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教育ICT

0歳から18歳まで切れ目ない支援~日野市の特別支援教育

2020年4月6日
宮崎芳子氏

宮崎芳子氏

東京都日野市では、日野市発達・教育支援センター「エール」が中心となって特別な支援を要する0歳から18歳までの児童生徒情報を「かしのきシート」として一元管理・共有。「すべての子供に切れ目なく適切な支援を提供する」ことに取り組んでいる。「かしのきシート」をどのように運用・活用し、成果を上げているのか。「エール」の宮崎芳子氏に聞いた。

幼稚園・保育園・小中学校・エール等75拠点で情報共有

文部科学省は2006年、学校教育法の一部を改正して特殊教育を特別支援教育と改め、各学校に「特別支援教育」の推進を位置付けた。特別支援教育では、従来の特殊教育対象の障害に加えてLDやADHD、自閉症スペクトラム等を含む障害がある児童生徒1人ひとりのニーズを把握する必要がある。

例えばLDは「学習の仕方」、ADHDは「刺激の量」、自閉症スペクトラムは「場が構造的であるか否か」という「状況」に左右される傾向があると言われており、それぞれの児童生徒の状態に適合した支援が必要だ。

そこで日野市でも2005年、「特別支援教育あり方検討委員会」を立ち上げた。2011年にスタートした「切れ目のない支援検討委員会」で児童生徒の支援情報を管理・共有するあり方を協議する中で「かしのきシート」等の検討も着手した。

「かしのきシート」とは、児童生徒の成長記録やサポート内容を1年ごとに2枚のシートにまとめたきめ細かい支援情報だ。

教育・発達に係る支援を一本化した日野市発達・教育支援センター「エール」開設から3年後の2017年には、幼稚園・保育園・小中学校と連携。現在は、計75拠点において、「かしのきシート」を共有。これまで、関係機関と行政部署が別々に把握していた子供の情報を、出生時から、保育園・幼稚園、小・中学校における成長の様子や支援を受けた内容を1年毎にシートにまとめ、市内統一様式による一貫性のある支援と瞬時の情報移行ができるようにし、教員の作業負担を極力少なくなるようにした。

これにより、0歳から18歳までの切れ目ない支援が可能になった。

エールは、園から小学校、小学校から中学校、中学校から高等学校など、学校種が変わる際の情報移行作業をサポートする役割を果たす。保護者は、上の学校に行くたびに、もしくは学級担任が変わるたびに一から説明をしなくてもすむ。

かしのきシートの登録者は、現在、かしのきシートを利用している3歳から18歳までの児童生徒約2000人。3歳から18歳までの約2万6000人のうち7・6%にあたる児童生徒が利用していることになる。閲覧は、該当児童生徒が所属する学校・園とエールのみで可能だ。

登録情報は保護者の同意のもと30歳まで保管する。

昨年は大学入学時に「かしのきシート」を利用する保護者もいた。

「個別の教育支援計画」の元となる指導計画等を校務支援システムで作成し「かしのきシート」に転記・補足。重複作成・重複管理をなくした

「個別の教育支援計画」の元となる指導計画等を校務支援システムで作成し「かしのきシート」に転記・補足。重複作成・重複管理をなくした

統合型校務支援システムが円滑なデータ連携を後押し

このうち小中学校のデータは、統合型校務支援システム「EDUCOMマネージャーC4th」のサーバで保存・管理している。

2006年から、当時の市長の強い思いで「日本一のICT活用教育」を重点施策に掲げて取り組んでおり、ICTの授業活用や校務支援システムの導入に着手。宮崎氏は当時、ICT推進モデル校の潤徳小学校で校長を務めていた。今以上に「手書き」に愛着を持つ大人が多かったが、校務の情報化や通知表の電子化を進めた。

「かしのきシートの仕組みをスムーズに構築できたのは、早期から統合型校務支援システムで児童生徒の情報をデータ化して記録し、共有していた点が大きい。各学校では、統合型校務支援システムで既に個別指導計画をデータ化しているため、それをかしのきシートとして少し作成し直せばよかった」と話す。

2016年には特別支援教室のモデル事業にも取り組み、その成果も統合型校務支援システム上で共有。特別支援のための配慮は、他の児童生徒にとっても良いことであると考え、学校のユニバーサルデザイン化「ひのスタンダード」を構築するなど、具体的で効果的な支援に関する情報の蓄積と日野市全体の教育環境向上につながった。

かしのきシートは前年度末に作成

前年度末、統合型校務支援システム内に個別の教育支援計画「かしのきシート」を作成し、学年始めの打合せの際には、「EDUCOMマネージャーC4th」の「いいとこみつけ」の顔写真を見ながら必要な支援を把握するなど情報を共有している。

「顔写真を示しながら情報を共有できるので記憶に残りやすい。『いいとこみつけ』の1人ひとりの良いところを見つけて伸ばしていく、というコンセプトは特別な支援に重要な視点。これまでも共通理解をしていたが、『いいとこみつけ』という具体的な項目があることで、特別支援学級やステップ教室(各校の通級教室)、リソースルーム(通常学級からの取り出し指導)の教職員を含め学校・地域全体に『良いところを見つけよう』という雰囲気づくりに貢献した。個別指導計画の中身の充実にもつなげたい」と話す。

2007年に1校から始まった市独自の事業であるリソースルームは、「学習の保健室」と呼んでいる。

2学年程度まで指導をさかのぼる必要がある児童生徒が対象で、原則「週2時間以内」で実施。「週1時間程度で大きく変わる」という。個別の状況に合わせて指導するため、達成感が大きく、自己肯定感の醸成に大きな役割を果たしている。

「良いところを見つける、という意識が学校全体に行き渡っている学校では、通常学級からクラスの仲間がリソースルームに行く際、『頑張ってきてね』と温かい雰囲気で送り出している。子供たちはリソースルームがダメだから行くところではなく、違う方法で頑張るために行く場所である、と理解している」と話す。

キャリアパスポートも視野に

現在、高等学校に「かしのきシート」の情報をつなげており、「今後はふり返りシートなど個別の情報も取り込みキャリアパスポートにつなげることも考えたい」と語った。
▼エール(日野市発達・教育支援センター)TEL 042・589・8877

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年4月6日号掲載

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