文部科学省「エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」、総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」の合同成果報告「学校における先端技術・データ活用推進フォーラム」がオンラインで開催され、2017年度から取り組んでいる実証地域5か所(福島県新地町、東京都渋谷区、奈良県奈良市、愛媛県西条市、大阪府大阪市)は、成果や事例を報告した。アンケートの仕組みは各自治体によって異なるが、各自治体とも、校務情報と児童生徒のアンケート等を紐づけて要支援の児童生徒を見つけ、さらに詳細情報を確認して情報共有を行い、学校ぐるみで取り組んでいる。本来であれば見落としやすい児童生徒--落ち着きがあり真面目で、問題なさそうでありながら、自己肯定感が極端に低く、クラスから孤立している等の生徒を、「データ可視化システム」は見逃さない。
各実証地域では「様々な情報を紐づけることで、見落としがちな児童生徒に迅速に支援できた」「確かな根拠を示すことができ、情報共有が進んで学校改革につながった」「中身の濃い資料作りが以前より短時間でできた」などと報告した。
文部科学省実証事業推進委員会・総務省実証事業評価委員会の委員長である清水康敬氏(東京工業大学名誉教授)は「小学校では、データ可視化システムの活用度が多い学級担任ほど、児童の肯定的な回答(先生は自分を理解してくれている等)が多い。また、管理職が可視化システムを使ってマネジメントしている学校では、教員のデータ可視化システムの活用度が高く、児童生徒の満足感も高い」と分析。「データ可視化システムは学校マネジメントに大きな役割を果たす可能性がある。GIGAスクール構想環境において大いに役立つ仕組みである」と話した。
データ活用が学校に定着している。教員同士の会話や交流も豊かになり、時間的にも心情的にもゆとりが生まれ、質の高い一日をスタートできるようになった。児童生徒を中心に据えた学校になり、様々な先生が自信をもって行動できるようになった。
朝、教員は出勤後、学級ボードにアクセスして子供のアラート情報や保護者からの欠席連絡を確認。アラート情報は赤字で示される。気になる児童の情報ボードに推移して確認。その後、教室に行き健康観察や出欠をとる。児童は1人ひとり教員の前で「心の天気」(晴れ、曇り、雨、雷)を入力。児童の気持ちを表現する重要なコミュニケーションの場になっており、わずかな変化に気付きやすくなった。変わった瞬間を見逃さないことは教員の仕事だ。
授業前はジタルドリルで自主的に学習。その間、教員はクラス全体の心の天気や習熟度を確認して授業に臨む。
単元の仕上げのデジタルドリルでは、その子に応じた問題が出題される。自作教材も提供し、串刺し採点ができるので業務も短時間にすむ。
放課後は「いいとこ見つけタイム」を設定。各教員が子供の発見や気づき、気になる点を入力する時間とした。委員会やクラブ活動の子供の様子も入力してデータとして蓄積している。
このほか単元テストの結果や1人ひとりのテスト結果から、弱みを分析。指導改善につなげている。
これらの取組を「次世代学校支援事業ガイドブック」にまとめ、今後全管理職やCIOに配布する。
今年9月には、全419校(16万5500人)分の児童生徒ボードを提供していく考えで準備を進めている。
中学校入試前には、心の様子をつかむことができ、声かけも変わった。
データ可視化システムにより、1人の子供を多くの教職員が見ることができ、共有しやすくなったことで、教員にしかできないことに時間を使うことができる。
OJTにもつながっている。
大量にあるデータを十分に生かしきれていない、学習過程を一貫して見とれる仕組みがないなどの課題から4種類のデータ可視化システムを構築し、授業・指導改善に取り組んだ。
校務系(名簿情報、成績情報、日常所見ほか)、児童生徒アンケート、児童生徒の学習成果物、思考の履歴等、デジタルドリルの活用・理解状況(協働学習支援システム)のデータを連携し、学力テストや学習意欲アンケートの推移をビジュアルで確認できるようにしている。また、顔認証によるログインで、システムにアクセスしやすくした。出欠情報や日常所見情報などは教員用タブレットから入力できるので教室でもすぐに入力できる。
保護者懇談会では可視化システムを使って面談用資料を作成。
入学時、自己肯定感が低かったが部活動や学習での成功体験を積み重ねて主体性や協調性が向上したことや日常所見情報の蓄積による行動意欲のグラフの推移、各教科の成績のグラフの推移から今後の課題を示して手立てを示唆するなど、主観性に頼らない説得力ある説明をすることができ、成長の本質を伝えられたという実感があった。保護者の信頼感も高まった。
