eスクールステップアップ・キャンプ2019西日本大会が1月18日、岡山県倉敷市で開催され、多くの教育関係者が参集した。主催は(一財)日本視聴覚教育協会、日本視聴覚教具連合会。当日は文部科学省の基調講演や先進自治体のパネル討議、模擬授業、情報モラル教育指導者セミナーなどを実施。デジタル機器を使ったポスターセッションでは西日本の教員が実践を報告。GIGAスクール構想を始めとするICT環境整備についての文部科学省相談コーナーも設けた。
デジタルポスターセッションでは15人の教員が特色ある事例を報告した。
竹田小学校(兵庫県)は2019年8月、各クラスに大型テレビと授業者用タブレットPCが整備され、児童用iPad64台、PC室に34台のノートPCを活用している。授業者用タブレットPC(Windows)には授業支援ソフトが導入されており、児童用iPadを制御できる。
國眼教諭は、毎日発行している学級便りに掲載している写真にスマートフォンをかざすと、モノクロの写真がカラーになったり、写真の動画を視聴したりできる「動く学級便り」の実践を報告した。
保護者は学級便りにスマホをかざすことで、英語のExerciseや国語の音読、体育の演技の様子など各教科の活動の動画を見ることができる。クラスや子供の様子がわかり、保護者は学級便りを、これまで以上に楽しみにするようになった。日々の授業の様子を視聴することで授業への関心も高まり、保護者との絆はさらに深まった。
子供たちは「学級便りに動画で掲載される」ことを意識するようになり、さらに活動に熱心になり、宿題忘れや準備忘れも減少した。
この仕組みは、ARアプリ「マチアルキ」(東京書籍)を活用したもの。写真や動画を専用サイトに登録し、動画が起動するように写真等とひもづけることで、「写真にスマホをかざすと動画が起動する」ことが可能になる。AR動画の効果は学校全体にも広がり、毎週発行している「理科だより」では、担当教員が、授業の様子や科学イベントの楽しさを伝えている。研究会でもAR動画を利用するようになった。
次年度も同様の取組を継続できるように準備中だ。
國眼教諭は「『マチアルキ』は動画を簡単にアップロードできる。多くの保護者がスマートフォンを持っているのでとても有効。動画は10秒程度が適当。契約内容によって容量に制限があるため、動画は数週間程度で削除する必要がある」と報告した。
鹿児島市では全普通教室に、大型提示装置、タブレットPC、実物投影機、無線LAN、無線画面転送装置を配備しており、鹿児島市教育情報ネットワーク「KEIネット」から、デジタル教科書やNHK for Schoolなどのデジタル教材を活用できる環境だ。
錫山小中学校(鹿児島県)は、鹿児島市内山間地で市内唯一の小中併設校だ。校舎の2階に小学生が7人、1階に中学生6人が学んでいる。同校の新里教諭は、中学校英語で、「英語で鹿児島県の観光名所を紹介し、そこでの自分の経験を発表する」実践について報告した。
英語プレゼン作成にあたり、NHK for Schoolのプレゼンテーションなど情報活用や英語学習に関する動画一覧を学習活動とルーブリックに整理して生徒に渡し、生徒は必要な情報等を選択して視聴。プレゼン作成や発表に役立てた。
生徒の英語によるプレゼンはYouTubeに限定公開しGoogleフォームで視聴して外部評価を行えるようにした。
外国人、日本人計40人が視聴して、2項目を5段階で評価。多くの人から多様な評価を受け、生徒は英語学習に対する意欲が向上した。
高梁市立高梁小学校(岡山県)では2018年度に無線LANが整備され、今年度から本格的に活用。2019年8月にはタブレットPC70台、電子黒板が6台整備されており、児童のタブレットPC活用が始まっている。同校の長谷川一馬教諭は4年生を対象に総合的な学習の時間で「バリアフリーを学ぼう」で「高齢者の方に役立つ自動運転車つくり」に挑戦。KOOV(ソニー)でプログラミング体験を行った。時間は7単位。
KOOVをモーターで走るようにし、モーターの動きをプログラミングした。
初のプログラミング体験だったが、ふり返りでは「プログラムする順番には何通りもあることに気づいた」「何度も繰り返しながら思い通りに動かすことができた」など、プログラミング的思考にかかわる学びが多くみられた。
岡山県総社市ではICTスクールサポーターを民間企業に依頼し、全学年で月に1時間程度、TT形式で情報教育を行っている。今年度はScratchなどのプログラミング学習を3時間程度行った。総社東小学校の竹井太郎教諭は、「未来の学びコンソーシアム」(みらプロ)による岡山郵便局と連携したプログラミング学習について報告。
本授業に入る前にICTスクールサポーターと協力してScratchを体験。レゴWedo2・0とiPadを活用して「安全なゲート式バー」をプログラミング。「児童が通るとゲートが開き、通り過ぎるとゲートが閉まる」仕組みを皆の前で実演し、盛り上がった。
なぜ安全なプログラムが必要かについても考えた。
この事前学習を踏まえて、郵便局を見学。大量の郵便物を早く正確に仕分けする仕組みとプログラミングの役割に気付いた。児童は「安全なプログラムを考えるためには何度も試し、工夫する必要がある」「安全を考えてプログラムされたものが世の中にたくさんある」などとふり返った。
