にできる仕組みの提供を目標に提案しており、県教育委員会からの案件も増えていることから、手応えを感じているところです。今後も、安全な環境を安価に構築する工夫を幅広く提案していきたいと考えています。

■江本 ここ12年で都道府県単位の校務支援システム導入・活用がかなり広がっているという印象を持っています。自治体全体で児童生徒のデータを連携して管理する、という姿は本来あるべき姿なのではないでしょうか。小中高等学校のデータがすべて連携されて引き継がれる仕組みを構築するためには、都道府県単位の支援が必要で、クラウド活用が必須になっていくと感じています。

■髙橋 休校は続く、しかし学び残しがないようにしなければならないという大変な時代になりました。

データにアクセスしたり連携したり、そのための安全を図ったりするために最も重要なことは、データの電子化です。紙からの脱却を改めて検討してもらいたいところです。

事業者の方には、財政難にある自治体でも導入できる仕組みの提案を期待しています。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年5月11日号掲載

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