行事ごとに認め合い高め合う仕組みとすることで、要支援の生徒が2学期にリーダーに立候補する事例が報告されている。
学力も目に見えて向上した事例もみられた。学習意欲アンケートから分析して伸ばしたい資質能力を決め、課題を抽出して目標に設定。社会科で取り組み、ワークシートも工夫していた。
教員は、データ可視化システムにより、よい授業や面談ができたことを実感しており、データ入力の手間についての負担感が解消していったようだ。
新地町では校務支援システム上の出欠席情報・保健室来室状況等とWebQU、発言マップ(教育クラウド「まなびポケット」上で活用)を紐づけてデータを分析している。
落ち着きがあり要支援に見えないが、「発言マップ」では受け取るコメント数が少なく、アンケートの詳細情報には「クラスにいたくないと思うことがある」等を感じている児童に対して、学び合いの授業などで、これまで関わりの少なかった人とのやり取りを促して人間関係を広げる、良さを認める声かけを意識して行うなど支援。数か月後にその児童は「学級生活満足群」にプロットされた。
不登校児童については、デジタルドリルの自宅での取り組み状況などを確認。校内SNSでアドバイスを継続し、登校日数の増加がみられた。
データの蓄積により、養護教諭やスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)との連携も効率化。保健室の来室状況や会話内容もデータ化している。養護教諭やSC、SSWも可視化システムで授業の様子を把握できるのでカウンセリング等で成果を上げやすい。
データの蓄積により、課題が明確になるため、ベテランのノウハウをデータ活用により担保できる。
職員全体で共有しやすいため、組織ぐるみで取り組みやすい。話し合いも活発になり、チーム学校の第一歩になると感じている。
LTEのタブレットPC約9000台(予備機含む)を配備している渋谷区教育委員会(小学校18校、中学校8校、児童生徒8200人、教員700人)は、「これまで紙で行っていたことがデータ上ですべて閲覧でき、さらに連携して分析できる」「システムに誰でもアクセスできることが重要」と報告。
定期テスト結果と生活面のデータ(出欠情報、保健室来室状況、タブレットの深夜利用などの利用状況)を分析したところ、成績が低い、保健室来室頻度が多い学年が明らかになり、学年全体の指導や個別指導につなげ、生活習慣や授業態度の改善が見られた。
自尊感情測定尺度アンケート結果(東京都)の結果とも連携。
設問全22問を4尺度で回答するもので、夏休み前に実施した。自尊感情の有無は、三角形の大きさにより一目でわかり、指導のポイントも示される。これまでも行っていたが、可視化システムではアンケート集計からデータ取得まで自動で実施できるようになった。
クラス別一覧では、指導に必要であろうと思われるデータを一覧化。一見問題がないように見える生徒でありながら自尊感情の低い生徒がいることを教員が報告。1人の教員の気付きが可視化システムで裏付けられることで、支援の必要性を学年全体でスムーズに共有でき、手立てを考えることができた。アラート機能により、若手の教員も会話しやすくなり情報共有が進んだ。
教職経験10年未満が全体の50%以上を占める奈良市では、教員の経験のみではなくデータ活用が重要であると考えて本事業を開始。「学び残しなし」「問題点課題の早期発見」「教員の指導力向上」を目的に進めた。
学年・学校種を超えて出欠情報、アンケート結果、学習記録情報を参照できる仕組みを構築。口頭や指導要録による引継ぎは児童生徒の長期的な変化が捉えにくかったが、可視化システムにより過去の調査や日常所見情報をすぐに確認している。
奈良市では、家庭生活、学校生活、授業評価、自我意識等を計測する全32問のアンケートを学期末に1度、合計3回行っており、進級後にネガティブに大きく変容した児童について粘り強く支援することで11件中8項目の改善が見られた。これまで、テストやアンケートを共通化していなかったが、実証校では共通のテスト(全市統一の単元テスト)及び児童生徒アンケートを実施。50%以下を「学び残し」のある児童と定義し、学年が始まる4月に、「学び残し」の状態を学級、学年、クラスごとに確認。年度当初から、児童の実態に合わせた指導や手立てを行うことができた。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年4月6日号掲載