岡山県勝央町立勝間田小学校は、県総合教育センターから教材の貸し出しを受け、プログラミング教育を実践。今年度は全学年で実施した。1年生は体育の時間に「ルビィのぼうけん」、2~5年生は学活・総合的な学習の時間に「コード・A・ピラー」、4年生は総合的な学習の時間に、「SpheroBolt」「RoBoHoN」、6年生は総合的な学習の時間に「Ozbot」を活用した。
同校の岡田あずさ教諭は4年生の実践を報告。勝央町の伝統芸能である和太鼓「金時太鼓」に取り組んだ際、調べ学習を実施。調べた内容を、ロボホンをプログラミングして保護者に発表した。
岡田教諭は「かわいい動きをする人型ロボットにとても愛着をもち、試行錯誤しながらも楽しく学習に取り組んでおり、満足感や達成感を味わうことができた。児童にとってさまざまなプログラミング機器に触れることは大変魅力的。来年度も全学年で取り組みたい」と報告した。
パネル討議では堀田博史教授(園田学園女子大学)がコーディネータとなり「教育クラウドの可能性と今後の展開」について討議した。パネリストは文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室の小林努氏、西条市役所総務部ICT推進課の渡部誉氏、箕面市教育委員会子ども未来創造局教育センターの川畑寛明氏、倉敷市教育委員会倉敷情報学習センターの尾島正敏氏。
堀田教授はパネル討議のテーマ「教育クラウドの可能性と今後の展開」について、「クラウド・バイ・デフォルトはハード設計の大きな要件の1つになった。改訂された『教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』にも、ネットワーク経由でどこからでもアクセスできる環境を前提とした記述があり、クラウド検討のためのプロセスを示している。今後は、AI技術を有効に活用するためにもデータの集積が求められており、それが可能となる環境構築を目指していくことになる」と話した。
パネル討議では、倉敷市、箕面市、西条市のICT環境と、教育クラウドの構築及びサービス提供の現状、今後の展開や他地域に対するアドバイスを話した。
2018年2学期から校務系・学習系を物理的に分離。学習用サーバをクラウド上に構築して授業の効率化を目標にICT環境を整備した。学習系クラウドはMicrosoft Azure。デジタル教科書や授業支援ソフトなどをシングルサインオンで活用している。校内のみで閲覧できるフォルダ、箕面市内全学校が閲覧できるフォルダなども設定。授業用フォルダは、教員と生徒が共有。ワークシートの配信提出などができる。USBは使用不可とし、Azure上に「仮置き場」を設置して自宅からもアクセスできるようにした。この仮置き場は2要素認証とし、3日程度でデータは自動で消失する。
現在小学校4~6年生で1人1台端末環境とし、小学校3年生以下は学年につき40台。中学校は実証校に1人1台端末を導入して次年度整備の準備を進めている。
学習用として教育委員会が認めたアプリ(マインクラフトほか)サイトを構築。各校で自由にインストールして使用できるようにしている。
Teamsを使ってニュージーランドと授業交流をしており、今後も継続していきたい。
導入が比較的スムーズだったのは、総務部情報政策室が教育センターと兼務して整備を進めた点が大きい。
2015年度より教育システムをクラウド上で統合化。VDI基盤や Active Directoryによる認証基盤など、教育クラウドへ安全にアクセスするためのゲートウェイのみを市役所のオンプレミス環境に構築。教育、校務で利用するシステムのほぼすべてをAzure上に構築している。クラウド上にバーチャルデスクトップを構築。仮想デスクトップの仕組みによりテレワークも可能で柔軟な活用が可能。
他自治体へのアドバイスとして渡部氏は「安易に構築するとオンプレミスよりも高価になるので人件費を含めた中長期的なトータルコストで検討、交渉すべき」と話し、クラウドのメリットを以下に整理した。▼利便性=どこでも切れ目なく使える ▼安全税=安全・安心に活用できる ▼柔軟性=利用者に応じて対応できる ▼経済性=コストを抑えることができる ▼可能性=共同調達や共同運用が可能
今後倉敷市ではプライベートクラウドを2020年3月から運用予定。働き方改革の一環でペーパーレスを目指す。健康観察や出退勤管理などをタブレットで集積することを考えている。現在はマークシートをスキャナで読み込んでデジタル化する方法を試行中。教員の仕事を支援するAI活用を目指す。変化に積極的ではない教員もいるが、それを変えていくのが教育委員会の仕事であると考えている。
堀田教授は「箕面市も西条市も首長部局と教育センターの連携が円滑にとれていることで、早期に導入が実現した。今後、両者の連携は必須になりそうだ。システムの移行期にデジタル・アナログが共存すると、デジタルのメリットが生かされにくい点をどう進めていくかが課題。都道府県と域内の市区町村による共同調達によりコミュニティクラウドが実現すれば、各学校の特性をさらに伸ばしやすい環境が生まれるのではないか。数十年に1度ともいえる教育改革で理想とされる環境が構築されることを願っている」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年2月3日号掲載